PH-047 雪原を越えて村に行こう
ログハウスの集会場に集合時刻の5分前に向かう。柵が出来たから私服で向かったが、M29だけは持っていくことにした。冬とはいえ、周囲にいるのは俺達だけだからな。
ログハウス風の2階建ての1階が集会場だ。大きな薪ストーブが中央に置かれている。ストーブの周囲は、コの字型にテーブルが配置されている。先客が2人、コーヒーを飲みながらタバコを吸っていた。そのテーブルの端に座ると、お姉さんがマグカップのコーヒーを運んでくれた。
一辺が10m程の集会場には4本の柱が部屋の中に立っているけど、上階を支える以上撤去は出来ないと言ってたな。ちょっと邪魔な感じがするんだけどね。
扉が開き何人かがやってくると、俺達と同じようにテーブルを囲む。最後に、厚手のセーター姿のレブナン博士が入って来る。これで全員なんだろう。
「集まってくれたわね。一応明日からの役割分担を決めるわ。
ケリーの方は、周辺警備をお願い。警備方法は任せるけど、300m以内に危険種が近づいたら警報を鳴らして頂戴。警報が鳴ったら、集会場に全員集合。私の指揮下に入ってもらうわ。
ドリネンはスノーモビルの準備をして頂戴。明日、村に行ってみるわ。
ミリアネスは時空間ゲートの調整をお願い。向こうのギルドと連絡を密にしてね。この砦の必要品の購入手配は任せるわ。
カテリナはラボの準備をお願い。まだ荷を解いていないから、コンテナに整備して欲しいわ。
バンター君はアルビン達と私を村に連れて行ってほしいわ。確か、これを売ることができるんでしょう?」
そう言って、テーブルの上に前装式のカートリッジを入れた袋を乗せた。
「5個で25Cの値で引き取ってくれるはずです。いくつ持って来たんですか?」
俺の言葉に100個入りを4個と答えてくれた。
俺達も、100個を渡したばかりだぞ。あまり持っていくのもどうかと思うな。
「たぶん【呪文】を買うためだと思いますが、ギルドに卸しています。通常、彼らが購入する5発分の火薬と弾丸の購入価格が15C。それを5発分で25Cで購入して貰い、ギルドは30Cで販売します。あまり売れるかどうか……」
「それは、行ってみないと分からないわね。バンター君達の残金はどれ位あるの?」
「銀貨30枚はあるはずです。それなりに薬草を採取して報酬を得ましたから」
「アルビン達は明日までにどの【呪文】を得るか決めなさい。バンター君に私が一時的に借金するわ。少なくとも1つは手に入るわ。2つ選んでおいて優先するものを決めれば良いわ。カートリッジが売れれば2つ、売れなければ1つよ」
「ありがとうございます。そうなると、この地で商売をしたくなりますね」
「ダメよ。文化レベルが違いすぎるわ。ギルドにクギを刺されてるの。この地で私達が彼らに売れるのは彼らの銃に合わせたカートリッジのみ。後はこちらのギルドで依頼をこなして稼ぐ外に手はないわ」
「俺達とバンター達で交互にこなせば、それなりというわけですか。ですが、1つ問題がありますよ。俺達の食料の入手方法です」
「携帯食料を大量に準備したという事にするわ。ヤグートⅡを彼らは見ているから、信用すると思うけど?」
そうは言っても、少しは購入せねばなるまい。畑を作って耕す真似をしても良さそうだな。トマト辺りを作っても良さそうだぞ。
「1つ良いですか。彼らは俺達が東からやってきたと信じています。ひょっとして東に大きな都市があるかも知れません。この周囲100km程の地図は作りましたが、調査を円滑に行うなら広範囲の地図が必要です」
「だいじょうぶ。準備してあるわ。飛行船を改良して滞空時間を大幅に増やしたわ。高度5千mを3か月飛んでいられるわよ最高速度は120kmだから、この世界を1周することも出来るわ」
砦が完成してから送って来るつもりでいたようだ。そうなると、この世界の動植物の分布が割と早く分かるかも知れないな。
・・・ ◇ ・・・
次の朝。集会場で朝食を取ると、村に出掛ける準備を始める。
防寒用の服に着替え、防寒ブーツに毛皮で裏打ちされた帽子を被りゴーグルを着ける。毛糸の手袋の上に皮製のミトンをして背中にベネリを背負った。エリー達はAK80を背負っている。砦の広場にスノーモービルがエンジンをアイドリング状態にして準備されていた。俺とエリーはスノボーを持って後方につく。2台のスノボーの片方にレミ姉さんが乗り後部座席にレブナン博士が乗り込む。もう1台はアルビンさん達が使うようだ。2人はスノーモービルの座席に座れるけど、残りの2人はスノーモービルにつけたロープを持って引いてもらうのだ。
途中で転ばないようにしないとな。そんな心配をしているのは俺だけのようで、アルビンさん達の方はジャンケンで負けた者がスノーモービルに乗るようだ。
「準備は良い? 出掛けるわよ!」
レブナン博士の声に俺達が片手を上げて答えたところで、レミ姉さんが乗るスノーモービルが動き出した。
グイっと腕を引かれるような感じで、俺とエリーが引かれていく。しっかり握っていないとバランスが取りずらい。人が歩くより少し早い速度でスノーモービルは村に向かって進んで行った。
途中に小川と堀があるのだが、この季節なら凍っているから落ちることも無いだろう。雪原に出ると速度が速くなった。エリーは左右にS字を描きながら引いてもらっているぞ。危なくないんだろうか?
村が遠くに見えた雪原のど真中で一休み。ポットに入れた暖かいコーヒーを飲む。俺とアルビンさんは風下で一服しながらだ。
「だいぶ大きな村だな」
「それでも戸数は50程度ですよ。冬場はハンターも少ないですから500人位でしょう。春になれば100人以上のハンターが村にやってきます。睡眠学習はだいじょうぶですよね。俺達の言葉は通じませんよ」
「ああ、だいじょうぶだ。向こうでも一度やってきているし、夕べも学んでおいた。ハンター登録位はだいじょうぶだろう。だが、通じないときはよろしく頼むぞ」
俺達は1回でOKだったから、2回もすれば十分だろう。
再びスノーモービルに乗って、村の北門を目指して進んで行く。
村の門は日中は両方とも開いているのだが、冬場はさすがに片方しか開いていない。村の広場に入ったところで、慌てて俺達が残してきたストーブで暖を取っていた門番がやってきた。
「お久しぶりです。バンターです」
「お前らか? 元気で何よりだ。変わったのに乗って来たな。人数が増えてるところを見ると、仲間を探し当てたようだな。まあ、ゆっくりして行くが良いぞ」
俺達を心配していたようだ。そんな門番にスノーモービルとスノボーを預かってもらい、ギルドに足を運んだ。
ギルドの扉を開けると暖炉近くにいたハンター達が一斉に俺達を見る。
早速、ゴランさんが俺を手招きしているぞ。
手続きをレミ姉さんに頼んで、ゴランさん達のところに向かった。開けてくれた椅子に座ると分厚いジャンパーを脱いで手袋を外す。
「どうやら見つけたようだな。連れてきたのはハンターか?」
「30人程です。俺達と同じハンターがいましたので春前に手続きを済ませようと連れてきました。俺より上のレベルなんですが、こちらのギルドでどのように評価されるかは分かりません」
「同じハンターなのに狩るものが違うからな。まあ、前のランクは早く忘れるこった。こっちはこっちの流儀があるからな」
初めて見るハンターがそう言ってるけど、俺の場合はこっちの方が高かったんだよな。
「砦も目途が立ったという事か?」
「どうにかです。かなり大型のもので来たようですから、森の伐採と運搬は楽でした。今は砦の中を作っています。後2か月もあれば過ごしやすくなりますし、大型の銃も数丁ありますから、ダイノスの大型が来ても何とかなると思っています」
そんな話をしているとエリーが歩いてきた。
「お兄ちゃん。教会に行ってくるよ。帰りに食料を買うって言ってた。カートリッジをギルドが買い上げてくれたから、春先まで食料は何とかなるみたい。帰りに寄るからね」
バイバイと手を振って皆と出て行った。
「カートリッジを持ってきたのか。100個としても、1つのパーティで15までなら良いだろう?」
「10までだ。罠猟をしてるやつらもいるのだ。彼らだって銃を持っている」
ゴランさんの言葉に、何人かが腰を上げてカウンターに向かった。
「あのカートリッジだが、皆が欲しがっている。春にはもう少し数が欲しい」
「何とかしておきます。となるともう1つの方もですか?」
「持っていれば譲ってくれ」
魔法の袋から予備のスラッグ弾とダブルオーバッグの散弾を10個ずつ取り出してテーブルに乗せると、ゴランさんが銀貨を2枚と、空の薬莢を12個取り出した。
薬莢の数だけという事だったが、すでに12発も使っているなら少し数が多くても良いだろう。銃弾を不当にため込む事が無いように言っただけだし、レミ姉さん達は知らない事だ。
「この銃を基に、こんな銃を作らせてみた」
銃弾を袋に仕舞って、新たにテーブルに乗せられたのは青銅製の2連銃だ。形を真似ただけではなく、ハンマーが2つあるのにトリガーが1つだからそれなりのカラクリを作れる技術を持っているのだろう。俺の持つM29はリボルバーだから原理はそれ程複雑ではないが工作精度が要求される。まだそこまでには至っていないんだろうな。
「良く作れましたね。これなら、砦も安心でしょう」
俺の言葉にゴランさんが苦笑いをしている。
この銃の最大の弱点を俺が見抜いたと知ったようだ。ただでさえ重い銃を2つ並べたような形だから移動しないで済むような場所でしか使えない。となると、砦や村の守りって事になるからな。
「砦に2丁、村に1丁だ。後一か月もすれば雪は解け始める。獣やダイナスが動き始める。バンターのところも、大型獣があるのだろうが春先は南からダイナスが動いて来るのだ。更に柵を強化しておけ。その時では遅いからな」
これは皆にに話しておいた方が良さそうだ。それに柵の見掛けも頑丈にしとかねばなるまい。
丁度、ギルドにレミ姉さん達が帰ってきたので、暖炉の周りのハンターに軽く頭を下げて、エリー達と合流した。
ギルドを去る時にはハンター達が片手を上げて挨拶してくれる。仲間として扱ってくれるのが嬉しいな。