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PH-042 時空間ゲートが開いた!

 前部席は半球状に防弾ガラスで囲まれている。一応、シートを掛けてはいるが床部分から光が漏れないように、ポンチョを床に敷いておいた。

 ヤグートⅡの下部に設けてある採取容器である中型シリンダーを外してテーブルの上に乗せてある。

 直径20cm長さ50cm程のステンレス製密閉容器のシリンダーだ。その中に、社外の保管庫から取出した小型のシリンダーに採取した薬草類をエリーが詰め込んでいる最中だ。小型のシリンダーは少し太めの試験管みたいだが、何とか球根ごと入れることができたようだ。元々が標本採取用だから、入らないと困るんだけどね。

 レミ姉さんはリストを仮想スクリーンに表示しながら、中型シリンダーに品物を入れている。やはり一度に全部は不可能みたいだな。首を振りながら断念してることも度々だ。

 村が寝静まるのは早いから、22時に外で一服を楽しんだときには真っ暗闇だった。門番でさえ小屋の中で仮眠を取っている最中のようだ。


「残り30分。そろそろ準備したほうが良いぞ」

「そうね。最初は相互の交換が可能かどうかですもの。残ったものは次にしましょう」

 諦め顔でシリンダーから2人が手を離したところで、容器の蓋をしっかりと閉めた。持ってみると10kg程度だ。これなら容易に時空間ゲートに投げ込めるだろう。試験的に設けるゲートだからそれ程大きくはないはずだ。


 エリーがゆっくりとカウントダウンを始める。俺と姉さんは前部席の中央から目を離さない。

カウントダウンがゼロになった瞬間、閃光とともに俺達の前に時空間ゲートが開いた。直径30cm程の小さなゲートだが間違いなくゲートに違いない。用意した中型シリンダーをその中に投げ込むと、ゲートに引き込まれるように消えていった。


「次は向こうからよ!」

 レミ姉さんの言葉に、無言で頷く。

 シリンダーを投げ込んで10秒後に、ゲートの鏡面からシリンダーが浮かんでくる。そのシリンダーを手に取ると、押し返すような力が俺に伝わってきた。

 結構長いぞ。少し後ろに移動しながらゲートを抜け出してくるシリンダーを保持する。

 どうにか、出てきたシリンダーは1mはありそうだ。両端に蓋が付いているから、中型シリンダーを2本連結したようだな。

 シリンダーがこちらに抜けて30秒もたたずに、ゆっくりとゲートの直径が小さくなり、消えていった。ゲート出現から消失まで1分程度だな。だけど、ゲートを1.5m程にできるなら、俺達は元の世界に帰れそうだ。


シリンダーをテーブルに持っていき、中身を確かめる。

片方からは、嗜好品が大量に出てきたが、もう片方は衣類と冬用の装備のようだ。コーヒーは出て来たが銃弾はないようだな。まあ、直ぐに無くなるわけではないから、少しずつ送って貰えばいい。


「とりあえず成功ね。解析は向こうでやるみたい。これで定期的な物流が期待できるわ」

「小さなものができるなら、大きなものも直ぐにできるでしょう。次のレブナン博士の指示が楽しみです」

「これだけあれば、キャンディーを配れるよ。私の事をジッと見てる子がたくさんいるんだもの」


 エリーのやつ、キャンディーで子供達を手懐けるつもりだな。だけど、草木の採取を手伝って貰えるならそれもいいかもしれない。

 衣類は冬用のインナースーツのようだ。その上に戦闘服を着れば冷夏20度まで動けるらしい。冬用の手袋も似た感じだ。通常の手袋の下に着けるらしい。

 耳まで覆える帽子とゴーグルも入っていた。冬も頑張って採取しろってことなんだろうか?


 レミ姉さんはシリンダーに入っていたクリスタルキューブを電脳で解凍している。かなりの情報を圧縮して送ってきたようだぞ。


「やはり時空間ゲートの安定性に難があるようね。時空間ゲートのビーコン波に他の変容波が紛れていると言ってるわ。現在はその変調波の周期的変化を観測しているそうよ。

帰還するには、時空間ゲートをもっと大きく、かつ保持時間を5分程にしてからみたい」

「欲しいものが手に入るなら、ここでも良いと思うよ。空気はきれいだし、食堂の小母さんのシチューやスープはあきがこないもの」


 俺もエリーに賛成だ。俺達の世界で何度も起こった大量絶滅が、この世界では起こらなかったようだ。おかげで中生代の生物が今でも活動している。大きな湖や、海にはアロマノアリスだっているんじゃないか? あちこち他の時代に向かわずとも、この世界だけでいろんな植物や生物を採取できそうだ。

・・・ ◇ ・・・


 クルトン村の人口は500人程らしい。何時もは50人程のハンターがいるらしいのだが、秋には100人以上が集まって来る。村の2つの宿屋は満員御礼だし、懇意の村人の家に泊まっているハンターもいるようだ。それでも不足するようで、南門の外に柵を作ってその中でテントを張って寝泊まりしているらしい。

 あまりにハンターが多いから、薬草については季節限定で商人との直接取引をギルドが許可しているようだ。登録料をギルドに払えば南門の内側にある広場に薬草を買い取る店を出せるとのことだ。

 登録料の一部は村に還元されるらしいから、村人も喜んでいるらしい。


「税金は村に掛かるからな。その一部に充当してるようだ」

「村人では無く、村にですか?」

 

 おもしろい税金の取り方だな。文化程度を考えると、収穫物の何割って感じになりそうだけどね。

「村人の全体責任だから、結構大変だ。ハンターの仕事も、依頼内容によって税を村に納めているのだ。簡単な薬草採取を行っただけでも3~5Cが村に還元される」


 俺を相手にパイプを咥えながらゴランさんが教えてくれた。

「そうなると、なるべくハンターには依頼書の依頼をこなして貰わなくてはなりませんね」

「そういう事だ。頑張って村に寄与してくれよ」

 笑いながらそう言うと、ギルドに入ってきたトネリさんに手を振る。


「ゴラン殿、お呼びですか?」

「ああ、柵はできたのか?」

「終わりました。あの場所なら、森から逃げても、草原で獣に襲われても役立つでしょう。気の利いたハンターなら、あの周辺で薬草を探すでしょうね。この冬は森の傍に砦を作ると聞きました。その時は是非声を掛けてください」


 そんな話をしてカウンターに向かった。トネリさんは何を狩ったのだろうか?


「中々に使える奴だが、人間族だからな……。あれ以上は無理だろう」

「やはり種族の持つ特徴ですか……」

「人間族は平均的だ。これと言った特徴もない。精々がレベル15前後で頭打ちになる。ダイノスを人間族だけで狩るのは、小型を1頭なら可能だろう。だが数頭を相手にするとなると銃がなければ全滅しかねない。カレンと一緒にダイノス狩りをしたな。あの時、ラブートが咥えていたのは人間族だけのパーティだ。骨が数個残っていただけだったそうだ」


 だが俺達は恐竜を狩れる。それは周辺の生物の動きを知る手段を持っている事と、強力な銃を持っているからに他ならない。

 そういえば銃があったんだよな。今度の時空間ゲートが開いた時に博士に送ってみようか?


 ヤグートⅡに帰ってから2人にこちらの銃の話をする。

「そうね。少し分からないところもあるの。あの銃、発火装置がどこにあるか分からないのよ。前装式の銃だから黒色火薬と言うのは分かってるんだけど、外のどこにも火皿が無いようなの」

「変ですね。強度不足も甚だしいですし、発火装置が不明というのは、やはり魔道具の一種と考えられます。次の便で、魔法発動時の呪文の発現記録画像と合わせて送ってはどうでしょうか?」

 

 出来れば魔法の袋も送りたいが、高いからな。俺達用として3つ手に入れたら、最初に貰った奴を送ってやりたいところだ。

 

「それで、何を送ってもらうの?」

「2連のショットガン。口径は12番が良いですね。竜人族やトラ族なら使えますよ。人間族や他の種族では力不足かもしれません」

「バレルを切り詰めるの? ダブルオーバックとスラッグ弾を使えばラプトルには使えそうね」

 俺達を利用しているようにも思えるけど、俺達だって見返りを与える必要はあるだろう。レブナン博士やプラントハンターギルドがどう判断するかだな。

 

 次の時空間ゲートが開いたのは10日後だった。直径は約30cmだったが、ゲートの維持は、1分と少し。最初よりは僅かに長くなっている。

 制御パラメーターを少しずつ変えながら調整しているのだろう。

 

 俺達が送った物は、植物のサンプルと、こちらの銃だった。向こうから送られてきたのは、新しい戦闘靴だ。エリーが喜んでるから、お菓子もたくさん入っているんだろう。タバコ10箱は俺が頂いた。


「やはり、この世界はかなり変わっているみたいね。向こうでは途中で絶滅した植物の進化種と思われるものもあったそうよ。それに、麦も送ってみたんだけど、やはり新種と分類されるみたい」

「ゲートが大きくなったら、真っ先に博士が飛び込んで来そうですね。前回よりゲートの開いた時間が伸びています。向こうも色々とやってくれているようです」


 大量絶滅が起こらなかっただけで、こうも生態系が異なるのか。大量絶滅を免れた生物や植物がその後独自に進化したってことだな。

 だが、それだけではないようだ。どう考えてもトカゲやネコ、犬が人間の姿をしていることは進化だけでは説明が出来ない。もっと大きな何かが作用したに違いない。

 古い文献や伝説を漁るしかないのかな? エリーと遊んでいる子供達を見ると、この村には学校も無さそうだから、本なんて無いのかもしれない。

 待てよ。ギルドで図鑑を貸して貰ったな……。編集、製本技術があるのであれば他の本もあるかもしれない。


「少し気になることがあるんです。この世界の種族の相違があまりにも違いすぎます。ギルドで博物図鑑を貸してもらいましたよね。あのような本が他にもあるかを調べてみます」

「そうね。彼らの歴史が分かるかも知れないし、文化の特殊性も見えてくる可能性があるわ。軍資金は少ないけど、銀貨10枚を渡しておくわ。それより高額な場合は、もう少し報酬を蓄えて購入しましょう」

「エリーは昔話の本が良いな。きっとあるはずだよ」


 確かに、昔話は良い着眼点だ。民間伝承をそのまま信じる者はいないだろうが、その根源にはそれが生まれた必要性があるのだ。その必要性を類推することで、過去の社会情勢まで考える事ができるだろう。



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