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PH-034 ラブート追跡

 ゴランさんの指示を了承したのだろう、改めて俺達にカレンさんのパーティの名前を教えてくれた。トラ族のバクトさんに犬族のラグネスさんだ。女性には当初見えなかったけど、カレンさんよりは丸みを帯びた体形をしているぞ。

 俺達も3人の名前を教えたのだが、種族不明にカレンさんは戸惑っていた。


「人間族だと思っていたが、違うようだな。種族の数は多いから、ギルドでも全てを把握する事ができないらしい」

「それで、ダイノスを狩ると先程言っていましたが……」

「そうだ。昨日村にやってきた奴を狙う。東の森の北部に痕跡があったことを追跡したハンターが確認している。とどめは俺達のパーティが差すつもりだ」


 バクトさんが俺の問いに答えてくれたんだけど、至近距離で改めて見ると迫力があるな。

「何を準備すれば良いでしょうか?」

「4日分の携帯食料と水筒、それに寝るための毛布があればいいだろう。武器は背中の片手剣だけか?」

「銃を3人とも持っています」

 レミ姉さんの一言で、一瞬3人の表情が変わったぞ。

「東から来られたのも、銃のおかげかも知れぬな。期待させて貰うぞ」


明日の朝、日の出と共に出発という事で、待合わせ場所は北門という事になった。

俺達はギルドを後にして、雑貨屋で携帯食料を買い込む。1人5日分で20Cというのは安いのかも知れないな。

 北門はすでに閉じていたが、門番に頼んで通れるだけ開いてもらった。ヤグートⅡに乗り込んで、直ぐに明日の準備を始める。


「明日は戦闘服で行きましょう。迷彩ポンチョを着れば村人の顰蹙ひんしゅくも受けないでしょうし」

「サングラスは多機能型にします。仮想スクリーンを開くわけにもいかないでしょうし」

「銃は持って行って良いんでしょ。私はMP-6を持って行くよ」


 

 3人で話をしながら準備を整える。結局、食料と食器はレミ姉さんがナップザックに入れて担いで行くことになった。水は3ℓのボトルを2本ナップザックに入れて俺が持つ。拳銃は各自が持って行くが、担いで行くのは俺がストックの落としたショットガンにエリーのMP-6だけだ。

 ラプトルの大きさが体高2mちょいだから、これで十分だろう。あの青銅器の銃で倒れたぐらいだからな。レミ姉さんの持つ357マグナムでも十分な気がするぞ。

 野宿をするようだが、ポンチョがあるからこれに包まれば十分だ。

 

「問題があるとすれば他の恐竜の存在ですね。中型ぐらいはいるかもしれません」

「意外と慎重なのね。一応、エリーが無人機で分布を調べた範囲では大丈夫よ」


 あまり考え過ぎるのも問題か……。物事を悪い方向にとってしまう。リスク低下には繋がるだろうけど、それなら何もできなくなってしまうからな。

 準備が終ったところで、明日に備えて早めに横になる。


 次の朝。目覚まし時計代わりの警報音で目が覚めた。

 装備を整え、朝食を済ませて外に出る。

「ちょっと待って。バンター君、これが使えるかも知れないわ」

 最後に下りてきたレミ姉さんが俺に渡してくれたのは、長さ40cm程の棒だった。直径は2cmも無いが、片方に2本の短い電極が透明なカバーの中に見えている。


「スタンガン?」

「チャージは終わってるわ。3回は使えるはずよ。先端の電極を押し付ければスイッチが入るわ」

 とりあえず頂いて、ベルトに差しておく。

 ポンチョを被って、エアロック室の扉の近くに置いておいた杖を手に取り、北門に向かって歩いて行く。

 まだ、門は閉じているが、もうすぐ開かれるだろう。

 柵にもたれかかって、タバコを楽しむ。やがて門の片方の扉が軋みながら開きだした。

 開いた扉から、レミ姉さんが村に入っていく。俺達もその後に続いて門をくぐった。


「なんだお前達か。外で待ってたなら声を出せばもっと早く開けたものを」

「おはようございます。俺達も少し前に門に来たところですよ。ここで狩りの待ち合わせなんです」

「こんなに早いなら、フェリルのパーティだな。それなら、そろそろ来るだろう


 果たしてフェリルというパーティがカレンさん達かは分からないけど、門が開く時間に出掛ける連中もいるんだな。


「やって来たよ。あれってカレンさん達だよね」

 通りの向こうから、歩いてきた3人はトラ族のバクトさんが持つごつい槍が目立ってるな。3人とも剣先が脇から出ているから、長剣を使うのだろう。ラグネスさんは弓を背負っている。銃を持っているのはカレンさんになるのかな。


「待たせたな。それでは出掛けようか。我らの足は速い。遅れないようについてこい」

「何とかついて行きましょう!」


 カレンさん達が足早に北を目指す。軽いランニング程度の速度だ。長距離を踏破するなら時速6km程度の速度が良いんだろうな。走りに出掛けるんではなくて狩りに出掛けるんだから疲れを残すような走りではダメって事だろう。

 俺達3人は訓練でこれ位のランニングは苦にならない。その上、度重なるナノマシン投与で、筋肉や循環器系は強化されているようだ。息を切らすことなく、カレンさん達について行った。


「ここで休憩だ!」

 前方を走っていたカレンさんが片手を上げて休息を伝えてきた。

 大きな岩がぽつんと1つ、誰かが忘れ物をしたように置かれている。

 3m程の高さがあるが、岩の上は平なようだ。岩の突起を利用して器用に岩の上に飛び乗った。

 俺達もその後に続いて飛び乗ったのを見て、カレンさん達が目を丸くしている。


「驚いたな。人間族なら着いて来るだけでもやっとなのに、それに跳躍力も我ら以上にあるようだ。人間族に容姿は似ているが、やはり種族は違うって事なんだろうな」

「前のところで色々ありましたから、それなりに訓練は受けました」


 俺の言葉に納得したように頷いている。決して嘘ではない。自分達の境遇をぼかしているだけなんだけどね。


「後1回休めば、今日の野営地に到着する。走りは大丈夫なんだな?」

「これ位なら問題ないですよ。このまま戦闘に入れます」


 この場所での休憩は、一口水を飲むだけだった。地図をサングラスの視野に重ねて投影すると、村から10km程北東に移動した場所だ。このまま進めば森に入ってしまうのだが……。野営地は森の中なんだろうか?

 15分程休憩して、再び走り始めた。今度は北に向かっているぞ。やはり、森の中に入るのは次の休憩の後になるんだろうな。

 今度の走りは先ほどよりも遅い走りだ。早歩きに近いんじゃないかな。最初の走りは俺達の体力を試したって事かもしれない。

 途中でへたばるようなら、村に帰してもゴランさんに言い訳が立つって事だろう。


2時間ほど過ぎたところに灌木の小さな林があった。先頭を行くカレンさんが、後ろを振り向き林を指さす。どうやら、あの林で休憩を取るようだ。

林に着くと、バクトさんが長剣を引き抜いて枝を落す。それを集めて小さな焚き火を作った。

ポットを乗せてお茶の準備をすると、お弁当を広げる。

俺達のお弁当は、前日仕入れたパンにジャムを塗ったものだ。チーズを1切れ付けてある。カップ半分のお茶を飲みながら、林の影でのんびりと昼食を頂く。


「先ほど休憩した場所からここまでの時間と同じぐらいの距離を歩けば、今日の移動は終了だ。明日は朝からダイノスの捜索をすることになる」

「了解です。俺達のも感は良い方ですから、役立てると思いますよ」

 俺の言葉にバクトさんとラグネスさんが顔を見合わせている。信じられない様子だな。もっとも、犬族のラグネスさんならかなり遠くからラプトルの匂いを探れるんだろうな。俺達の動体検知センサーは半径200mが最大レンジだから、敵を見つけるのはラグネスさんの方が早いかも知れないぞ。


 林で1時間程休息したところで今度は、東に向かって歩きはじめた。1時間もすると、俺達は森に入る。森は針葉樹と広葉樹が混じっているが、下草が少ないのが特徴だ。数十m先まで見通せるぞ。

 広葉樹の葉が茂っているから、森の中は草原と打って変わって薄暗い。心なし気温も下がっているようにも思える。

 昼食後から2時間程歩くと、前方に大きな木が見えてきた。

 どうやら、その木を目指して歩いているらしい。


「ここだ。これが俺達が森で利用する野営地になる。あの木の根元を見ろ。洞が出来てるだろう。中は空洞なんだ」

 立派な広葉樹の大木だ。直径だけで数mはありそうだ。四方に根を伸ばしたような形で地上付近で広がっており、その根元には大きな穴が開いている。確かに洞穴って感じだな。

 皆で抱えられるだけの焚き木を集めると、その洞に入っていく。

 中は直径4m位の広場になっている。入り口は俺達が入った穴と頭上に見える小さな穴だ。この中で焚き火をしながら野営するのであれば襲われる心配は少ないだろうな。

 それにこの大木の周りは小さな広場になっているから、近寄る獣を早く見付けられそうだ。


 焚き火を作り、ポットを置く。

「食事は一緒に作ろう。我らの持っている鍋は大きいからな」

「そうしてくれると助かります」

 レミ姉さんが買い込んだ携帯食料を渡すと、小さなブロック3つを受け取り鍋に入れる。俺が背負ってきた水のボトルの蓋を開いて渡すと、カップで分量を量りながら鍋に注いでいる。携帯食料のブロック1個でカップ1杯って事だな。カップは200CC位の分量のようだ。

「水を運んでくれたのは助かる。この場所から水場は離れているのだ」

 そう言って、バクトさんが俺に水のボトルを返してくれた。もう1本あるし、半分ほど使っただけだから、後2回以上は食事が作れる勘定だ。それにカレンさん達だって持っているに違いない。それ程水の使用量を気にすることは無さそうだ。

 出来上がった夕食は、野菜と肉の入った雑炊のようなものだった。食器に受け取り、恐る恐るスプーンで一口食べてみたが、それほど不味くはない。塩味が効いてて良い感じだな。

 食事が終わるとハーブティーのようなお茶を飲みながら雑談を始める。

 バクトさんは、パイプを楽しんでる。この世界にはタバコがあるって事だな。タバコが無くなったら禁煙生活になるかと思っていたんだが、少し安心できるな。


「お前達は片手剣だが、それで狩りをするのか?」

「一応、銃を持ってきました。こちらのダイノスにどれ位効くかは分かりませんが、使ってみるつもりです」

「銃ならそこそこ期待できるだろう。3人で交互に撃ってくれるだけでも相手を威嚇できるし、銃弾が当たればそれなりに効果はあるだろう」

「私も、そろそろ銃を持とうかしら。やはり弓では威力不足だわ」

「銃を持っても、弓はあったほうが良いぞ。銃の最大の課題は次の弾を撃つのに時間が掛かることだ」


 確かに単発で、前装填だからな。それでも慣れると1分間に数発撃てるらしいんだが……。

 そんな事を話ながら、焚き火の番を決めると俺達は横になった。入り口の穴は焚き木をロープで縛って塞いであるから、洞の中に急に乱入してくることはないだろう。先に俺とバクトさんが横になり、夜中に交代することにした。



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