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PH-031 博物図鑑

 エリー達が協力して周辺に展開したドローンを無人機で回収している。作業が済めば村に出掛けられるのだが、森の中深くに設置したドローンを回収するのは操縦が難かしいらしい。昼過ぎまで掛かってようやくドローンをすべて回収して、林を抜けて西に向かう。

 ヤグートⅡの超壕能力がが気になってレミ姉さんに確認すると3m近くあるらしい。村を取り巻く堀は2.5m程だから問題なく超えられると教えてくれた。

 何本かのまだ若い広葉樹を引き倒して小川を渡る。俺達が渡った浅瀬を通って草原に出た。


「北門で良いんだよね」

「北門の手前で俺を下ろしてくれ。一応、門番に話しておいた方が良いだろう。堀から2mぐらい離せば堀への影響もないはずだ」


 エリーが前方を見ながら頷いている。すでに村の柵が大きく見えてきた。俺達が堀を渡った橋から、かなり下がったところで堀を渡ると、ヤグートⅡが停止した。

 後を2人に託して、エアロック室から外に出ると北門からこちらを眺めている門番に向かって足を速めた。


「俺達の乗り物を持ってきました。柵から離して、堀を崩さない場所に置いときます」

「お前達か? いやあ、驚いたぞ。最初は大型ダイナスがやって来たかと思ってたぐらいだ。そう言えば東から来たと言ってたな。あれならダイナスも避ける事が出来るだろうな」


「あの位置ならだいじょうぶだ。中で寝泊まりも出来るんだろう? 夕暮れには門を閉めるが、あの小屋に門番がいるはずだ。もし閉まってて出たい時には声を掛ければいい。それにしても大きいな」


 様子を見に行った門番がヤグートⅡの停車した場所を見に行ったようだ。

 エリー達がこちらにやって来る。夕暮れにはまだ早いから、ギルドの依頼を見てみようという事だろう。

 3人揃ったところで、お手数を掛けますと門番に行って、ギルドに歩き出した。

 小さな馬車が数台内側の広場の端に停めてあったが、ヤグートⅡを入れるとその場所が無くなってしまうな。当分は外に停めることになるだろう。

 ギルドに入ると、掲示板に向かう。まだハンター達は戻ってこないようだ。のんびりと依頼書を1枚1枚眺めていく。

「これは、この間と同じね」

 レミ姉さんが2枚の依頼書を掲示板から取り外した。ヒラデルとポネルンともに30個ずつだ。アナライザーのライブラリーに登録してあるから比較的容易な依頼になるな。

 カウンターのネコ顔の女性に差し出すと、直ぐに印鑑を押してくれた。何か数字を書いているぞ。

「日付にゃ。5日の間に集めれば良いにゃ。5日を超えると通常買取りにゃ」

 なるほど、時は金なりってことだな。

「ところで、パーティの名前は決まったのかにゃ?」

「俺達は、ヤグートと呼ばれていたが……」

「ヤグートにゃ。ならカードを出すにゃ。パーティなら一度に2つの依頼が受けられるにゃ」


 俺達が差し出したカードを受け取ってカウンターの向こうで何かやっている。直ぐに返してくれたカードの裏には、ヤグートの文字が刻まれていた。ドローンでカウンターを見ていた時に、たまにカウンターに置かれたカードをひっくり返していた理由がようやく分かったぞ。


「依頼書の右上に印があるにゃ。その印の数以下なら依頼を受けられうにゃ」

 要するにレベルによって受けられる依頼が違うって事だな。その辺りはプラントハンターギルドにも似たところがあるな。やはり危険を未然に防ぐ手立てなんだろう。ある意味、ハンターへの警告とも取れるな。

「生憎と、名前は読めるんですが、それがどんなものかは分からないんです」

「依頼をこなすのは明日にゃ? なら、これをテーブルで見たら良いにゃ」


 ドン! とカウンターの上に分厚い革表紙の本が乗せられた。適当にめくってみると、どうやら図鑑のようだぞ。

 植物、昆虫、動物、魚、最後は魔物だ……。直ぐに、レミ姉さん達がテーブルに移動して中を見ている。

「貴重な資料じゃないんですか?」

「どのギルドにも2冊あるにゃ。たまに変わった依頼が王都から来るから必要になるにゃ」

 

 礼を言って、俺も姉さん達のテーブルに向かう。最後に2人の名前を教えて貰ったぞ。俺達と同じような顔をした女性は人間族で、レイドナ。ネコ顔の女性はやはりネコ族でミゼルというらしい。姉さんでも良いと言ってたけど、さすがにそれはどうかな?


「どんな感じ?」

「三分の一はスキャニングが出来たわ。今夜ゆっくりと読めば良いと思う。イラストはかなり緻密よ。名前とイラスト、特徴に標準価格と狩りの注意点が書かれているわ。ある意味博物図鑑としても十分に通用するわ」


 やはり文化が歪だな。図書館でこの世界を調べたくなるが、戸数50戸ぐらいではそれも望めないだろうな。

 レミ姉さんの作業が一段落すると辞典をカウンターに返す。貴重品なんだろう、直ぐにカウンターの下にしまったぞ。


「この近くに、食事が出来る場所がありますか?」

「通りを挟んだ向かい側がお勧めにゃ。夕食が8C、お弁当と朝食どちらも5Cにゃ」


 ミゼルさんにお礼を言って、今度は食事に出かけた。

 メニューは無く、その日のお任せ料理ってことになるようだ。

 カウンターに背中を預けた恰幅の良いおばさんにたずねてみる。

「3人なんだが」

「あのテーブルが空いてるよ。3人で24Cになるよ」


 レミ姉さんがおばさんに銅貨を3枚渡すと、穴開き銅貨を7枚返してくれた。

 暗算ってわけではなく、片隅の方に簡単な表が貼ってある。一律料金の良いところだな。

 指定されたテーブルに座ると、ネコ顔の女の子がトレイに乗せた料理を俺達の前に運んでくれた。食器は木製だ。木製のスプーンが添えられている。

 料理は、野菜たっぷりのスープに、大きな丸いパンだった。木製のカップには葡萄酒まで入っているぞ。


「ポトフみたいで美味しいよ。じっくり煮込んであるみたい」

「パンも柔らかいわ。少し灰が付いてるから、パン窯を持ってるのかしら?」

 しばらく保存食の食事だったからな。2人とも満足しているようだ。カップのワインを一口飲む。これも中々だな。食事を終えると、食堂を後にした。いつの間にか食堂の入り口に人が並んでいる。早くどいてあげた方が良さそうだ。

 外に出ると夕暮れが迫っている。早めにヤグートⅡに引き上げた方が良さそうだな。


 北門は片方の門が閉まっている。日暮れと同時にもう片方を閉めるのだろう。門番に片手を上げて挨拶して外に出ると、直ぐに仮想スクリーンで周囲の状況を探る。ヤグートⅡの周辺に反応はない。安心してエアロックの外扉を開けて中に入った。

 テーブルに座るとエリーがコーヒーの準備を始めた。インスタントだが、どうやらたくさん買い込んでいたらしい。

 その間を利用して、ブリッジに上ると一服を始める。ブリッジから身を乗り出していなければ比較的安全だ。それに、周囲500mの監視は車内に入ると直ぐにレミ姉さんが始めている。

 ゆっくりと1本を味わってブリッジを下りると、テーブルには俺のマグカップが置かれていた。


「中々良い資料が手に入ったわ。バングルに情報を転送していおいたからいつでも利用できるし、今夜これを睡眠学習機で脳に転送するから、大まかなことは見ただけで分るはずよ」


壁に仮想スクリーンを展開して、事典の記載を3人で眺める。結構な値段となる植物もあるようだ。もう一つ欲しいのはこの周辺の状況図だな。無人機での調査結果を基に50km四方の地図を作ってあるのだが、どのあたりに何があるということまでは分からない。

 

「バンター君が沈んでるのは、狩りの対象の分布でしょう? でもこれだけ緻密なイラストと特徴が分かれば無人機とヤグートⅡの電脳でおおよその事が分かるはずよ。今、この世界の生物ライブラリーを新たに作っているから、過去の無人機の画像データを照合してみるつもりよ」


 そんな事が出来るのか? 出来るならお願いしたいくらいだ。

 エリーはギルドのはりの上にある無人機を回収しているようだ。再度充電して戻しておいた方が良さそうだ。ギルドの会話は結構役に立ちそうだぞ。

 

「回収前に、怪我人が担ぎ込まれたよ。トカゲ顔の人だったけど、その外にも2人が傷を負っていたみたい。いったい何を狩ったのかしらね」

「森の中で焚き火をしている連中はいるか?」

「2組がいたけど……」


 狩りの期間も球根の採取期間と同じぐらいだろう。移動に1日、狩りに2日、帰りが1日で予備日が1日というところだろうか。ハンターの1日の移動距離は20~30kmと言うところだろう。村から半径30kmの円を描くと、エリーの言う2組の焚き火の場所は圏内になる。となればその焚き火周辺に危険な生物がいたという事になるな。


「この辺りを重点に無人機の飛行ルートを設定できないか?」

「怪我を負わせた相手を調べるのね。分かった!」


 俺の指示でエリーが別の仮想スクリーンを開いて作業を開始した。明日俺達が球根を探している間に、無人機が探してくれるだろう。

 2人の作業が終わった時には2200時を過ぎている。明日は早めに村に入ってみるか。朝食とお弁当も気になるところだ。

 シュラフに入ると直ぐに眠りにつく。ベッド頭部の睡眠学習システムが作動し始めたようだ。


 警報音で目が覚めると、バングルを腕に装着して時間を見る。まだ、0600時だ。7時間は眠っているから、このまま起床することになるだろう。隣のエリーは既に着替えて下に下りて行った。

 急いで着替えると俺もベッドを下りて、天井部にベッドを収納する。

 レミ姉さんも着替えが終わったようで、ベッドをテーブルに替えて壁に仮想スクリーンを展開しながら状況を確認していた。


「何があったんですか?」

「これよ。どう見ても、林で見たラプトルよね」

仮想スクリーンは2つ開いている。動体感知センサーの捕えた周囲500mの敵性体の位置と、望遠カメラがとらえた敵性体の映像だ。


「白亜紀に行きたかったから、こんなのがいるのかな?」

「しばらく状況を見ましょう。ところで、あの辞典では、あのラプトルは何て表現されてるんですか?」

「好戦的と書かれてたわ。村の人達からすれば敵になると思う。特徴はラプトルそのものよ。敵の頭上を飛び越えながら、カギ足で蹴りを入れるわ」

群れの数は数頭だな。俺達で殲滅出来ないことはないが、先ずは村人の反応をみよう。彼らだって長年そんな脅威にさらされてきたはずだ。何らかの対抗策を持っているに違いない。



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