PH-030 ハンター登録
村に近付くと村を取り巻く柵と門がはっきりと見えてきた。
柵は太さ30cm程の丸太を焦がして並べたものだが、高さは3m程ある。門は丸太を割った物を3本の横木で固定した頑丈そうなものだが、今は開いている。
100m程に近付くと、門の脇から2人の槍を持った男が門の中央に立った。警備兵なんだろうが、3m程の槍を交差させているぞ。着ているのは革ヨロイだが顔は人間ではない。トカゲ顔とイノシシ顔だ。体形は俺より筋肉質だが歳はわからない。
「怖そうだね」
「気にしないでいい。俺が先になるから2人でバックアップしてくれ」
小声で2人に告げる。返事は無かったが、少し後ろに下がったのが足音で分かった。
やはり不審者に見えるんだろうな。ジッとこちらを見ているぞ。
警備兵との距離が数mになった時、彼等が声を掛けてきた。
「止まれ。我等が村に何ようだ?」
「旅のものです。東からやって来ました」
「東からだとすれば、ハンターだな。村に滞在するハンターは数が少ない。歓迎するぞ。ギルドはこの先の通りを行って右に見える石造りだ」
短かい問答を終えると、納得したように頷いて槍を引いてくれた。
言語の調査と睡眠学習の成果は凄いの一言だ。ゆっくりと門をくぐり村の中に足を踏み入れる。
ある程度は無人機の画像で分かっているつもりだが、やはり村に入ると色々と見えてくる。
ログハウス風の家はきちんと丸太が切られているし、どの家も通りに面して50cm四方程の窓があった。窓は十字に桟が入っているが、これは平面ガラスをあまり大きく作れない為だろう。
住人の衣服は綿織物だ。あまり装飾が施されていないが、汚れたものを着ている者は見受けられない。
通りまで音や声が聞こえてくる。鍛冶屋、食堂にこの時間で酒を飲んでる奴までいるぞ。看板で雑貨屋と宿、それに武器屋が分かるな。
あまり頭を動かさずに目と耳で周囲を観察する。しばらく歩くと右手に警備兵がギルドと教えてくれた建物が見えた。周囲が木造だから少し浮いて見えるな。
そのまま建物に向かい、数段の階段を上って扉を開く。
中は、ドローンの映像で見た通りの配置だ。左手にカウンター、右手に掲示板があり、10m四方もない部屋の奥には3つのテーブルが置いてある。右手奥には暖炉があり、その左右にベンチがあった。
カウンターに近寄ると、人間の顔を持った女性に向かって軽く手を上げる。寄って来た女性とカウンター越しで話を始める。
「東からやってきた。蓄えが底を尽きそうなので、依頼をこなしたいんだが?」
「ああ、ハンターの登録ですね。大丈夫ですよ。東からこの王国に来れるぐらいなら十分に活躍できると思います。この用紙に必要事項を書いてください」
3枚の用紙と粗末な鉛筆を渡された。文字も読めるから問題は無さそうだ。名前と種族、出身地? それに使用可能な魔法? どういう世界なんだ!
「ちょっといいかな。俺達は山奥から出てきたから、自分の住んでいる地方の名が分からないんだが……。それと、魔法という言葉を聞くのは初めてだ。それに住んでたところでは種族という話を一度も聞かなかった」
俺の言葉を聞いて、隣のネコ顔の女性が近づいて来た。凄い、ちゃんと尻尾がある。
「たまにそんな連中もいるにゃ。東に殖民した末裔なら、仕方ないにゃ。分かるとこだけ記入すれば、水晶で分かるにゃ」
用紙への記入は確認事項ってことになるのだろうか? ならば最初から水晶とやらを使えばいいんだろうけどね。だが、それってどんな仕組みなんだ? 高度な電脳システムとセンサーを持っているということなのだろうか?
俺達3人が名前だけを書いた用紙をカウンターに置くと、直径20cm程の水晶球をカウンターの下から取出した。
「これが水晶球です。一人ずつ私の指示に従って持ってください。この上で持ってくださいね。落とす人もたまにいるんです」
ネコ顔の女性がカウンターの上にクッションを乗せると、その上に水晶球を置く。
「では、バンターさんから両手で持ってください」
言われるままに両手でクッションから5cm程持上げる。途端に、両手が水晶に張り付いた。僅かだが電撃を感じる。これで何が分かるんだろう? 遅れた文化だと思っていたが全く異質な文化が発達してるようだ。
「はい、もう離しても大丈夫です。では次の方……」
エリーとレミ姉さんが続いて水晶を両手で持つ。最初に両者とも目を見開いているところをみると電撃を感じたのだろう。
「結果が分かるまで少し待ってくれませんか?」
エリー達が掲示板に向かって行く。たぶん依頼の種類を確認しているんだろう。俺は、カウンターの女性に球根を買取ってもらえるかを確認した。
「ハンター資格の確認ができしだい引き取るにゃ。事前に種類と数を確認するにゃ」
俺がナップザックから紙袋を2つ取り出すと、女性はカウンターの下から平たいザルを取り出した。紙袋の中身をザルに乗せると、紙袋を返してくれた。
5個ずつまとめて数えているようだ。掛け算九九を知っているって事だな。
「ヒラデルとポネルンが50個あるにゃ。依頼書があれば、その依頼をこなしたことにするにゃ。無ければ通常価格で買取るにゃ」
依頼がある場合は通常価格より割り増しになるって事だな。俺達にとってもありがたい話だ。
「ギルドカードを発行します。集まってくれませんか?」
俺達と同じような顔をした女性の前に集まると、小さな金属プレートを渡してくれた。
プレートは俺達プラントハンターのカードより少し小さく見える。板厚は2mm程あるから折れたりはしないだろう。上部に穴が開いており、革紐が付いている。これを首に下げるところもそっくりだな。
紐を通す穴の下に、俺の名がこちらの文字で書かれている。その下は種族名で、俺達は記載がない。たぶん登録外の種族認定なんだろう。
その下に数字の記載があるが、たぶん識別番号ってことだろうな。その下に直径5mm程の穴が1つ、更にその下に小さな穴が6つ開いていた。
「説明してくれるとありがたいのだが……」
「いいですよ。一番上が、名前です。その下が種族名ですが、種族が不明ならば記載されません。人間族だと思ってましたが少し違うようですね。その下の数字は貴方達の個人識別番号です。その下に開いた穴は大きい方がレベルの目安で、下が使用可能な呪文の使用回数です。呪文は持っておられないようですが、教会で購入できるでしょう」
「無事にハンターにゃ。少し待つにゃ。依頼書を持ってくるにゃ」
カウンターの脇にある扉を開いて掲示板に向かうと2枚の書類を持ってきた。
「2種類とも、30個の依頼があったにゃ。ヒラデルが40C、ポネルンが50Cになるにゃ。残りは通常価格を使うにゃ。ヒラデルが20C、ポネルンが30Cになるにゃ」
ノート程の縦溝の付いた算盤の、丸い石を動かして合計価格を計算している。
カウンターに乗せられた硬貨は銀貨が1枚に穴の開いていない銅貨が4枚だ。合ってるな。
「これで俺達はこのギルドで活動できるんですか?」
「問題ないにゃ。すでにレベル10を超えているにゃ、小型のダイナスさえ狩れる腕にゃ」
ダイナスとは恐竜のことらしい。小型というと、ヤグートⅡから見えたラプトル辺りなんだろうな。
「もう1つ確認したいんですが、俺達が乗ってきた乗り物を村の近くに置いてもかまいませんか? 長い距離をやってきたんで少し変わってますし、荷馬車2台分より大きさがあります」
「門番にことわればいいにゃ。大きいと村に入れられないから、北門の近くに置けばいいにゃ。レベルの高いハンターなら村にいて欲しいにゃ。レベル10ならかなり融通が利くにゃ」
プラントハンターレベルが適用されているんだろうか? チラリとレミ姉さんのカードを見たけど穴の数は同じだったな。
2人に挨拶してギルドを引き上げる。
店を覗いて行こうと、北門の途中にあった食料品の店に寄る。野菜や果物まで扱ってるぞ。小麦粉も値段が下がっている。4kg程で15Cだから、パンを食べるのに困ることは無さそうだ。キャベツやリンゴのような果物まで並べられている。
「あと一ヶ月は持ちそうだから、直ぐに必要ではないわ。ヤグートⅡを村に移動させてから考えましょう」
北門の門番はギルドカードを見せるとすんなりと通してくれた。俺達の乗り物を柵の近くに置いてもよいか訊ねると、柵から槍2本分離せば問題ないと教えてくれた。
車体から柵を飛び越えられるのを嫌ったんだろう。北門を出て直ぐに東に歩き出す。
村の東を流れる堀は柵から12m程の距離がある。村側の護岸には杭を打って補強している。これなら、堀の近くにヤグートⅡを停められそうだ。
堀を南北に眺めると上流側に丸太作りの橋がある。その橋を渡って、ひたすら東を目指して歩いて行った。
ヤグートⅡに帰り着いたのはどうにか、日が沈まない時刻だったが、かなりの強行軍だったな。夕食を簡単に済ませると直ぐに横になる。
次の朝。朝食を食べながらこれからの事を皆で考える。
やはり村の近くに移動すると言うのが共通の意見だ。ヤグートⅡの移動速度を考えれば30分も必要ないだろう。
問題は、村での暮らしになる。しばらくはヤグートⅡで寝食をしながら、村の様子を確認することになりそうだ。
それに、魔法も気になる。俺達に使えるんだろうか? 狩りの必需品となれば、手に入れるまでは球根を捜すことになりそうだ。
「ダイナスって恐竜のことでしょう? 小型って言ってたから大型もいるんでしょうね」
「それが、あの柵の役割なんだろうな。どんな頻度でやって来るか分からないけど、東に畑を作らないのもそのためだろう」
それも追々分かってくるだろう。やはりギルドを中心に動いていたほうが良さそうだ。
俺達のカードは全員上部に開けられた穴の数は1つだった。だが、小さな穴の数は微妙に違う。レミ姉さんは8個だし、エリーに至っては12個も開いている。俺の2倍だぞ。その違いも気になるところだ。