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PH-029 西の村に行ってみよう


 言葉と文字では文字の方が特定が早かった。

 記号の出現率と、その区切りで判定したらしい。成果と報酬で数字も理解出来るようになった。

 文字とカウンターの会話を元に、言葉と文字の同定をレミ姉さんが継続して実行中だ。

 どうやら、この世界の文字は表音文字らしい。使われる文字数は30だが、濁音や長音を記号で表すからこのような数になるのだろう。

 数字は10進法だが、ローマ数字のような記載で行われている。ゼロの概念もあるようだ。簡単な算盤も使われているが、大きさはノートぐらいもあるし、板に溝を彫って、丸い石を入れたようなものだ。それでも十分に使えるだろうな。計算機の初まりってこんなものなんだろう。

 硬貨すら存在する。色からして金銀銅の3種類があるのだが、種類は金が1種類、銀が2種類、銅が2種類だ。硬貨の単位は『C』(カル)と呼ばれている。

 小指の先程の球根を20個程集めると30Cになるようだ。その時の報酬が穴のない銅貨3枚だから、銅貨の種類は穴の開いた1C銅貨と穴のない10C銅貨になるってことだな。


 すでにこの世界にやって来て5日になるが、時空間ゲートのビーコンは届いていない。

 エリー達もはっきりとは言わないけど、半ば諦めているようだ。この世界で暮らすにはどうしたら良いか、という思いで行動しているようにも思える。

 無人機による周辺監視で、彼等の狩を姉さんは見たそうだ。あの石造りの建物で、掲示板に張出される依頼には、球根類を集めるものと獣を狩るものの、2種類があるらしい。十分な武装をした者達は狩を行い、そうではない若い者達は球根を集めている。

 

 80km程南に大きな町があり、そこからは東西に伸びる大きな道路があった。敷石を敷き詰めた道路だから。幹線道路になるのだろう。馬車が何列も続いているのが確認できた。

 更に南に向かう道もあるが、村から伸びる道路と同じように簡素なものだ。

 村の畑は村の西に広がっている。森からの獣を避ける為だろうか。所々に柵まで作られていた。

 

「画像で見るかぎりでは麦のようね。彼等はパン食なのかしら?」

「牧畜も盛んなようですよ。たぶん羊でしょうね」


 彼等の暮らしがだんだんと見えてきた。

 文化程度はBC1000年程度。土器、ガラスを作り、金属は青銅器を使っている。鉄の時代には至っていないようだな。歪な文化だが、綿織物はあるように見える。

 品物の流通も、2日おきに南の町から荷馬車が行き来しているから、活発なようだ。

 やはり、大きな国の地方にあたる場所なんだろうな。東に荒地が広がっているから殆ど辺境に当るのだろう。更に東には砂漠が広がっていた。


「もう少しで、彼等の会話が理解できるわよ。殆ど文字が分かっているから、彼等の村に行って情報を探れるわ」

「危険性は高いですよ」

「あら、場合によってはこのままこの世界で暮らすことになるわ。いずれ出掛けなくちゃならないと思うけど?」


 となると、どんな恰好で出掛けるかが問題だな。それに銃弾がどれぐらいあるかも気になるところだ。


「エリー、武器のリストと銃弾の数をリスト化してくれないか。それと、村に出掛ける時の服装も考えてくれ」

「お兄ちゃんと、博士のトランクも開けて良いの?」

「全部調べてくれ。俺達の全財産だからな」


 たぶん、数日の内に出掛けることになりそうだ。この世界に来て10日が過ぎた。食料は十分にあるが、何時までも食い繋げるものではない。食料調達を初めとする、生活の手段を確保しなければならない。


「数日間の調査では、ここから村までの範囲に危険な獣はいないようです。小川を渡り、一旦南に下がって南の門から村に入れば怪しまれないでしょう」

「20km程の行程ね。6時間は掛かりそうよ」

「帰りもあります。北門を出て真っ直ぐ帰るなら5時間程でしょう。村の滞在を2時間とすれば往復で13時間になります」


 朝早く発たねばならないな。日の出る前に出発すれば、日没前に帰れるだろう。マラソンをここでやることになるとは思わなかったぞ。

「あの球根を事前に集めて、売っても良さそうね。物価程度を知ることも大事よ」

「そうですね。姉さんに任せます。彼らの集めている球根は同定できたんですか?」

「数種類あることが分かってるわ。カウンターの画像と採取光景の画像から、この2種類が候補になるわ。明日、3人で採取しようと思うんだけど……」


 この近くで採取するなら賛成だ。エリーだって外に出たいだろうからな。あれからラプトルは見掛けていないが、いつ襲ってくるか分からない。多機能センサーとドローンのセンサーが頼りの綱だ。


 次の日。ヤグートⅡの周辺の草原で球根を持つ草を探し始めた。1日掛かって数種類を球根を持つ草を集め、村の住人が集めている球根と比較してみる。


「これと、これが目的の物だわ。アナライザーのライブラリーに登録しとくから、明日は簡単に見つかるわよ」

 姉さんの言葉に俺とエリーがホッと溜息をつく。今日は常に1人が、銃を持って周囲を警戒していたからな。仮想スクリーンを眺めながら見張るのは、神経が磨り減る作業だ。明日は、2人で監視が出来そうだから、かなり気苦労を緩和できそうだぞ。


夕食が終わると、エリー達はドローンの画像と声を元に言語と文字のライブラリーを増やしている。それは彼女達に任せておこう。

俺は、エリーの作った武器のリストを確認している。これから弾丸が手に入るとは思えない。大切に使おうとしても、数が分かっていなければ管理することができないからな。

 どうやらかなりの弾丸を持ち込んでいるぞ。MP-6の9mm弾丸だけでも3種類各400発はあるらしい。俺のショットガンの弾丸も専用の弾薬箱に詰め込まれている。AK60は600発。拳銃弾も200発は箱買いしているようだ。白亜紀に出掛けるという事でかなり買い占めたらしい。

 それに、現在装備ベルトに収納している弾丸は計上していないから、この数の1割増しはあるってことになる。

 おもしろいのは、レブナン博士のトランクからオートマティックの拳銃が出てきた。MP-6の強装弾が使えるらしいから、MP-6の弾丸が少なくなったら、これに替えても良さそうだ。俺としては一緒に出てきた12発のマガジンが10個がうれしいぞ。待てよ、俺のナップザックの弾丸は計上されていないぞ。あれだけでも44マグナムが50発にショットガンのスラッグ弾が50発以上あるはずだ。しばらくは倉庫の弾薬を使わずに済みそうだな。


12日目を迎えたところで、言語と文字がほぼ分かってきた。電脳を通してその夜に睡眠学習の形で俺達の脳に情報を転送する。会話は片言になるかも知れないが意思が通じれば問題はないだろう。

13日目はゆっくりと体を休め、14日目に村に出掛けることにする。

服装は、戦闘服ではなく私服を使う。俺とエリーはお揃いのTシャツにジーンズの上下で、レミ姉さんはジーンズに薄手のジャンパーだ。装備ベルトを付けてその上にポンチョを羽織る。狩りをする連中がマントを羽織っている姿を見掛けるから、それほど違和感はないだろう。2食分の携帯食料と水筒を持って、球根を入れた紙袋をナップザックに入れれば、支度が完了する。


次の朝。まだ夜が明けきれない内に俺達はヤグートⅡを後にした。全ての扉はロックしてあるからこの世界の文化では力づくでも開けることはできないだろう。

バングル型の端末があれば周囲100mの動体検知が可能だ。エリーはMP-6を背負いレミ姉さんはAK60,俺がベネリを持つ。


「大丈夫だよね?」

「ああ、しっかり鍵は掛けたし、学習も済んでる。今日の目的は情報収集だ。この球根がどれだけの値段で売れるか、それによってどれだけの食料が買えるかを確認する」

「攻撃されたら?」

「むろん反撃だ。姉さんは狙撃出来るし、エリーは弾幕を張れるだろう? 俺は個別に相手を無力化できる」

 そうは言ったが、体格の良いトカゲのような顔を持つ連中にどれだけ通用するかは分からないな。手榴弾も各自1個を持ってるからそれも少しは役立つだろう。杖を持って俺達は小川に向かって歩き始めた。


 事前に作った丸太2本を並べた橋を渡る。この近くにやってきた人間は全くいなかったから、小川に作った橋を見付ける者はいないだろう。俺達はバングルに付属する自動マッピングシステムで自分達の歩いた経路を知ることができるから、帰りに橋を見つけることは簡単だ。


 草原を走るように移動して、朝日が昇るころに最初の休憩を取る。既に移動距離は6kmに達している。

「まだ南西に進の?」

「もう少し進みましょう。次の休憩で西に進路を取れば直ぐに道に出ると思います」

 

 これ位の距離を進むのにそれ程疲れを感じることはない。水筒の水を一口飲んで、休憩を終えると更に南西に足を運ぶ。

 先頭を歩くエリーは杖を担いでいる。持っていることが大事なのだ。長い距離を歩く旅人なら必需品だろう。

 次の休憩で、今度は西に進路を変える。30分も経たずに南北に延びる道を見つけた。道幅は3mぐらいだが2本のワダチが残っている。行き交う馬車の車輪の跡だろう。

 北を目指して道をゆっくりと歩き始めた。杖をついて遠方からの旅人を装うのだ。


「この立木は目印なのかしら?」

「規則的に植えてありますね。約1.5km間隔です」


地図の無い時代には、こんなことで距離を知る目安にするのだろう。3本目には数本の木が植えられていた。ちょっとした広場も設けられているから、休息の目安にもなっているんだろう。すでにヤグートⅡを出発して4時間が経過した。ここでゆっくりと休憩するのも良いかも知れない。


「お兄ちゃん。村が見えるよ!」

 北を双眼鏡で見ていたエリーが教えてくれた。まだ距離は数kmは離れているはずだ。

 エリーから双眼鏡を受け取って眺めてみると、遠くにポツンと見える。

「まだ、だいぶ先だな。それより、周辺に獣がいないようだな」

 あれだけ草原を横切ってきても、小さな小動物が視野に入っただけだった。小川の西は安全地帯でもあるようだ。でも、村は周囲を柵で囲っていたな。夜に活動する獣なんだろうか?


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