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PH-028 西の村

 小川の西、15km程離れた場所にある村の情報を得る為に小型無人機を飛ばした。無人機は夜の闇に紛れて、村に数本ある高い木の梢に無事着地したようだ。これで明日は彼等の暮らしが分かるだろう。

 売店で買い込んだサンドイッチの残りを食べながら、テーブル脇の壁に展開した仮想スクリーンを眺めて、村が動き出すのを待った。

 

 村は南北に門がある。夜は粗末な板で作られた扉を閉じている。門の内側には両者とも小さな広場があり、数mの道幅の通りで繋がれている。通りは石が敷かれているようだ。

通りに面した家は大きな造りで、石造りの建物も通りに面して建てられている。

 通りから数本の小道が東西に走って、同じような小道が1本南北に走っている。小道に面した建物は小さなものだ。たぶん村人の住居なのだろう。となれば通りの大きな建物は、商店になるのだろうか? 全体的には碁盤の目のように計画された村だといえる。

 

「屋根が光ってるわ」

「朝露ってわけじゃ無さそうだ。何らかの樹脂が塗られているってことだろうな。それに窓にガラスが使われている。歪はあるようだがそれなりの技術があるってことだ」

「人が歩き始めたよ!」


 通りを歩く数人を無人機のカメラが捕らえて拡大すると、俺達3人は思わず息を呑んだ。

 顔が人間ではない。どうみても獣、それもネコの顔だぞ。4人の内、3人はネコだがその後ろを歩く一際大柄な人物はトカゲのような顔をしている。

 衣服は獣の革を縫い合わせたような感じだが、靴だってブーツのようなものを履いている。背中に剣を背負って、弓を背負っている者までいる。

 

「人がいない……」

「いや、まだ分からない。エリーは顔の種類を分類してくれ。これから通りを歩くものが多くなるはずだ。姉さんは彼等の言語を分析してくれないかな」

「そうね。確かに必要なことだわ」


 俺は周辺の生物を調査しよう。多機能センサーを使って半径500mの情報は集められるから、近寄ってきた奴を観測すれば良いだろう。ついでに一服できそうだ。

 望遠カメラを持ってブリッジに上がり、目の前に仮想スクリーンを展開する。200m、100mそれに50mに警報レベルを設定すれば、不意打ちをくらう恐れも無いし、見落としもないはずだ。

 センサーの感度を小動物レベルまで上げると、とりあえずはブリッジの床に座り込んでタバコを楽しむ。

 

 警報が鳴るたびに双眼鏡で相手を確認して、カメラに記録する。出現する獣は見覚えのある獣ばかりだ。野うさぎ、鹿、それにイノシシまでいるぞ。20m程に近付いた鹿をアナライザーで確認すると、ライブラリーとの一致率が98%だった。狩をすれば食べることもできそうだ。


 突然、ブリッジの通信機からエリーの声が聞こえた。

 どうやら、昼食らしい。ブリッジで何時の間にか数時間が過ぎていたようだ。

 車内に戻ると、テーブルで食事を取りながら状況を確認する。俺が持ち込んだコーヒーの残りを温めて、エリーが持ってきたオヤツのドーナツを食べる。


「あの村、結構おもしろいよ。獣人と人が一緒に住んでるみたい。人間は2割ぐらいかな」

「言語は私達の世界と異なるわ。ヤグートⅡの電脳でライブラリーを作っているから、数日で言葉が理解できるでしょう。文字もあるようだけど、看板だけでは理解できないわ」

「人の出入りの多い場所で調査をする必要がありますね。小型機をもっと小さくできませんか?」

「ドローンを使うことになるわ。固定焦点カメラと振動センサーだけだけど、電脳で解析すれば話し声に変換可能よ。画像も重ね合わせれば鮮明になるわ」


 大きさは俺のリボルバーのシリンダーぐらいらしい。稼働時間はスリープモードを使う事で5日は可能だそうだ。小型無人機で設置すればいいのだが、どこの建物に設けるかだな。


「この建物がいいよ。朝は凄く出入りしてたよ。食堂か何かだと思うの」

 エリーが指差した建物は石造りの建物だ。たぶん2階建てなんだろう。だが、食堂なら昼だって営業してるんじゃないか? この時間に出入りが無いのは気になるな。

「夕方に賑わったら、この建物にしよう。姉さんの方はドローンの調整をお願いします。それと、これまで確認できた獣の画像をライブラリーに入れておきます。接近した獣を調査した結果ではライブラリーとの一致率が極めて高い値を示してます」

「了解。私の方でもう一度確認するわ。引き続き、調査をお願い」


 食後の一服ができるのはうれしいが、タバコはなくなってしまえばお仕舞いなんだよな。直前に大人買いしといて良かったぞ。

 午前中と同じ様に、接近した獣や鳥、昆虫も調べたけど、やはり俺の知る種類と変わりがない。

 日暮れ前に作業を終えて、エリーにバックアップしてもらいながら、ヤグートⅡの前面の防弾ガラスに迷彩シートを被せた。シートは屋根にしっかりと金具で固定しているし、地面には杭を打って固定したから風で飛ばされることはないだろう。前部座席の後ろにある遮光カーテンを下ろせば後部席でライトを付けても外に明かりが漏れることはない。

 

 夕食は、ちょっと贅沢なシチューだ。冷凍食品らしいがお腹に溜まりそうだな。

 姉さんが持ち込んだブランデーを水割りにして飲みながら、状況を話し合う。2人とも最初のショックは抜けきれたようだ。現在の状況を楽しんでいるようにも思えるぞ。


「軸間ゲートのビーコンは、未だに検知できないわ。プログラムで毎時丁度にビーコンの確認を行うように設定してあるから、検知できればすぐに帰れるわ」

「やはりあの建物はおかしいよ。夕方も賑わってた。それに何かを運んだ人もいるよ」


「しばらくここにいるのであれば、エリーの言う建物にドローンを設置しましょう」

「そうね。それにしても文化レベルが知りたいわ。ガラスと金属の加工技術は持ってるのよね」


 言語と文字、それに文化レベルもドローンで分かるかもしれないな。

 仮想スクリーンには家々の窓から明かりが漏れている。何時の間にか南北の門も閉じられていた。そういえば昼食時には開いていたな。畑もあるんだろうか? それに南の門からずっと先に延びている道も気にはなる。


「姉さん。明日は無人機を南に飛ばしてくれないかな。高度を取って南の道の先を確認したいんだ」

「ついでに周辺地図もできそうね。無人機の飛行コースをあらかじめ設定すれば100km四方は調査できるわよ。ドローンもあるし明日も忙しそうね」

 

 村の明かりが殆ど消えたとき、俺達はドローンを石造りの建物の中に設置した。うまい具合に風通しの穴が開いていたから丁度いい。中は10m四方の板張りのホールのようだった。北側にカウンターがある。そのカウンターの真上にあるはりの上の設置したから、誰も気が付かないだろうな。

姉さんがカメラ少し動かせるように改造したみたいだから、ホール内の様子がすべて確認できる。これで、村全体とこの建物を観察する手段が整ったことになる。


 あくる朝、まだ周囲が薄暗いけど、俺達3人は2つの仮想スクリーンを濃いコーヒーを飲みながら眺めている。

「昨日の4人組だよ。この建物から出てきた」

「宿ってことなんだろうな。武装した4人が早朝から何をするかだ」


 通りを進んで、ドローンを設置した建物に入って行く。直ぐに隣のスクリーンにホールに入った4人が写しだされる。

 入って右手に進み、壁を眺めている。


「掲示板かしら? 張り紙がたくさんあるわ」

 その張り紙を見ながらひとしきり4人が話していたが、一人が1枚の張り紙を引き剥がした。そのままカウンターに向かって歩いて行く。

 カウンターには2人の女性がいるが、一人は人間でもう一人はネコだな。4人組みは、ネコ顔の女性の前に先程掲示板から剥がした紙を広げた。

 紙を受取った女性が二言三言4人組みに話をして、丸い印鑑をその紙片に押して返している。


「何かの依頼?」

「たぶんそんなところでしょう。あの紙片の文字は見たことがありませんが、情報を増やせば読めるんじゃないかと」

「それ、エリーがやるよ。おもしろそうだし」


 外に出た4人組みは通りを北に歩き始めた。門を開けてもらい、村を出てそのまま草原を北に歩き出した。

 

「少し分かってきました。どうやら俺達と同じようなハンターですね。俺達は草木を専門に収集していますが、彼等も先程の場所で依頼を受けたのでしょう。狩に向かうんだと思います」

「私達と同じ?」


 どんな依頼を受けて、どうそれを遂行するかは分からないけど、俺達の仕事も似たようなものじゃないかな。意外と、この世界でも俺達は暮らして行けそうな気がするぞ。

 問題は言葉と文字、文化の違いだがドローンと無人機の観測で少しずつ分かるに違いない。

 そうなれば、あの村を訪ねてみるのも良いかもしれない。もっと詳細な情報が得られるだろうな。

 エリーは建物内の観察で、姉さんは昨日に引続き広範囲の地図作りをするようだ。俺も周辺監視を続けよう。

 昨日に引続く観測で新たに、狐とネズミが追加された。

 その日の夕暮れが訪れようとした時、とんでもないものが警報を鳴らした。

 仮想スクリーンで、方向を確かめた先にいたのは、イノシシを取巻く数匹のラプトルだった。

 急いで望遠カメラで撮影したが、なんでこんな世界にラプトルがいるんだ? イノシシを倒して肉を食い漁るとラプトルは東に帰って行った。


「ラプトルですって!」

「ああ、この画像を見てくれ。間違いなくラプトルだ」

「外にもいるってことだよね。きっと」


 姉さんは驚いてるし、エリーは喜んでる。まあ、恐竜が好きみたいだからな。

 

「かなり生態系が歪んでいます。いったいどんな事が起きればこうなるんだか……」

「私達の世界では何度も地上の生物が絶滅に瀕したわ。もし、そんなことが何度も起こらなかったとしたら……」


 それもあるんだろう。だが、それだけなんだろうか? 

 やはり、ある程度の調査は危険をおかしてもやるべきじゃないかな。とはいえ、まだまだ周辺の状況が分かったとはいえない。ドローンを仕掛けてみるか……。


「姉さん。ドローンは、まだ残ってますか?」

「大型3本に小型2本が残ってるはずよ。周辺に設置するの?」

「ええ。この小川付近と東に2本。小型は北におきましょう。1km程離せば、森や荒地の事情も分かってきます」


「そうすると、ここにも置きたいわ。こっちは無人機で代用できるけど、例の4人組みはこの辺りで森に入ったのよ」

 姉さんの示した場所は、ここから数km北の森の外れだ。確かにあの4人の行動も気にはなるな。

 



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