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PH-025 森の中は時間勝負

 この時代に降り立って、3日目の早朝。俺達は前方に緑の木立を見つけた。

 1km手前でヤグートⅡを停めると、無人機を飛ばして先行偵察を行う。熱源がいたるところにあるが大きさは小さいらしい。


「多臼歯目、テドリバータル辺りじゃないかしら? 7ネズミが大きくなったと思えばいいわ。たぶんこれよ」

 そう言って、博士が仮想スクリーンを展開する。

 無理すればネズミに見えるけど、尻尾はあまり長くないな。長いヒゲを持ってるから夜行性に違いない。となると、これを狙う生物もいるはずだ。

 

「問題はこの反応なんだけど……。赤外線反応が極めて僅かです」

「でも、動体センサーが捕えた大きさは、5mを越えているわ。肉食性のトカゲかしら?」

「恐竜絶滅をトカゲが生き延びたというのも面白いですね」

「最初は小型だったんでしょうけど、狩りの相手が大型化したから、自分達も大きくなったのかもしれないわ」


 だが、大異変を起こして30万程でそんなに姿が変わるんだろうか? 


「この1匹だけのようね。他の森に無人機を飛ばしているけど、1つの森を縄張りにしてるなら小さな森ならいないかもしれないわ」


 その日は、ヤグートⅡを止めた場所から周囲20km程を探索して明日に備えることにした。

 オオトカゲがいない森を見つけたなら、野外活動で標本の採取が容易になるが、もしも存在するのであれば、ヤグートⅡのマジックハンドを使用することになる。それは大幅に俺達の調査を遅らせることになりかねない。

 その辺りは、レブナン博士に任せて、周囲500mの監視は多機能センサーを伸ばしてレミ姉さんがやっている。

 俺とエリーはブリッジに上って周囲を双眼鏡で観察する。

 1km程離れた森は針葉樹林と広葉樹林の混合した森だ。針葉樹の方が樹高が高くなるから将来的には針葉樹の森になるんだろうな。

 だが、広葉樹は実を付けることによって獣がその実を運ぶから広範囲に広がるはずだ。たぶん中心部は針葉樹でそれを取り巻く広葉樹のような形の森ができるんじゃなかろうか。


「お兄ちゃん、あれって木の実だよね」

 エリーが指さす方向に確かに枝先に木の実がなっているが、かなり小さいぞ。まだ緑だから樹上を住処にする獣も近づかないようだな。


「画像を博士に送れば、判定してくれるんじゃないかな? ところで、足元の雑草は調べたのかい?」

「まだだった。直ぐに調べるね」


 エリーがブリッジから身を乗り出して周辺の植物をアナライザーで調べ始めた。直ぐに数種類の亜種が見つかる。

 エリーにバックアップして貰って、再び俺だけで採取に出掛ける。

 気温は暖かだし、風も少ない。俺達2人で過ごすのはもったいない気がするけど、姉さん達は忙しそうだ。

 エリーは中々の美人だからな。俺の事を兄貴としか思っていないようだけど、2人で過ごすのも悪くない。


 夕食のレトルト食を食べ終えると、テーブルでコーヒーを飲みながらレブナン博士の見解を聞く。


「南に15km程行ったところにある森にはオオトカゲがいないわ。森と言うよりも林に近いけれど、地上での採取を行うには都合が良いわ」

「ならば、そこで車外にある保管庫に採取しましょう。24本の内、既に6本のシリンダーに標本が納まっています。残り18本の採取を終えたら、森の深部に行けるところまで行きましょう」

「なら、飛行船を回収しましょう。2機はこのままでも良いでしょうが、かなり北東に1機が飛んで行ってます」

 

 レミ姉さんの言葉に博士が頷いている。

 回収すると言っても、かなり大回りで帰って来るんじゃないかな。何といっても広範囲に探索すれば次にやって来るプラントハンターが楽になることは確かだからな。

 そんな話が一段落するとエリーが次の探検の目的地を提案する。もちろん白亜紀末期だ。今回の調査と比較することで、また研究が進むに違いない。


「飛行船の回収は私がプログラミングするから、レミーネと一緒に時代と場所を検討したらいいわ。エリーの頼みならバンター君も賛成してくれるわよ」

 そんな事を言ってるけど、博士も乗り気なようだ。

 姉さんとエリーが並んでライブラリーを確認し始めたところで、俺はブリッジに上って一服を始める。

 相変わらず、空は曇っているから真っ暗闇の世界だ。

 ちょっと、危険な気もするが、地上4m近いこの場所まで一息に飛び上れるような生物はまだ見ていないし、そんな生物が近づけば動体センサーに引っかかるに違いない。


 次の朝。俺達は南に移動する。30分ほどで目的の森に近づいたが、確かに小さい。向こう側が木々の隙間から見えるほどだ。

 森にぎりぎりまで接近して多機能センサーを伸ばすと、森全体が500mの監視エリアに入ってしまう。


「それじゃあ、姉さんバックアップをお願いします。博士もセンサーの監視をよろしく」

 そう言って、エアロックに入る。装備は散弾銃だが、銃弾は爆薬が入ったスラッグ弾だ。体内で炸裂すればオオトカゲだってタダでは済まないだろう。エリーはAK60を担いでいる。俺が先に外に出て異常が無いことをトランシーバーで告げると、エリーがエアロックの扉を開いて下りてきた。

 ヤグートⅡの横に回ってブリッジのレミ姉さんに手を振る。レミ姉さんもAK60を肩に背負って、双眼鏡を持つ手で俺達に手を振っている。2人で手を振ったところで、エリーが保管庫から小型のシリンダーを取り出してポケットに詰め込んだ。


 一応念のために、白いポンチョを着て帽子を被る。前の森ではヒルが降って来たからな。

 用意が出来たところで、エリーがアナライザーで植物を片っ端から調査を始めた。数分も経たずに最初の植物を見つける。

「一致率が40%だよ。お兄ちゃん採取をよろしく!」

「ああ、これだな。任せとけ!」


 1時間もしない内にエリーが持ち出した小型シリンダーの在庫が切れた。一旦、ヤグートⅡに帰って、保管庫のシリンダーと交換する。それも2時間足らずで使い切ったから、後は中型シリンダーの出番だ。俺達は車内に戻って、遅めの昼食を取る。

 俺達が採取した標本と、アナライザーのデータを博士が大喜びでリスト化している。24種の採取した植物の内、4種類が新種らしい。

「ついてきて良かったわ。いよいよ本命ね。森に入るのは明日でも良いでしょう。少し早めに休んで頂戴。明日は忙しいわよ」


翌朝。明るくなるのをまって、俺達は大森林を目指す。30km程離れているから、小さな森や林を迂回しながら2時間ほど掛けてようやく到着したのだが、なるほど鬱蒼と茂っているぞ。ヤグートⅡはバスほどの大きさだから簡単に入れるような場所などどこにもない。


「エリー、こうなったら、立木を伐採して進むぞ。正面の木に近づいてくれないか」

 俺の言葉に、エリーがゆっくりとヤグートⅡを前進させる。立木の手前2m程の位置で停止させると、今度は俺の仕事になる。

 車体の下部に収納した電動ノコギリを伸ばして、立木を横に切り込んでいく。半分ほど切り込んだところで斜め上から再度切り込むとクサビ形の切り欠きが出来る。

 ヤグートⅡを前進させると、立木はメリメリと音を立てて倒れた。これで5m程森に入れる。

 次々と立木を切って森の奥へと侵入していく。昼頃には数百mほど奥に入ることが出来た。

 立木の倒れる音で、生物たちが俺達から逃げ行くのが分かると、レミ姉さんが教えてくれた。この調子で今日中に1kmは進みたいものだ。


「だいぶ進んだわね。この調子で明日も進めれば良いんだけど……」

「5kmは進みたいですね。それより反応はどうですか?」

「停止するたびに周囲を確認しているわ。かなりライブラリーに無い植物がありそうだわ。周囲が明るい内に、少し採取したいんだけど」

 

 そんな博士の要望で、更に100m程進んだところで本日の伐採を終了する。その後は、周囲の植物をアナライザーで調査して、標本を採取していく。

 たちまち2本のシリンダーがいっぱいになった。

 

「森の中の湿度は70%に上昇してるわ。しばらく屋根に上らないでね。樹上生物の種類は思った以上に豊富だわ」

「ガムとキャンディーを、たくさん用意してありますから大丈夫ですよ」

 森に入って分かった事だが、獣道がいくつか見つけたぞ。どんな獣か分からないけど、背丈と横幅がありそうだ。足跡は不明だが、高い場所の葉が食べられているから、カバぐらいの大きさがあるのかも知れない。

 そんな獣を倒す獣だっているはずだ。こんな場所で一服したいがためにブリッジに出るのは俺だって願い下げだ。


 獣道を作った者を見つけたのはその晩の事だった。数頭のカバぐらいの大きさの獣が暗視野装置で監視していた俺達の視野を横切った。角を平たくつぶしたような角を頭に付けた獣だったが、草食獣だからそれ程心配はなさそうだ。


 森に入って2日目の夜が明ける。

 朝から昨日と同じようにして立木を倒しながら奥へと進む。

 そんな日が5日程続くと、ヤグートⅡは大森林の奥へ10km以上進んだようだ。その日の終わりにまでに、周囲の草むらから標本を採取し続けているから、既に10本近く中型シリンダーが満杯になっている。

 明日は午前と午後の2回採取を行う事にした。かなりの亜種が存在しているから、見落としはなるべくさけたいものだ。


 森に入って10日目。ヤグートⅡは大森林の外があから15km進んだようだ。森の大きさが直径100km近いから、周辺部でこれだけ集められるとなれば、中心部は宝の山だろう。

 最後の大型シリンダーに標本を詰め込んでいるとき、レミ姉さんが大声をあげた。


「大きなのがやって来るわ。熱源反応が殆どないから爬虫類だと思うんだけど……」

「方向は?」

「北西、400mよ」


 急いでシリンダーを片付けると、姉さんの教えてくれた方向を見た。

防弾ガラス越しに双眼鏡の視野で動いているのは……、5mを超えるオオトカゲだ。トカゲと言うよりもワニに似た体形をしている。藪を倒しながらヤグートⅡに近づいてきた。

 

「確か自衛用に武器を積んでるよね?」

「ええ、屋根に収納式の25mm機関砲が載せてあるわ。連発ではなく単発モードだけど弾種は炸裂弾よ」

 どうやら、マニアックな武器らしい。その上、操作は後部座席で行うって事だから、姉さんに任せておこう。

 

 ドシン! と言う衝撃がヤグートⅡに走る。

 いつの間にか直ぐ傍にやってきて、車体に体当たりをしたようだ。

「振動解析で彼の重量が推定出来たわ。およそ2tってとこかしら」

 確かにそれぐらいはあるだろうな。近くで見ると潰したゾウにも見える。腹を付けずに4つの足でしっかりと立っているぞ。ひょっとして爬虫類ではなく恐竜の生き残りなのか?


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