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PH-024 白亜紀前期

 ヤグートⅡの前部席にエリーと座る。もちろん操縦はエリーが行う。俺はナビゲーターと言うところだろう。もちろん採取用のマジックハンドの操作は俺になるんだけどね。

 後部席にテーブルを挟んでレミ姉さんとレブナン博士が座っている。第二ゲート区の責任者のリンダさんと連絡を取っているのはレミ姉さんだ。今度の調査区域はかなり広いから、レブナン博士は俺の意見を取り入れ、分裂し始めた大陸の東を目指す。

 何となく分裂し始めた場所よりは大陸の端の方が変化が少ないんじゃないかという思いからだ。説得力はまるでないけど、レブナン博士は支持してくれたんだよな。科学的でないって他を推薦してくると思ってたんだけどね。


「年代、座標設定終了。もうすぐ時空間ゲートが開くわ!」

「了解。エリー、準備は良いのか?」

「後、1分待って。起動シーケンスが途中なの……。起動シーケンス、完了!」

「ヤグートⅡ出発する!」

 俺の声にエリーがジョイスティックを前に倒してキャタピラの駆動モータの回転数を上げる。ゆっくりとヤグートⅡが斜路を上りはじめた。


 波立つ鏡面を通り抜けると、ごつごつした岩場に俺達は出現した。

 空は分厚い雲に覆われてちょっと暗く感じるな。砂が風で流されているが、それほど風速は無さそうだ。


「気温20℃、湿度30%。酸素濃度22%……炭酸ガス濃度は私達の時代並みに高いわ。風速5m、東北東の風よ。車外での活動に問題はないわ」

「無人機を上げて周囲10kmの確認を願いします。異常が無いことを確認して、飛行船を上げましょう」

「了解。現在、周囲200mに動体反応無し。無人機を高度200mまで上昇します」


 レミ姉さんが無人機の飛ばすまでは俺とエリーで周辺の監視を受け持つ。仮想スクリーンを展開して動体検知センサーを見守りながら、防弾ガラス越しに周囲の観察を継続する。

 それも、10分程度でレミ姉さんが上空からの監視画像を得ることで終了した。周囲10kmに目立った反応は無いらしい。

 

「次は私の番ね。飛行船型ドローンを飛ばすわ。1機に30分ほど掛かるから、3機飛ばすのに1時間半は見て頂戴」

 レブナン博士が端末を操作してヤグートⅡの屋根に付けられたロープを開放する。ロープは火薬で焼き切ったようだ。小さな炸裂音が断続して聞こえてきたぞ。


「お兄ちゃん。くぼみの色が少し変わってない?」

 エリーの言葉にしわの寄った大地の谷をカメラで拡大する。地衣類が繁茂しているようだ。枯れた感じに見えるのは、実際に乾燥しているためだろう。ちょっとした雨で再び緑に変わるのだろうか?

 エリーがアナライザーで確認したライブラリーとの比較では55%の数値を示している。


「博士、早速エリーが見つけましたよ。亜種の可能性が高いです」

「採取して頂戴!」

 

 小さな標本だからな。降りて、車外の標本保管庫の小型シリンダーに入れるか。直径3cm長さ20cm程のシリンダーが2ダースほどあったはずだ。


「エリー、外に出て採取するから、ブリッジでバックアップしてくれ。ヤグートⅡから5mも離れないから降りるのは俺一人で十分だ」

「分かった。気を付けてね」


 俺達は前部席から通路に出ると、俺は後ろのエアロックに向かい、エリーは通路上部のラダーを下ろしてブリッジに上がっていく。レミ姉さんが下から銃を渡しているようだ。

 しばらくエアロックで待機してると、エリーからバックアップOKの連絡がトランシーバーに入ってきた。

 手袋をして、エアロックの外扉を開けて外に出る。

 ブリッジのエリーが見える場所まで行って手を振ると、エリーも手を振ってくれる。

 周囲10kmの状態をレミ姉さんがやってくれてるし、エリーも俺の周りに目を凝らしてくれている。危険性は全くないが、安全な事に越したことはないからな。

 ヤグートⅡの側面にある標本保管庫から#01のシリンダーを取り出し、エリーの見える場所で地衣類の採取を行った。採取ナイフで剥ぎ取り、状態の良い場所をピンセットでつまんでシリンダーに入れる。採取した前後の場所はレミ姉さんがカメラで撮影しているはずだ。これで、この時代の最初の標本が手に入ったことになるな。


 簡単な採取を終えるとエアロックで風の力で体のホコリを落し車内へと戻る。すでにエリーはブリッジから降りてレミ姉さんの隣でコーヒーを飲んでいた。

 博士の隣に座ると、俺にコーヒーのカップを渡してくれる。ありがたく頂きながら博士の状況を見てみた。


「2機は既に飛行中よ。現在3機目を準備してるの。盲点だったわね。これに早く気が付くべきだったわ」

 レブナン博士の開いている画像を見ると、北と西に飛行船を飛ばしているようだ。とは言え速度が遅いから、まだ数km位進んだだけのようだ。


「飛行速度が問題ですね。ここで1日は足止めになりそうですよ」

「1日ぐらいは我慢できるでしょう? 高度5千m程に上昇できるから、1日あれば広範囲に調査が出来るわ。食料と水は十分に積んでるから時間を心配する必要はなくってよ」


 確かに、そんな感じだな。ここはのんびりと植物の群落が見つかるのを待つことにするか。

 ブリッジに上って、一服を楽しんでいると、エリーがコーヒーを運んでくれた。一緒になってブリッジで殺風景な周囲を眺めながらコーヒーを飲む。

 

「次はどこに行くの?」

「そうだな……。エリーはどこに行きたいんだ?」

「恐竜が見たいな。プラントハンターなら大きなのや、変わった恐竜が見られるって、友達が言ってたもの!」


 そんな友達とは早めに縁を切るべきだと思うぞ。だけど俺も見てみたいな。恐竜の大量絶滅後の世界がこれだから、やはり直前の植物も揃えるべきだろうな。


「エリー、次はこの時代から60万年前に行くぞ。閑な時に、下調べをしといてくれないかな」

「了解!」


 俺に向けた顔は、目が輝いてるぞ。ハミングしながらコーヒーカップを持って車内に戻って行ったところをみると余程嬉しいんだろうな。

 再び、双眼鏡を取ると、周辺の風景を眺める。やはり何も無さそうだ。早く飛行船が群落を見つけることを望むばかりだな。

 もう1本タバコを楽しむと、俺も車内に戻ることにした。あまりサボっていると一生懸命仕事をしているレミ姉さん達に怒られそうだ。


 杉のような森を見つけたのは次の日の昼下がりだった。

「かなりの範囲よ。少なくとも直径200kmを超えているし、周辺にも1kmを超える森や林があるわ」

「大きな森から広がっていると考えられますね。距離はどれぐらいでしょうか?」

「南南西に1,200kmというところかしら。行ってみる? 明後日には到着するわよ」


 もちろん全員が賛成だ。エリーが操縦席に着くと、巡航速度の40kmで南南西を目指す。

「位置的には赤道を越えますね。北に向かった飛行船は何か捉えましたか?」

「小さな針葉樹の群落が広がっているわ。現在は西に向かっているけど、かなり広範囲に調査できるから、調査の抜けをギルドに戻って確認できるわ」

「南南西に向かった飛行船の高度を下げて、詳細な情報を採取してください」


 エリーはクルージング機能を使ってヤグートⅡを動かしているようだ。起伏はあるが大きな障害物がないから丁度いいんだろう。片手間に白亜紀後期のライブラリーを開いて読んでいる。まあ、何かあればアラームが鳴るからな。その間は俺が前方を監視していればいい筈だ。

 1時間程退屈な時間が過ぎたところで、レミ姉さんが動体を検知したと教えてくれた。

 エリーと姉さんが告げた方角を見ていると、砂塵が見える。


「お兄ちゃん、恐竜だよ。鳥に見えるけど、羽が小さいしカギ爪を持ってるもの!」

「そうだな。だけど体高が1m程だぞ。だが、突き出た口には歯が並んでるな」


 進化して突き出た口は嘴になるんだろう。まだ、恐竜が生き残ってたんだな。

 距離が離れているから、双眼鏡でよく観察してみると鳥に似た恐竜の前を何かがすばしこく走っている。ネズミに似てるが体がおおきいぞ。どうやらその獣を集団で狩っているように見える。

 

「獣脚類ね。ラプトルの一種かしら? 白亜紀にはいなかったわ」

「絶滅を免れた種も沢山いるってことでしょうか?」

「もっと禁止区域が緩和されると分かると思うけど、動物の免疫システムは結構分かってきてるのよ」


 魅力がなければ、それまでってことだな。それでも、プラントハンターが持ち帰った映像は生物学者を喜ばせているだろう。そして、悔しがらせているのも事実だろうな。画像はあくまで表面的なものだし、その遺伝子の変化を追うことまでは出来ないし、能力を見極めることだって出来ないに違いない。


 日が沈んでもヤグートⅡは前部の照明灯を点けて疾走していく。曇り空だったから、星も見えない真っ暗な荒野だが、姉さんの話では昼よりも生物の動きが活発になっているらしい。

 夜行性ということなんだろうが、真っ暗で餌を探すにであれば、嗅覚が発達した草食性の動物とそれを狙う聴覚が発達した肉食動物なんだろう。

 たまに照明灯の明かりに照らされる大型犬程の動物がいるのだが、はたしてどっちの種類かまでは分からない。すぐに暗闇に逃げ込んでしまうからな。


「気温が上昇してるわ。現在26度。湿度は50%を超えたところよ」

「森から出る水蒸気がここまで流れているのかしら? 森の中は生物で一杯よ。昼間は赤外線で探知出来なかったから、穴の中や深い藪に隠れていたらしいわ」


 生物が豊富だということは餌となる植物も多種になるということだ。雑食だろうが、少なくとも好き嫌いあるだろう。植物もそんな危機に対処する為に色々と進化したはずだからな。


 交代で睡眠を取りながらひたすら南南西にヤグートⅡを走らせる。昼近くに俺達がベッドから降りると、簡単な食事が始まる。

 レブナン博士手作りのチーズサンドらしいから、ありがたく甘いコーヒーと一緒に頂いた。

 早ければ今夜には巨大な森の外周部に点在する森に到達する。それで嬉しいのかな? 博士が食事を作るのは初めてだぞ。



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