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PH-022 泉の調査

 早朝に第二ゲート区画に行くと、既にヤグートⅡが斜路の前に停車していた。全体的には潜水艦にキャタピラを付けたシルエットに仕上がっている。側面に扉を付けなかったのは失敗だったかな。


「早かったわね。すでに積み込みは全て終了よ。成功を祈ってるわ」

「ありがとう。設定は調査機内で再確認するわ」


 レミ姉さんがリンダさんにそう言って握手をしている。俺とエリーは軽く頭を下げ、レブナン博士は片手を上げての挨拶だ。

 後部にあるエアロック室から乗り込んで、最後の俺がハッチを閉めるとロックハンドルを回して密閉した。続く扉の密閉を行って、前部のエリーの隣の席に着く。

 シートベルトをしている間に、レミ姉さんとリンダさんの間で行き先の年代と座標の設定確認が行われている。


「設定完了。時空間ゲートが開くわよ!」

斜路の上部が明るく輝くと、時空間ゲートが出現する。エリーガヤグートⅡを波立つ鏡面に向かってゆっくりと進めせて行った。


 ヤグートⅡが時空間ゲートに飲み込まれた瞬間、俺達は見知らぬ砂漠地帯に出現した。大きな砂丘が見渡す限り続いている。

「温度35℃、湿度10%。酸素濃度22%、有害ガスは検知されないわ。炭酸ガス濃度は私達の時代の十分の一よ」

「外に出てもだいじょうぶということですね。了解です。姉さん、無人機で周辺を探索してください。オアシスを探しましょう」


 無人機が飛び立ち、俺達は後部座席で壁に映し出された映像を見守った。

 周囲20kmには何もない。元々目標となる場所が砂漠地帯だったから、ギルドも詳細な地図を作らなかったようだ。緯度は太陽高度でおおよそ分かるが経度は分からないからな。無人機の画像で探す以外に手は無い。


「さすがに何も見えないわね。高度3千m。少なくとも周囲50km以内には植物の群落さえないわ」

「ですね。時間はたっぷりありますから、西に向かいましょう。100km程移動して再度高空から調査します」

 

 エリーがヤグートⅡを前進させる。砂丘は続いているが危険な地形ではない。上空から撮影された画像を見ながら地形を確認しているのだろう。かなり速度を上げて進んでいる。

 この世界を選んだ理由の1つが、車外に出られることだ。砂漠地帯だから危険な生物だっていないだろう。

 新しく出来た屋根の上のブリッジに、通路のタラップを降ろして上がった。

 ブリッジの床面は横幅1m、長さ1.5m程だが、2人ならばここで見張りに立てそうだ。ブリッジ後方には伸縮式の多機能センサーを載せたポールが立っているが、今はブリッジと同じ高さを保っている。

 3m程伸びるそうだから、夜間の周辺監視は300mを越えるんじゃないかな。危険性が無ければ全員で寝ることも出来そうだぞ。

 そんなことを考えながらタバコを楽しむ。10分程度の休息だが、俺にとっては一人になれる貴重な時間だ。


 砂丘の上り下りが連続するから、飲み物はカップに蓋を付けてストローで飲むことになる。エリーとレミ姉さんが30分程で交代しながら操縦をしているようだ。

 レブナン博士は忙しそうに情報を集めている。キャタピラの転輪に付けた圧力センサーを解析すると砂地の情報が得られるらしい。

 ギルドでの情報が不足している場所だから、博士にとっては貴重な情報になるんだろうな。


「そろそろ最初の地点から100kmになるわ。停車して上空からの周辺監視を行うわね」

 再度、無人機が上昇していく。だが、やはり見つからなかった。

 見つからなければ、また進めばいい。気落ちせずに俺達は西に向かって進んで行く。

                 

 砂漠に広がる緑のオアシスを見つけたのは、翌日の夕方近くだった。

 無人機で上空から観察した状況では、直径およそ10kmで、南に蛇行した流れが続いている。流れは流砂でかなり変化しているらしく、南には幾筋もの枯れた川の址が見受けられた。

 

「確かに色々とありそうね。バンター君の調査に同行して正解だったわ」

「問題は敵性生物がどれぐらいいるかですね。距離300mまで接近して動体センサーで確認しましょう。高空からの熱源解析はお願いします」

 

 哺乳類なら赤外線で撮影された時間差を持った画像を解析すれば分布が分かるだろう。上手くいけば個体の大きさまで分かるかもしれない。爬虫類は動体センサーを使うしかないが、あまりオアシスに近付くのも問題だな。


「ドローンを射出してみましょう。2機あるから、この泉の奥と手前に落とすわ。振動センサとマイクがあるから、爬虫類でも観測は可能よ。カメラも付属してるけど、固定焦点だからあまり期待は出来ないわ」

「それでも助かります。でも、回収できるんですか?」

「100時間後に強酸で内部を破壊するわ。外部は薄い鉄製だから痕跡が残るぐらいでしょうね。少なくとも化石にはならないはずよ」


 出来る限りオーパーツは作らないほうがいい。一応その辺りは考えているようだ。

 無人機が杖のようなドローンを運んでオアシスの中心にある泉の周りに落としてきた。直径200m程の泉は月光に照らされて輝いている。さて、どんな生物が確認できるかな。


 深夜、警報音で目が覚めた。

 2段ベッドの上に、エリーと一緒に寝ていたのだが、直ぐにエリーを起こして、ベッドを降りて、天井にベッドを収納する。

 レミ姉さん達も既に起きて、テーブルを作っていた。エリーは、そのまま操縦席に飛びこんで緊急移動の準備を始めた。


「何でしょうか?」

「どうやら、泉で動きがあったようね。今画像を出すわ」


 仮想スクリーンが展開して、そこに映し出されたのは小型のゾウのような獣に群がる犬のような獣だ。

 ゾウのように鼻が長くないけど、これから長くなっていくのだろう。犬のようにも見える獣は、これから犬になるのか猫になるのか微妙なところだ。両者の特徴を持っているようだ。

 

「あれって、ゾウの祖先ですよね。鼻って最初から長くなかったんだ」

 エリーも画像を見てるんだろう。そんな感想が聞こえてくる。

「大型は草食性で小型が肉食性にようね。でも、あのゾウはこの時代の大きさとしては小型過ぎるわ」

「環境がそうさせたんでしょう。大型ならこれ位のオアシスでは生存できないでしょうし……」

 

 映像が夜間モードだからあまり鮮明ではないが、かなり傷ついているようだ。少しずつ泉に近付いている。泉に入って肉食獣から逃れるつもりなのだろう。

 ついに泉の中に逃げ込んだようだ。それでも小型の獣が次々と泉に飛び込んでいるが、先に入ったゾウが泉の中で暴れだした。

 小型の獣は恐れをなして泉から抜け出している。どうやら、泉の中にも獰猛な奴がいたみたいだ。


「姿が見えませんね。水生生物でしょうが……」

「魚類の進化のほうが遥かに早いわ。肉食魚ということになるのかしら?」

「泉は危険ってことになるのね」

 

 レミ姉さんの言葉に博士が頷いている。

 周囲の安全が担保されなければこのまま泉に向かっても良さそうだな。かなり頑丈な調査機だから、あまり心配しないで良さそうだ。


 俺達はそのまま朝を迎えた。この時代にも鳥はいるようで朝早くから鳴いている。俺達は朝食を食べながらこれからの調査ルートと手段を検討している。

 やはり、オアシスを横切り最短ルートで泉に向かうのは、却下されてしまった。その方法も可能ではあるが、かなりのヤシに似た葉を付ける樹木を切り倒さねばならないようだ。強引な方法はなるべく避けるのが、プラントハンターの暗黙のルールらしい。


「それでは、川から進むということで良いですね?」

「水は澄んでいるし、無人機の映像で見るかぎりは地盤もあんていしているようだわ。岩盤らしいわね。砂は既に流されているんでしょうね」

「下流方向に20km進んだところから川に向かうわ。この砂丘と砂丘の合間を抜ければ直ぐに川岸よ。この辺りの林は木が少ないから直ぐに川に入れるわ」


 エリーが説明したルートを採用し、ヤグートⅡは南に進路を変えて進む。

 エリーの隣に俺が座って、いよいよ採取が始まりそうだ。レミ姉さんと博士は後部座席で、周辺監視と昨夜の情報を纏めているようだ。

 右側に見えていた大きな砂丘が消えた時、エリーは進路を右にとった。前方に緑の林が見える。川の流域に沿って伸びる林だが、その奥行きは100mもない。

 砂地の下は直ぐに岩盤だから根もあまり張れないのだろう。オアシス地帯と同じ植物に見えるのだが、樹高は3m程でしかない。

 更に近付くと、林の奥に一筋の流れが見えてきた。川幅は20mも無さそうだ。どれぐらいの流速があるか不明だが、砂漠の中をどこまで流れて行くのだろう。


「このまま、川にドボンで良いんだよね?」

「ああ、それでいい。流れがどれぐらいか分からないから、出来れば上流に向かって入ったほうがいいぞ」

「了解!」


林に入って川まで30m程に近づいた時、エリーがいきなり速度を上げた。そのまま川に飛び込むと、上流に向かってヤグートⅡの頭を向ける。

「15cm毎秒、水深1.2mというところかしら? 毎秒約4tの水が泉から噴出していることになるわ」


 かなりの水量だ。この川の流域が気になるところだが、それほど速い流れではないから、水草が流されることも無い。30cm程に伸びた茎を揺らめかせて川底にびっしりと生えている。まるで絨毯のようだな。

 そんな水草を1本引き抜いて、アナライザーでライブラリーと比較した。


「65%。地域的な変化にしては大きいわ。シリンダーに納めて頂戴!」

「了解です。近くに数種類ありますから、全て照合してからまとめて入れときましょう」


 レミ姉さんと、博士は忙しそうだ。川に入って直ぐにライブラリーを補足する水草が見つかっているからかなり期待してるのかもしれないな。

 上流に向かってゆっくりと進んでいるから、足元直下の防弾ガラス越しに水中が見える。俺は防弾ガラス越しに、レミ姉さん達は調査機下部のカメラをが捕えた画像で水草を次々と確認していった。

 

 エリーが泉が見えると俺達に告げた時には、2つのシリンダーにたっぷりと水草が詰め込まれたいた。

 採取地点が一緒ならば、シリンダーを分ける必要もないと博士が言っているけど、後で分類するのに困るんじゃないか?




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