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PH-021 俺達に出来ること


 島から離れた沖合いはだいぶウネリがつよい。島はあっちだとエリーが言っていた方角を、屋根の上の観測台に立上がって覗いても全くそれらしい影はない。

 レミ姉さんの通信であちこちが最低限の準備を始めたようだ。あまり科学的な根拠が少ないから、そんなものだろう。それでも動いてくれただけ大したものだと思うな。

 現在のヤグートⅡは観測拠点に変わっている。生物観測用のドローンを海底に下ろして、観測された値をスクリーンで博士が睨んでいる。温度、圧力、振動と周辺の動体センサー位なのだが、それでも地震発生の瞬間を捉えられれば貴重なデータになるらしい。

 俺には海底3千m付近に落としたドローンの信号をケーブルも使わずに受け取れる方が不思議だけれどね。

 

 屋根から下りると、テーブル席に座ってエリーと一緒に俺達が本来、向かおうとした島の光景を仮想スクリーンで眺める。どうやら、ホテルの固定カメラらしいな。渚で遊ぶ観光客の安全を監視するためのものらしい。


「さすがに人が少ないよ。さっきまでは大勢いたんだけど……」

「注意報を出したんだろうな」

 ある程度は危機管理を自発的に行える連中らしい。まだ残っている連中はそれなりの覚悟が出来ているんだろう。

 確実に地震が起きるとは限らないから、それも仕方の無い事ではあるのだが……。


「大規模な振動を感知。凄いわ、圧力センサーで水圧変化が捉えられたわよ。レミーネ、至急関係機関に連絡。大規模地震が発生したわ。津波警報も併せて出すように!」

「メール文の2案目を送信します。私達はどうしますか?」


 突然、ヤグートⅡが上昇した。思わずテーブルを押さえて投げ出されないようにしたが、膝を強く打ってしまった。顔をしかめて膝をさすっていると皆も同じように両手で足を撫でていた。

 

「ちょっと痛かったけど、これ位で済んで良かったわ。津波が発生したようね。事前警告で少しは被害が減れば良いのだけれど……」

博士の言葉が終わるころには以前の海に戻っていたが、被害は相当なものなんじゃないかな。地震と津波のダブルパンチをこの周辺の区域では受けたに違いない。

 ヤグートⅡが周辺の放送局の臨時ニュースを捕えていた。スクリーンに映し出すと、やはり被害は出ている様だ。

 先ほど渚を映していたホテルの監視カメラは10m近い津波が押し寄せてきたことを捕えている。ホテルは頑丈そうだから、上階に避難すればだいじょうぶだろう。

 この海域を領海に持つ国の軍隊も動員がされているようだ。海軍の艦艇は練習航海を終えて、この区域に向かっているらしい。

 

「もうすぐ、救援の船がやって来るわ。バンター君、屋根で流されてくる漂流物に人が紛れていないか確認して!」

「了解。エリーも一緒だ。姉さん、ヤグートの操縦を頼むよ」

「分かったわ。調査用の小型ボートがあるから、連絡してくれれば射出するわよ」


 ゴムボートを積んでいるのか。それなら救助もしやすいだろう。俺が先に屋根に上ると、エリーがロープを持ってあがってきた。確かに必要だな。

 2人が上ったところで、周囲を双眼鏡で眺めていると、見張り台の周囲を囲む柵が上昇してくる。少し太めの柱は油圧で上下するようだ。1m程に伸びてくれたから、柵に寄り掛かって体を安定させる。


 ヤグートⅡは、ゆっくりと島に向かって進んでいるようだ。この速度なら島に着くまで1時間は掛かりそうだな。

 まだ漂流物は見えない。タバコを取り出して一服を始めた時だ。かなり離れた場所に水煙が上がって、潜水艦が浮上してきた。

 距離は1kmはあるんじゃないかな。それでも、ブリッジや甲板に兵士が現れたのが見える。

「うんうん、分かった。伝えるね!」

 隣のエリーがトランシーバーで車内と会話をしている。あの潜水艦と何か話し合ったのかな?


「潜水艦の左舷300mに移動するって。潜水艦からボートを2隻下ろして、それを右舷に並べると言ってるから、横一列に並んで島に近づくって事だよね」

「捜索を密にしたいんだろうな。無人機で先行偵察ってことも出来るんじゃないか? 下に連絡してくれ」


 タバコを終えたころに、後ろから無人機が上空に上がっていく。

 イオンクラフトだから、長時間は無理だが、2時間ほどなら上空からの画像を送ってくれるはずだ。

 潜水艦からも大型の無人機が飛び立っていく。元々が捜索ようだから俺達の無人機よりも広範囲に情報を得られるだろう。

 

 300m横に潜水艦が浮かんでいるのだが、うねりでその姿が見えなくなる時がある。それでも両側から見張れば海流に流された人を見つけることが出来るだろう。

 右舷をエリーに任せて俺は左舷を見張る。エリーがそろそろ漂流物が見えてくると、知らせてくれた。車内からトランシーバーで連絡を受けたのだろう。

 役目を終えた無人機が帰って来る。いよいよ俺達の出番だな。


 木切れや、プラスチック製品がヤグートの周りに流れてきた。

「お兄ちゃん。見つけたら、潜水艦に連絡して欲しいって。もう過ぐやって来る垂直地着陸機で救助するって話だよ」

「了解だ。近くまで母艦が来てるんだろう」


 最初に漂流者を見つけたのはエリーだった。木切れをしっかり掴んで浮かんでるようだ。連絡を受けた垂直離着陸機が水素タービンエンジンの甲高い音を響かせて急行していく。

 段々と海面がガラクタで埋め尽くされていく。そんな中で俺達の姿を見て手を振る者には手を振ってあげる。それだけでも安心したような表情を見せてくれる。直ぐに連絡すると、上空から甲高い音が聞こえてきた。

 何度かそんな事を繰り返していると、後方から中型の巡視船が近づいてきた。どうやら俺達の役割は終わったらしい。後は沿岸警備隊と軍隊に任せよう。


 少し速度を上げて島に近づいた。海辺に建っているホテルは2階部分にまで海水に浸かったようだ。やはり10mクラスの津波に襲われたらしいな。

 渚をキャタピラで登って行ったが、周囲の崩れた家屋を見て、ヤグートⅡを早々に停止させた。このまま動いたんでは、下敷きになった人を押しつぶしかねない。

 4人で調査機を降りて、近くのホテルに向かう。

 全員野戦装備だ。念の為に拳銃だけをバッグの後ろに隠し持っているが、レミ姉さんとレブナン博士は大きなバッグを抱えていた。どうやら医療器具と医薬品らしい。俺とエミーにもナップザックを持たされたが、中身は非常食と飲料水らしい。

 

 渚から200も離れていないのだが、それだけで30分も掛かってしまった。更に上階に行くための階段を塞ぐ瓦礫を撤去してどうにか避難者のところにたどり着いたのが1時間後だ。

 ホテルの責任者に身分と持参品を見せて、直ぐに臨時の治療所を開設する。

 運んできた、通信機で沖合に停泊する軍の艦隊と連絡を取り、救助要員の派遣を依頼する。

 このホテルがこの島の対策本部になるのかな。

 レミ姉さん達に救護所を任せて俺とエリーはホテルの客の有志を集めて救援を待っている人を救いに出掛けることにした。

                 ・

                 ・

                 ・


 島に夕暮れが迫っている。南の島の日没は夕焼けが綺麗なのだが、そんな光景を眺めている者は一人もいない。

 救援に駆けつけた兵士が次々とホテルの屋上に離着陸機から降りて来ると分隊単位で島の人々の救援に出て行った。

 国が一時的にホテルを借り受け、宿泊客は既に島を立ち去っている。

 このホテルにいるのは救援を取り仕切る兵士と1フロアを占領した救護所それに物資の兵站基地の連中だ。


「さすがはプラントハンターギルドの博士だけの事はありますな。被害を最小限にして頂き感謝しきれません」

「たまたまですよ。何時もとは行きません。それで、私達は本来任務に向かおうと思っておりますが、お許し願えますか?」

「もちろんです。後は我らの仕事です。聞けば保養に来られたとか。私からもギルド長にお礼を言っておきます。出来れば休暇の再考をと言い添えておきますぞ」


 数日後、本格的に救援が行われ始めた時に指揮官を訪ねたのだが、先方は好意的だった。とんだ休暇になってしまったが、上手く行けば特別休暇が貰えそうだな。

 指揮官にお礼を言って、俺達は久しぶりにヤグートⅡに引き上げた。

 帰るだけで2日掛かるから、まあ、のんびりと過ごそう。最悪は3日程のヤグートⅡの再調整をして俺達は採取の旅に出なければならない。


 帰路をクルージング機能で自動に設定すると、今度の旅で改造しなければならない部分を話し合った。

 全体としては、良くできた機体だ。水陸の動作に不都合はない。唯一あるとすれば、屋根の見張り台だ。高さ1m程のブリッジにすれば波を被ることもないだろうな。周囲の監視センサーを一括して潜望鏡のようにブリッジ後方に付ければ、それを支えにして立つことも可能だ。


「外に無いかしら?」

「調査用のゴムボートがあるそうですが、必要はないでしょう。その空間を飲料水タンクにすれば、安心してシャワーを浴びることが出来ます。浄水器でも良いですね」


 俺達の要望を仮想スクリーンを使って纏めている。

 更に改造が進むんだろうか? そうなると、俺達専用機になりそうだぞ。

 2日後にギルド施設に戻ると、直ぐに改造が始まる。俺達4人には臨時休暇が10日付加されたが、レブナン博士は改造の指揮を執るらしい。休暇と言っても、俺達は施設から出られないので部屋でのんびりと過ごすことになる。

 エリーとレミ姉さんは、仮想スクリーンでカタログショッピングに励んでいる様だから、俺は昼寝の最中だ。

 

 明日は出発という昼下がりに、俺の部屋に4人が集まり、持っていく資材の最終確認を行う。

 レミ姉さんの作ったリストを仮想スクリーンに展開して過不足が無いことを個々に確認するのだが、白亜紀前期にしては持ち物が多くないか?

 予備の食料を入れると20日分はありそうだ。飲料水も10ℓの容器を6個積んでいるし、真水タンクには300ℓも入れていくようだぞ。2回以上はシャワーを使えそうだ。


「便利そうだから、これも手に入れたわ。採取用ナイフの柄の部分に、ピンセットとハサミが入っているの!」

 少し柄の長いスコップナイフを渡してくれた。柄の後ろの蓋をねじると取り出せるらしい。確かに小さな標本にはピンセットは使えそうだな。

 その外には、小型のルーペと親指程の小さな密閉カプセルも買い込んだようだ。ヤグートの外にある保管庫には、数m伸ばせるマジックハンドや、ノコギリも入っているらしい。

 個人装備のバッグにも虫除けネットやゴーグル、手袋等が入っている。これだけあれば十分じゃないかな? 別にその世界で暮らしていくわけじゃないからね。



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