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PH-002 プラントハンターギルド

 次の朝、レミ姉さんがエリーを連れて俺の部屋にやってきた。エリーも同じようなトランクを引いているから中身も同じなんだろうな。


「これからは一緒だよ。お兄ちゃん!」

 俺達の仕事がはたしてエリーは分っているのだろうか?

「さあ、シスターがお待ちですよ。行きましょう」

 レミ姉さんにうながされて、俺もトランクの引手を伸ばして姉さんの後に付いていく。

 俺が良く考えもしないで決めた進路だ。それに付き合うエリーには申し訳ないが、どうもこの世界の事が分からぬ以上ありがたい話だ。

 だけど、レミ姉さんには俺の選んだ道がある程度分かっているような感じだな。

 それでも俺の進路を変えようとしないのは、俺にはそれが可能だという事なんだろうか?


「ここよ。長らくお世話になったんだから、最後の挨拶はしないとね」

大きな扉の前に来ると、俺達に振り返ってそう言うと、扉をノックした。

 扉を開くと、大きな部屋の奥に机があり、シスター姿の老女がこちらを見ている。


「2人を連れてきました」

レミ姉さんが俺達の横に移動した。ここからは俺とエリーが進む番だな。

机の手前まで移動すると、かなり歳を取ったシスターのようだ。俺とエリーが分かるのだろうか?


「長らくお世話になりました。本日、エリーと共に自分達の道を進みます。シスターもお体を大切になさってください」

「バンタ―にエリーですね。別れの日がやってきましたか……。月日の流れは早いものですね。プラントハンターは過酷な職業です。ですが、私にはあなた達の選択は正しいと思っています。これを持っていきなさい。かつて私がハンターをしていた時の情報です。最初の採取には役立つでしょう」


 小さな結晶体を俺の手に乗せてくれた。

 使い方は分からないけど、エリーに渡しておけば良いだろう。ありがたく頭を下げて頂いた。

 シスターの部屋を出ると、施設の玄関へと歩いて行く。

 今度はエリーが先に立って歩く。結局、この施設の詳細は分からなかったな。

 玄関にはレミ姉さんが赤い自動車を横づけしていた。

 後ろにトランク2つとエリーが乗り込み、俺は助手席に乗り込む。


「もうここに2度と戻ることはないでしょう。見納めになるわ」

「レミ姉さんとも会えないって事ですか?」

「ちゃんと会えるわよ。ここには戻れないけど、私があなた達のところに行くのは問題ないわ」


 そんな事を言って、泣き出しそうになったエリーの頭をなでなでしている。


「連絡先はここね!」と言って、俺にカードをくれたけど、これもエリーに渡しておこう。

 車が施設の門を出て、予想していた市街地とは反対に進んで行く。

 もっとド田舎にあるのか? まあ、市街地には緑が少ないけど、それにしても……。 

 いつの間にか、舗装道路ではなく砂利道だ。確かに周囲は緑になってはいるんだけどね。


「あれがそうよ! 大きいでしょう。市街地にはイオンクラフトで行けるから、30分も必要ないわ」


 道路を走りながらレミ姉さんが話してくれるけど、あまり話すと舌を噛みそうなぐらいに揺れてるぞ。

 レミ姉さんが教えてくれた施設を眺める。確かに大きい。まるで1つの都市のようにも見えるんだけど。あの施設で草木を採取するってのは少し無理があるんじゃないか?

 

 30分ほど走ると道路が舗装されてきた。途端にレミ姉さんが車の速度を上げ始めた。

 今までトロトロ走っていた反動なんだろうか? 意外な一面があるんだな。

 そんな事に感心していると、どうやら正門に着いたようだ。警備員に何かを示すと、レミ姉さんはそのまま車を施設の一角へと走らせた。

 まるでピラミッドだな。数棟の建物は三角錐で形作られている。その奥に塔のような建屋と立方体の建物があり、太さ10mもある何本ものチューブで連結されている。


 俺達を乗せた車は、立方体の建屋の一角に停まった。目の前に玄関があるから、ここが中央建屋のようだ。


 「後は2人で行きなさい。最初の休暇には連絡を頂戴ね。エリー、書類を受付に出せば、後は向こうで全て教えてくれるはずよ。バンター君の記憶が戻っていないから力になってあげてね」

 そんなレミ姉さんの言葉をエリーが頷いて聞いてるぞ。

 俺達はトランクを車から降ろして、改めてレミ姉さんに頭を下げる。俺達に手を振ると、車を走らせて行ったけど、さっきより速度を上げてないか? 途中で事故なんか起こさないだろうな。ちょっと不安になる姉さんだな。


 トランクを引いて玄関口を登り、エントランスホールに入る。

 そこは高さ30mもの吹き抜けがある大きな空間だ。30m程先にカウンターがあり、3人のお姉さんがこちらを見ている。あれが受付なんだろう。

 エリーに頷いて、俺達はエントランスの奥へと歩いて行った。


カウンターの真ん中でこちらを見ていたお姉さんにエリーが書類を渡す。

俺達から目を離して、書類をパラパラとめくると、もう一度俺達を見た。


「バンター・ヤグート並びにエリーシャ・ヤクネン。あなた達のギルド加入を許可します。これがあなた達のTAGになります。常に首に下げていなさい。これは施設での生活に必要な機材1式です。現在のプラントハンターの登録者は約2千名。各地に散って活動しています。明日から3日間、プラントハンターとなる為の教育を行います。これが明日からのスケジュールです。では、部屋に案内します」


TAGと呼ばれる金属製の小さな板には、俺の名と10桁の数字が刻印されている。この施設で働く人達の認識番号ってとこだろうな。1つずつ渡された小さなポーチには何が入っているのか分からないが、後で調べれば良いだろう。

俺達がTAGに付けられた鎖で首に下げると、俺達の両側にいつの間にか1人のお姉さんが立っていた。


「よろしいですか? この施設で暮らす間は、これから案内する居住区の個室を利用することになります」

お姉さんの後からトランクを引いて、居住区と呼ばれる建屋に向かう。


話によると、この施設での暮らしには先ほど渡されたポーチに入っているギルドカードで全て決算されるようだ。市街地に行っても、銀行カードと同じように使えるらしいから無くさないようにしなければなるまい。

 携帯端末で必要な情報を呼び出せるらしい。施設の区画図はもちろん、各地の地図や地形図、各種図鑑までもが既にファイル化されて入っているとの事だ。

 闇雲に草木を集めるわけではないようだな。何をどこで、どれだけ集めるかぐらいの指示があれば、この携帯端末を使って目的地に向かえばいいのだろう。


 長い通路を歩き、いくつかのエレベーターを乗りついで着いた場所は、ホテルのような区画だった。

 西(W)403と404これが俺達の部屋になる。隣同士ならば何かと心強いな。


お姉さんが金属プレートに西(W)403と書かれた扉をカードを使って開錠する。部屋の中は、今朝後にした養護施設の個室よりはるかに大きい。

1ルームではあるが、シャワールームまで完備されているぞ。ベッドは大きいし、数人を招くことも出来そうなソファーセットまで付いている。窓の外は緑の草原だ。遠くに雪を頂いた山脈が見える。


「ロッカーは壁に収納されます。自動ロックですから部屋の持主以外で開けられるのは、私達管理局の許可された者のみになりますが、死亡判定結果を得るまでは許可が下りませんから安心してください」

 

 物騒な話だな。だけどそれだけセキュリティを大切にしているんだろう。

 一通りの話を、一方的にし終えると、お姉さんは部屋を出て行った。


「まだ昼食には間があるよね。着替えて来るから、お兄ちゃんも着替えた方が良いよ」

エリーが手を振りながら部屋を出て行く。

1人になった俺は、ソファーに座ると、受付で貰ったスケジュール表を確認した。3日間の教育なんて意味が無いような気もするが、時間と科目ぐらいは見ておいた方が良いだろう。


 教育時間は0900時だから9時丁度からのようだ。簡単なオリエンテーションを終えて、午前中は睡眠学習らしい。1時間の昼食休憩を経て、午後は2時間の実技が2回あるようだ。

 それが3日続くとなると、睡眠学習だけでかなりの教育を受けたことになる。優に専門学校程度の知識を得ることになるんじゃないかな。

 注書きに装備を整えて臨むようにと書かれている。参考的な装備のリストを見ると、俺達が運んできたトランクの中身と同じだな。

 

 扉のノックの音はエリーのようだ。

 セキュリティが良いから、通路側から開けられるのは俺と、許可のある者だけらしい。直ぐに開けてあげると、戦闘服に身を包んだエリーが姿を現した。


「どうしたんだ?」

「あれ? お兄ちゃんは、まだ着替えてないの。施設内での私達の服装は、この格好らしいよ。パンフレットの表紙に画像付きで書かれてたでしょう?」


 そう言えば、俺は表紙は気にしてなかったな。改めてパンフレットを表にして、その記載箇所を確認する。……確かにエリーの言う通りだ。

 シャワー室に戦闘服を持っていき、直ぐに着替え始めた。

 インナーは体に密着するが、動きには全く抵抗とならない。かなり特殊な繊維で編まれた服らしい。形的にはタイツと長袖のTシャツのようだ。

 その上に着る上着は胴体だけのウエットスーツのようにも思える。肩と胸にパットが入っているが、これってヨロイの機能を持つのだろうか?

 幅が5cmもある装備ベルトには、サスペンダーのような補助が付いており、サスペンダーとベルトのストラップを使用して各種の装備を取り付けられるようだ。サスペンダーの右肩後ろに片手剣をケースごと取り付け、ごついリボルバーの入ったホルスターは腰の後ろに取り付けた。大きめのバッグがその上に乗るような形だが、こんなのを使う事が度々あるとは思えない。

 バランスを調整して、シャワールームを出ると、エリーがソファーに座って、端末が投影するスクリーンを眺めている。


「こんなんで良いのか?」

「うん、似合ってるよ。……後は、これをベルトに付けて、カードは胸のところにあるカードケースに入れておけば完璧だね」


 俺のトランクから、小さめのナイフを取り出して、ケースごとベルトに取り付ける。反対側には、弾丸ポーチを取り付けた。

 受付で貰ったポーチを開いてバングル型の端末を右腕に付ける。左腕には小さめのバングルを付けたが、これは何の目的だ?

 

「これでいいよね。そろそろ共有区画に行こう! お腹空いちゃった」


 これを着て行くのを少しためらうのは俺だけなんだろうか? ウキウキして俺の前を歩き出したエリーを見て、俺も後を追う事にした。


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