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PH-019 南の島へ

 ヤグートⅡの屋根の上は眺めも良いし、エリーの操縦で結構スリルも味わえる。意外と、楽しい場所じゃないかな?

 たまに、レミ姉さんがやってきて、きゃあ、きゃあ言いながら俺にしがみ付くんだけど、いったい姉さんの歳はいくつなんだろう? 小さいころから今の容姿だったような気がするな。とは言え、今更、聞けないし……。まあ、姉さんであることは変わりない。


「エリー。前方に運河が見えてきたぞ!」

「了解。ここからだとまだ見えないけど、後3kmも無いのよね」


 トランシーバーでエリーに伝えると、俺も車内に戻る事にした。運河は見る限り、浅瀬がないようだ。このままドボン! て事になると、投げ出されそうだからな。車内にいた方が安全だろう。


「あら、戻ってきたの? そう言えば、そろそろ運河だったわね」

「運河に入れば、海まで真っ直ぐよ。途中に閘門が1つあるけど、クルージング機能に任せておけば安心だわ」


 全部席に移動すると、既に前方に運河が見えている。

 横幅50mの運河の全長は1千kmを超えるらしい。エリーも少しは休めそうだな。何度か運転を代わってあげたけど、10分もしないで戻って来たからな。


「後、200mで運河に入るよ!」

 やはりこのままドボン! みたいだな。まったく速度が変わらない。シートベルトをもう一度確認しておく。


バシャアァァン! と盛大な水飛沫を上げて、ヤグートⅡが運河に飛び込んだ。一瞬、ヤグートⅡの前部が水中に沈んだが、直ぐに浮かび上がると、左にゆっくりと回頭を始めた。


「クルージングを自動に切り替え終了! 後はお任せだね」

 大きく両手を頭の上に伸ばしながらエリーが呟く。

 俺達はシートベルトを外して、後部席のテーブルに移動した。


「ご苦労さま」

レミ姉さんが俺達にコーヒーのカップを渡してくれた。自分達のカップにもポットの残りを注ぎ足している。


「海に出るにはどれ位掛かるんですか?」

「そうねえ……。時速15km位だから、10時間位かな。閘門を通ると直ぐに海に出るわ」


 4人が揃ったところで、昼食を取る。

 サンドイッチにコーヒー。ちょっとした果物ってのは、なんかピクニック気分だな。夕食がちょっと楽しみになってきた。


「ところで、博士はお忙しくはないんですか?」

「あら、とっても忙しいわよ。でもね。全部、ラボの連中に押し付けてあるから大丈夫よ。それに、採取してくるバンター君と一緒なら初期の分別が出来るから、結果的にはギルドの為にもなるわ」


 レブナン博士のラボの連中が気の毒のなってきたぞ。いや、ひょっとしたら羽を伸ばしてるのかも知れないな。今頃は皆で反対方向に遊びに出掛けてるんじゃないか?


「という事は……」

「ええ、私もハンター資格は持っているから、正式にメンバーよ。レベルは25だけど、あまり期待はしないでね」

「そうだ! ありがとうございます。私とお兄ちゃんの特別昇級を推薦して頂いて」

「基本は能力よ。貴方達は十分にレベル10を超えているわ」


 どうやら俺達の待遇改善は博士の尽力によるものらしい。だけど俺は素直に喜べないな。それだけ責任が出て来るし、何より危険が増すって事になる。このヤグートⅡの改造で色んな場所に行けそうだけど、俺としては恐竜絶滅の後をうろつきたいな。


「休暇は10日あるけど、ヤグートⅡの整備が終わり次第出発することになるわ。どこに出掛けるつもりなのかしら?」


 博士の言葉に、エリーと姉さんが俺を見る。ここはキチンと希望を言っておいた方が良さそうだな。

「5千万年前でどうでしょう? 裸子植物から被子植物に変わる辺りです」


 俺の言葉に3人が、自分の前に仮想スクリーンを展開して、時代と環境を確認し始めた。見てる映像は異なるけど、何やらうんうんと頷いている。

 ちょっと静かになってしまったぞ。少し、気分転換を図るか。3人は完全に自分の世界だ。

 再び、屋根に上って一服を楽しむ。ヤグートⅡの車高の三分の二が水面の下にあるようだ。キャタピラを停止しているから、スクリューででも進んでいるのだろうか? 立ち上がって、後ろを見ると泡立った航跡が2本続いている。

 それ程速度が出ていないから、水面から1m以上高いこの場所までは水飛沫が上がってこないようだ。前部を覆った防弾ガラスを洗うようにして運河を進んでいる。この見張り台より少し前に、波切板を設けた方が良さそうだ。それに、もう少しこの台を上げないと、海ではうねりで水を被るんじゃないかな? それよりも、浮体を設けてヤグートの半分を水面に出せば良いか……。

 

 一服が終わったところで車内に戻ると、テーブルの壁際に仮想スクリーンを拡大して何やら話し合っていた。


「あら、一服が終わったの?」

「そんなところです。ところで、このヤグートⅡに浮体を付けられませんか? 現在、三分の一が水面に出ていますけど、全面の防弾ガラスの上部は波が洗っています。車体の半分を出したいですね」


「それは簡単な改造で可能よ。採取に出掛ける前に改造できるわ。任せときなさい」

「お兄ちゃん。5千万年前って、かなり物騒なところだよ。肉食の飛べない鳥がかなりの範囲で活動してるみたい。爬虫類も多種いるよ」

「一応、車内にいれば安全は確保できるわ。あまりヤグートⅡから離れなければ、バックアップもできるわ」


 そんなに危険なんだろうか? ちょっと心配になってきたぞ。

 

「でも、狙い目としては良いかもしれないわ。植物の種類が増える時代だし、花を付ける植物も出始めるのよ。もっとも、色鮮やかとはいかないけどね」

「問題は、大型の哺乳類ね。草食獣でも危険があるわ。バンター君もベネリ以外に銃を購入しときなさい」


 大型哺乳類の宝庫って感じの世界なのか? 少し、時代を読み違えたかな。今更もう少し後にしますとも言い辛い。ここは、あまりヤグートⅡから離れないようにして採取を行うしか無さそうだ。

 ベンチシートに腰を下ろして、博士の言う新しい銃を探し始める。

 仮想スクリーンを開いて、使えそうな銃を探すのだが、どうもイマイチだな。大型哺乳類となると、ゾウやサイって事だろう。そんな連中に使える奴は無いんじゃないか?

あったとしても、重量がハンパじゃないだろうしな。

 対戦車ライフルは魅力的だが、これはヤグートの25mm機関砲で十分だろうしね。ここは弾丸の共通化を考えてポンプアクションの散弾銃にしよう。ストックを切り詰めたタイプは昔の火縄銃に見えなくもない。……これで行くか。ついでに、この炸裂スラッグ弾を購入すればそれなりに使えるんじゃないか?


「それにするの? エリーが頼んであげる」

 俺のスクリーンを横で眺めていたエリーが後を引き受けてくれた。


 スクリーンに白亜紀の大陸図を映し出して、採取ポイントに適した場所を探そうとしたら、至る所にハンター達の採取場所の映像記録があることに気が付いた。

 森や湖、渚や大河……。ある程度、地形による採取が計画的に行われた感じに見えるぞ。こんな場所で採取となれば新種を探すのが難しいかも知れないな。

 白亜紀の大量絶滅はメテオインパクトってことだから、その反対側、確か落ちたのはユカタン半島って聞いたな…っ? ユカタン半島ってなんだ? 待てよ、銃を選んだ時も火縄銃って言葉とその姿が浮かんだんだよな……。なぜ、そんな言葉を俺は知ってるんだ?


「博士。火縄銃とユカタン半島って言葉を知ってますか?」

「……いえ、知らないわ。どんな形の銃で、どこにある半島なの?」


 仮想スクリーンを指でなぞって銃の形を描く。ユカタン半島は南北アメリカ大陸の中間あたりだったな。世界地図をスクリーンに映し出したら……、大陸が違ってるぞ!


「火縄銃は初期の銃らしいわね。たぶん火薬は黒色火薬でしょうね。なるほど、火薬をまぶした紐を取り付けて、それで着火させるのね。銃の歴史にはあまり詳しくはないけど、どんな専門書にもこのような詳細な解説は無かったわ。それに、目的の半島が見当たらないんでしょう?」


 博士が笑顔で俺に問いかける。当然、頷くことになるのだが。そんな俺を、エリーとレミ姉さんが心配そうな顔で見ていた。


「やはり、ということかしら。バンター君の後遺症として、ある程度予想はされていたのよ。あの時、バンター君の上半身はどこに行ったのか? いまだに分からないわ。そんな中での仮説として、アカシックレコードが浮かんでいるの。

私はそんな神の御業は信じないけれど……、人の魂の集まるところ、意識の集合体という私達の上位の次元があることは信じているわ。存在は数学的に証明されているけど、私達にはまだその存在を確認することが出来ていないわ」


凄い話になってきたな。だが、そんな世界の一部に俺が接触したなら、俺の記憶などどこかに消し飛んでしまうだろう。他者の記憶が紛れているのも納得できる話だ。

だが、俺にはどうもそれとは違うような気がする。


「とはいえ、どうにも出来ない話だから、気にしない方が良いわよ。バンター君は異界の記憶を持っているけど、自分の記憶をまだ取り戻していないって事で納得するしか無さそうよ」

「はあ、……となると、話を戻しますが、白亜紀の恐竜絶滅のトリガーとなったメテオインパクトの反対側を探すべきだと思うんですが」


「お兄ちゃん。恐竜絶滅は、全地球的な造山運動よ!」

「待って、エリー。……バンター君の説は異端の学説として、あることはあるのよ。それが本当だとしたら……。彼らの主張するメテオインパクトの場所はここよ。この反対側となるとこの辺りね。乾燥した砂漠地帯のはずだわ。確かに誰も採取には行っていないわね」


 エリー達が頷いてるから、これで行き先が決まった感じだな。

 夕食は、パスタのような簡単なものだったが、テーブルの上でお皿とフォークを使える食事は、前から比べるとだいぶマシになってきたな。

 夜は、2人ずつ交代して眠る事にした。クルージング機能が目的地を確実に認識して調査機を進めている。

 明け方に、海に出る閘門を抜けると、少し速度を上げて南に向かう。

 時速30kmは出てるんやないかな。車体の屋根にも波が被っているみたいだ。数mのポールを立てて、赤色灯を点滅させておく。

この速度でも、目的地の島に到達するのは今夜遅くになると博士が話してくれた。着いたらのんびりと昼寝を楽しもう。


 

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