表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/103

PH-015 海を目指そう!

 クラゲって群体生物だよな。その大きさに上限があるんだろうか? 天敵ってのもいるんじゃないか? だいたい、生物には成長限界ってのがある筈だから大きくなるにしてもおのずと限界があるような気もするな。


「海にプヨプヨがいるなんて……」

「それは私達の現在の状況で物事を考えているから出てくる言葉よ。あの時代の海は全く別の惑星だと言われても違和感はないぐらいなの」


 生命の樹がある時代を境に爆発的に枝葉を伸ばすことがある。そんな命の多様化を短期間にもたらした原因はいろいろあるだろうが、それによって特定の種が進化して現在に至っていることは確かだ。

 その初期の生物進化には、あまりの多様性に疑問を持つ者も多いらしい。時空間ゲートを使えばその調査もできるのだろうが、あいにくと使用者を厳しく限定しているとのことだ。

 予定外の大量殺戮なんてやったら、現在がどうなるかわからないからな。俺達が大型の銃器を持って時代を遡れないのもその辺りを考えてのことなんだろう。


「一応生命体なんですから、動体検知センサーに引っ掛かると思うんですが?」

ただよっているだけだから、引っ掛からないの。突然にぶ厚いジェル層に遭遇したり、直径30cm程の半透明な触手が襲ってくるらしいわ」


「そんな奴に捕まってヤグートは大丈夫なんですか?」

「帰ってきた調査機を精密に調べたら、部分的に圧力が加えられたことが分かったわ。調査機の限界深度は100m。これ以上深く潜ったら僅かな車体の歪みも、そこに応力が掛かってグシャリとなりそうね。戻らなかった調査機はたぶんそんな運命を辿ったはずよ」


 グシャリはヤダな。となれば、脱出する方法を考えないとならないか……。

 たぶん柔軟な組織なんだろう。殆どが水分なら深海でも暮らせるはずだ。獲物を体内に取り込んだら、そのまま深海に向かうのだろうか?

 深度100mまでは耐えられるなら、浅い海なら心配がないってことだろう。それに浅い海から外洋に出るには漂う生物なら時間が掛かりそうだ。

 それに、体内に取り込まれても、深度が増す前に逃げられるなら問題ないんじゃないか?


「ヤグートに新たなマニピュレータをつけることはできませんか? 車体の前と左右に多関節で3m以上欲しいですね。先端に丸ノコを付ければ、弾力性があっても切り刻めるんじゃないですか?」

「……そうね。その手があったわ。今までは爆薬を使ってたのよ」


 俺の言葉に一瞬目を見開いたけど、レミ姉さんは直ぐにどこかに端末を使って連絡を始めた。

 爆薬は使えたのか……。念の為に用意はしておけるな。

 

 俺達の話合いは深夜にも及んだけど、考えられる対策は盛り込んだつもりだ。車輪もキャタピラに交換したし、動力は燃料電池に変更している。副産物で水が出来るのが魅力だな。

 そんな注文をたっぷりつけて一夜明けたところで、俺達の所に画像が届く。

 そこには、ヤグートとまた違った車体が姿を現した。

 車体は二周りほど大きくなって、太いチューブが檻のように車体を取り囲んでいる。外部燃料タンクや酸素ボンベは、その檻の内側に取り付けられ、保護カバーがつけられていた。

 マニピュレータ類は引き込み式らしい。前に4つの投光器を持ち、車体上部にも2箇所引き込み式の投光器がある。それも投光方向を変えられるようだ。

 車体が大きくなったことから。内部も少し住み良さを考えているようだ。車体高さ3mの内、上の2m、車体全長の三分の二の5mが居住区だ。バスぐらいの大きさだから、確かに過ごしやすそうだ。


「稼働時間は、50%出力で5日間らしいわ。食料や酸素もそれを元にしているようね」

「短くないの?」

「十分さ。今度は特定の品を採取しないですむ。最初からライブラリーとアナライザーを照合しながら調査できるからね」


 カンブリア期の海に住む生物を見ると、車体から外には出たくないからな。

 早めに帰ってくるに限るぞ。

 エリー達が売店でたっぷりとお菓子を買ってきたから、それだけで非常食に使えそうだ。今回はハッチを空けて一服もできないから、ガムとキャンディーを頼んでおいた。

 夜の当直は退屈だからな。

 

 3日目は早めに起きて、エリー達がやって来るのを待つ。

 扉のノックの音で、部屋を出ると3人で地下の第二ゲート区へと向かった。既に必要な物は積み込まれているし、エリー達が買い込んだ御菓子はナップザックに入れて俺が担いでいる。


 第二ゲート質の扉を開けると、甲高い水素タービンエンジンの音が聞こえてきた。どうやら、俺達よりも出発が早い連中がいるらしい。

 50m程先の斜路に出現した時空間ゲートの鏡面にゆっくりと装甲車のような車体が消えていく。

 ヤグートよりも大きな車体は片側に8輪だった。中生代辺りに出掛けるんだろうな。


「あら? だいぶ早く着たわね。準備は今から始めるから、そこのコーナーで待っててくれない。コーヒーもあるしタバコもOKよ」


 俺達を見つけたリンダさんが走りよって、壁の一角を教えてくれた。見ててもおもしろいけど、ここは薦めに従ったほうが良いだろう。

 小さなテーブルとベンチという休憩所に歩いて行くと、ベンチに腰を下ろす。

 ポットのコーヒーを紙コップに入れてエリーが渡してくれた。テーブルの上に無造作に置いてあるタバコを手にとって1本失敬するとライターで火を点ける。


 どうやら、車体ごとに担当者が入れ替わるらしい。見覚えのある作業員達が集合すると、リンダさんの指揮で出発準備が慌しく始まった。

 一服を終えた頃に、床に振動が伝わってきた。装置の影から大きな車体が現れる。先程時空間ゲートを潜った車体よりも大きいぞ。車輪でなくキャタピラで進んでくるからあれが俺達の車体なんだろう。

 車体が時空間ゲートの斜路の手前で停止すると、車体の上部のハッチを開いて運転員が降りて、こちらに向かって来る。


「バンダー君達だね。車両の準備は全てできている。一応、中に入ったら、確認してくれ。それと、車両のコードは『ヤグートⅡ』で登録されている。頑張れよ!」

「了解です。それでは搭乗します!」


 搭乗口は車体上部のハッチのようだ。ラダーが伸びているから、それを伝って上っていく。

 ハッチから車内をのぞくと、下に台が見える。あれを足場にして降りるらしい。

 車内はヤグートに比べて広く感じるな。二周りも大きくなったせいなのだろうが、居住区にはテーブルセットまで付いている。その隣には折り畳んだベッドがあるぞ。小さな食料保管庫とシンクは前の通りだ。暖め解凍をするぐらいだから小さくても良いのだろう。


「シートの配置は前と同じよ。エリー、燃料電池の起動と出発前の準備シーケンスを起動して。バンター君は、マニピュレータ類の動作試験をお願い。私はアナライザーとライブラリーの調整を行うわ」


 色々とやることが多いな。ジョイスティックを使ってマニピュレータの試験を行っている間に、エリーは自動シーケンスを走らせ、後部の保管庫の中身を確認し始めた。

 30分程経過して車両に問題が無い事をレミ姉さんがリンダさんに伝えている。

 

「リンダからヤグートⅡ。こちらの準備も完了したわ。繰返すけど、指定する生体はなし。バンター君の感性に期待します。BC5億年の陸地に着くはずよ」

「ヤグートⅡ、了解。出発します」


 すでに斜路の上には時空間ゲートの鏡面が輝いている。

 エリーが「いくよ!」と俺達に伝えると、車体が斜路に向かって進み始めた。

 キャタピラは車輪に比べて振動がシートに強く伝わるが、まあ、これは仕方の無い事だろう。

 車体の先端からゆっくりと鏡面に入って行く。天井灯で照らされた空間から、いきなり眩しく太陽に照らし出された荒地に俺達は現れた。

 みるみる車体天井部の防弾ガラスが黒くなっていく、調光システムがガラスの偏光涼を変えたのだろう。それでも眩しく感じるから、サングラスをかける。


「レミ姉さん、無人機を飛ばして海を見つけてくれ」

「了解。高度3千mまでは上昇できるから、海の方向位は分かるでしょう」


 2つの仮想スクリーンを開いて、先ずは周辺の動体監視センサーを作動させる。流石にこの時代には危険な生物はいないだろうが、それは俺達の常識であって、常識は日々変わるものだ。


「周辺200m以内に動体反応なし。な~んにもない場所だよ」

 エリーが俺に顔を向けて言ったけど、確かに何もない。これだけ広大な砂まじりの荒地なら、雑草ぐらいはあっても良さそうだが、植物の陸上進出は更に時間がかかるのだろう。

 無人機からの画像もまるで砂漠地帯のように見える。現在の高度1千mでは、全周カメラの画像に水は見えなかった。


「空気中の酸素濃度は15%よ。炭酸ガス濃度が3倍も高いわ」

「簡易マスクで外に出られるでしょうか?」

「可能ではあるけど……、必要がなければ車内にいたほうが安全よ」


 採取はマジックハンドを使えるから、確かに出ないで済む。出るのは、ヤグートⅡが修理を必要とするときぐらいだろう。その修理も殆ど必要ないぐらいに作られているとレミ姉さんが教えてくれた。


「あったわ。スクリーンの右下を見て!」

 無人機からの画像の端に蒼い大洋が広がっている。無人機の高度は3千mにチョット足りないくらいだな。100kmは離れていないんじゃないか。


「姉さん、無人機の回収をお願いします。エリー、回収したらすぐに出発するぞ。方向はだいじょうぶか?」

「方向はジャイロに設定してあるから、だいじょうぶだよ。あちこち動いても見失しなわない」

 

 ナビは役立たないけど、移動経路の確認はできる。それに使われるジャイロを上手く使うんだろうな。まあ、常に海の方向が分かればそれでいい。


 時速30km程の速度でひたすら海を目指す。洪水の後のような、水の流れた溝があちこちにみられる。深いところもあるようだから、その都度ヤグートⅡの方向が変わる。最初に海の方向をジャイロに記録しておいたのは正解だったようだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ