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PH-011 どこでもないどこか

 あくる日。早めに起きると朝食を終えて第二ゲート区域に向かう。お弁当はナップザックに1人2食分を入れてある。10日分の保存食を買い込んであるからこれで十分らしい。

 売店でコーヒーを買い込もうとすると、エリーに既に買い込んでると言われてしまった。3か月ほど生活して俺の好みを知ったのだろうか? それとも、昔の俺は、コーヒー党だったのかも知れないな。


「準備はちゃんとしてあるわよ。さあ、出掛けましょう!」

 第二ゲート区域はこの前まで利用したゲート区域の隣の建屋だ。少し歩くが、向こうに行ってからの移動が調査機になるから、それほど気にはならない。

 ベネリやAK60は既に調査機に運んである。結構重いから、それだけでも楽になるな。


 第二ゲート区域の扉を開けて中に入ると、第一とは違った雰囲気が俺達を包む。機械音、甲高い水素タービンエンジンの唸り、大声で連絡し合うオペレーターと整備員に警備員。無線機を持っているみたいだが、相手が見えるから大声を上げてしまうようだ。


「リンダ!」

「レミーじゃない、しばらくね。復帰してくれて嬉しいわ」


 第二ゲート区域で、俺達の担当をしてくれるお姉さんはリンダと言うのか。レミ姉さんの知り合いってのも何となく安心できるな。


「準備は出来てるわ。直ぐに出掛ける?」

「そうね。直ぐに出掛けようと思うけど、シリンダーは何個積んだの?」

「規定数よ。大型が2個に小型が12個。実践訓練で新種を複数見つけたんだから、ラボの連中も期待してるわ」


 そんな事を言いながら俺を見ている。適当に入れといただけなんだけどね。エリーが俺を尊敬した眼差しで見ているけど、偶然性の方が高いんだぞ。

 リンダさんの案内で、俺達の調査機『ヤグート』に向かう。

 昨日、あれほど荒地を走ってきたのだが、駐機場で俺達を待っていたヤグートはピカピカに磨きあげられている。リンダさんの見守る中、俺達は扉を開けてそれぞれのシートに座ってシートベルトで体を固定する。俺の愛銃ベネリもシートの左横にある銃ケースに入っていた。


「頑張ってね!」と言って扉を閉めると、リンダさんが肩口にあるマイクを使って機内に通信を入れて来る。


「出発シーケンスを確認せよ。以上!」

「ヤグート了解。出発シーケンスの自動確認を実施中。……出発シーケンス異常なし。以上!」


 後部座席でリンダさんとレミ姉さんが機体状況を確認したようだ。良く分からないから、この辺りは全てお願いしたいところだな。


「第三ゲートに移動せよ。移動後にオペレータ―と目標地の最終確認を実施せよ。以上」

「ヤグート、了解。第三ゲートに移動開始します」


「エリー。向こうで赤く点滅しているゲートに移動して、斜路で停止して頂戴」

「分かったわ。ゆっくり移動するね」


 少し、水素タービンエンジンの唸りが大きくなり、ゆっくりとヤグートが目標に向かって移動を始めた。斜路に着くと一旦停止。レミ姉さんがオペレータ―と年代とっ目的地の座標を相互に確認する。その数値は俺達の前に開いた仮想スクリーンにも表示されるから、レミ姉さんが声に出して読み上げる数値の確認を全員で行なえる事にもなる。


「リンダからヤグート。座標の最終確認終了。ゲートを開くわ。後はレミー……2人を頼んだわよ!」

「ヤグートからリンダ。前方のゲートを確認。行ってくるわ!」


「出発するよ!」と大きな声でエリーが俺達に告げると、数m先の次空間ゲートの鏡面にヤグートがゆっくりと入って行った。


 太陽がさんさんと輝く大地にヤグートが走り出した。直ぐに偵察用の無人機が射出され、上空から周辺の地形が送られてくる。

 動体検知センサーも強力なものが積まれているらしい。周囲300mの範囲が表示されている。


「とりあえず危険はないみたいね。これから先はバンター君が指揮を執るのよ」

「となれば、先ずは依頼の品を探すことにしましょう。確か水辺のシダですよね。海水という事は無さそうですから、川を見つけましょう。無人機の高度を上げれば見つかるかもしれません。エリー、目的地を探すからヤグートを止めてくれ」


 エリーがヤグートを止めて、周辺監視用のスクリーンを拡大して眺めている。俺の目の前のスクリーンには、どんどん高度を上げていく無人機からの地上の光景が映し出されていく。

 高度数値がどんどん上がっていく。上空1km付近になったが、周辺はいまだに荒地が続いている。

 高度2kmに達した時、画像の端に青い海原が映し出された。

 川はいつしか海に注ぐことになるから、海岸線を辿たどっていけば川の流れにぶつかるだろう。


「南東に海が見えるぞ。海から10km程の場所を海岸線にそって南に移動する。海岸線に沿って移動すれば川に出合えるだろう」

「ここから南西方向に20kmぐらい移動する。そこで一旦止まるね」


 レミ姉さんが、上空から無人機を回収して、ヤグートの屋根に着陸させたことを確認すると、エリーがヤグートの方向を変えて南西方向に走らせる。

崖は無かったから、時速30km程の速度なら特に問題はないだろう。

 サスペンションが固いから、結構振動が伝わるが、仮想スクリーンには振動が伝わらない。食事の後なら少し問題かもしれないな。まあ、その時は速度を落せば良いんだろうけどね。


 たまにソテツのような植物が生えているけど、下草はあまりなさそうだ。

 この世界の森はどんな感じなんだろうな? 

 

「お兄ちゃん。この辺りが海から10kmだよ。一旦止めるね!」

「レミ姉さん。上空からの確認お願いします。南方30kmぐらいまでの情報が欲しいですね」

「了解よ。直ぐに飛ばすわ!」


 前方に移動しながら高度を上げていく。意外とこの世界には川が少ないのだろうか? 前方50km近く探索しても川を見つけられなかった。


「お兄ちゃん。恐竜だよ。北東から近づいて来るんだけど……」

エリーの言葉に、レミ姉さんが無人機の回収を急いでいる。直前に上空から写しだされた物は、10頭程の首長恐竜だ。確か首の長い陸上恐竜は全て草食竜だったな。

 危険性は少ないだろうが、早めに移動するに越したことはない。

窓越しにその姿が見えた時には既にヤグートは走り出していた。後を追ってこないようだからこれで一安心ってことだな。


 夕暮れまでに数回、無人機で先行偵察を行ったが、やはり川は見つからなかった。無人機の燃料が気になって聞いてみると、20時間の連続運用が可能らしい。1回の飛行時間は1時間にも満たないから、このような調査を後数日は続けられそうだ。


 食事はヤグートの中で取る。3人いるから、常時2人が前席で監視をして、1人がレミ姉さんの隣の席をフラットにして休むことにする。十分1人用のベッドとして使えるのはありがたい話だな。


 レミ姉さんを先に休ませて、俺とエリーで周囲を見張る。水素タービンエンジンは停止しているが補助バッテリーだけで数kmは移動出来るし、監視用システムは普通に使える。万が一の事態には、屋根に付けられた強力な投光器を使って威嚇することもかのうだ。

 300m以内の恐竜の動きを見ながら、のんびりとコーヒーを楽しむ。赤外線モードの暗視画像と動体感知センサーの画像の2つのスクリーンを展開して外を眺めているのだが、さすがに生きている生の恐竜が見られるとは思わなかったな。


 ん? ……生でない画像を俺は見たことがあるんだろうか? そう言えばこの調査機にハンドルが無いのを不思議に思ってことも確かだ。車輪で動く乗り物にはハンドルが付きものだという考えはどこから来たんだろう……。


「お兄ちゃん!」

 エリーの声で思考の海から現実に戻る。そこには2頭の大きな頭を持った恐竜が首長竜の移動の後を追っている姿がスクリーンに小さく映し出されていた。

 動体感知の画像から奴らの移動コースを確認すると、俺達のヤグートに60m程近くを通る事になりそうだ。


「エリー、緊急移動の準備だ。向かってくるようなら、反対側に逃げてくれ。逃げながら水素タービンエンジンを駆動してくれ」

「分かった。こっちに気付いてからで良いよね」

 

 そうは言っているけど、直ぐに補助バッテリーの残量と、水素タービンエンジンの可動シーケンスの確認を始めた。

 俺も、ジッとスクリーンに映る動きを見守る。彼らの体の大きさからではゆっくりなんだろうが、時速10km以上は出てるんじゃないか? 段々と近づいて来るが、発見された様子は見られない。


ほどなくして、俺達がジッと見守る中、80m程離れた場所を恐竜達は通り過ぎて行った。ほっと溜息をついて肩の力を抜く。

これで、大型恐竜は300m以内から姿を消した。小さなのはいるのだが、こいつらはあまり近付いてこないようだ。俺達のヤグートを大型の恐竜と思ってるのかも知れないな。


 深夜にレミ姉さんを起こしてエリーを休ませる。俺は明け方で良い。

 レミ姉さんが周辺監視を担当して貰い、何かあれば俺がヤグートを起動する。手順はエリーが自動起動に選択しているから、俺は起動スイッチを入れるだけで良い。


「レミ姉さん。出来れば、俺が何で入院していたか、教えて頂けるとありがたいのですが……」

「やはり、思い出せないのね……。良いわ。教えてあげる。それで記憶が戻る手助けになるかも知れないわ。お医者さんは、本人が望むなら話してあげなさいと言っていたしね。バンター君は事故で入院していたの。その事故は……」


 ポツリポツリと話してくれた内容は、俺には信じられないような事故だった。

 施設の恒例の行事で、俺達の所属するプラントハンターギルドに見学に来たらしい。まあ、教団施設の性質を考えればある程度理解できる行事ではあるな。

 小さい子供達から来年施設を離れる子供達の全員が参加するとのことだ。そんな見学会で事故が起こった。


 小さな女の子が、大事に育てていたペットの小猫が施設内で逃げ出したらしい。女の子と一緒にそのペットを俺は探していたらしいのだが、どうやらゲート区域でそのペットを発見したとのことだ。

 女の子が追った子猫はゲート区域をあちこち飛び回り、ようやくゲートの時空間ゲートの鏡面に写る自分の姿に驚いてその場にうずくまったそうだ。

 抜き足差し足で子猫に近づいた女の子が階段を上りきろうとした時、階段に足を取られて時空間ゲートに転がり込もうとするのに誰もが唖然として見ていたらしい。

 女の子は危うく入ってしまうところだった。それを止めたのが……。


「それこそ素晴らしい跳躍力で、一気にゲートのある場所まで飛び上がり、女の子を後ろに弾き飛ばしたの。でもね、彼の動きを止められる者はいなかった。バンター君の上半身は次空間ゲートに入ってしまったの。

慌てて、ゲートのオペレーター達がこちら側に引きづり出したんだけど、そんな事は初めてだったのよ。途中から引き戻すなんてね。上半身は見るも無残な様子だったわ。

記録に残るバンター君の映像を元に整形を繰り返したんだけど、ずっと意識が戻らなかったの。たぶん意識は時空間に取り残されたんではないかと言う学説まであったのよ。その時の時空間ゲートの行き先は決定されていなかったわ。どこでもないどこかってことね。いくら事故時のゲートの行き先を調べてもライブラリーは不明とだけ言ってるらしいの。

行き先のない状態では、ゲートを開くことが出来ないんだけど、子猫があちこちスイッチの上を歩いてたから偶然出来たゲートなんだろうという事になっているわ」


 どこでもないどこかということは、あの世って事にもならないか? 誰かの記憶がそこで俺に入ってきたのかも知れないな。


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