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PH-103 親父の姿 END

 俺の持参した画像を、3人の老人がジッと眺めている。

 画像は、林の野営、村での暮らし、狩りの様子と数編が続いていた。その画像を瞬きも忘れて見入っている。シスターの両目からは幾筋の涙が続いていたが、それでも仮想スクリーンの画像を食い入るように眺めていた。


 やがて、映像が終わるとトメルグさんが戸棚からブランディーを取り出して、全員のカップに注ぐと、奥さんがそれを俺達にも配ってくれた。


「ティーゲルの野郎に、乾杯だ! 俺達を送り出した後でも元気に暮らしたらしい」

「それが分かったことをありがたく思います。でも、どこでこの画像を?」


 やはりこうなるよな。俺達は、あの世界と球体型の時空間ゲート、それにこれからのギルドについて分かる範囲で3人に話すことにした。


「パラドックスで私達はティーゲルのいる世界には行くことが出来ません。それに、壮年の画像を見せたという事はティーゲルは既に亡くなっているのでしょう。その世界に出掛けて、彼の墓に貴方達が花を添えてくれたならと思っています」


 エリーが口を開こうとしたところを、俺は止めた。

 今まで、ティーゲルさん、いや親父の事だけを気掛かりに生きてきたのだ。安易な返事はするべきでない。それよりは……。


「3人にギルドの最高機密をお話すべきかもしれません。レミ姉さんや、レブナン博士の許可は得ていませんが、3人には話しておくべきことだと思います。

 先ほどの依頼を俺とエリーは受けることが出来ないんです。ティーゲルさんには俺達もパラドックスが起こるんです」

「それって!」

「何だと!」


 トメルグさんが手に持ったカップをテーブルに落とした。残った人達も俺を大きな口を開けてみているぞ。


「エリーはトメルグさんの実の娘ですし、ティーゲルさんは俺の親父その人です。一旦、冥府に迎えられましたが、ナノマシンの大量投与で俺達は戻ってきました。その時に以前の記憶は無くしていますから、つい最近まで知ることは無かったんです」


「確かに、ティーゲルに似ていると話し合ったこともある。エリーだって……」

「既にハンターになっているのですから、今までと変わりなく暮らせますよ。でも、そうですね……。養子に向かえれば良いのです。既に鬼籍に入った者を再び我が子とするのは別な意味でギルドの危機になるでしょうからね……」


 俺もそれで良いんじゃないかと思う。自活出来ない時代は過ぎているのだ。今まで通りの付き合いをしているなら、養子縁組を砦の連中だって不思議には思わないだろう。


「でも、親父に会う方法が、俺にはあるような気がします。いつまで掛かるか分かりませんが、俺はそれを形にするつもりです」


 俺の言葉に、満足そうな顔をして3人が頷いてくれた。

 自分達には無理だと分かってるんだろうな。だが、自分の子孫が合うのであれば、事情を覚えてくれている人物が会ってくれるならという思いなんだろう。


「決して諦めない。それがティーゲルだ。だいじょうぶだろう。俺達にはそれが見える気がするぞ」

 俺を鼓舞してくれているんだろうな。昔の親父の苦労が少し分かるような気がしてきた。


 その夜は、晩くまで7人で話をする。互いに話す話題に事欠かないからな。

 リネアもシスターの養女とすることに決まったらしい。俺も妹が増えてうれしくなるな。


・・・ ◇ ・・・


 10年が過ぎた。ギルドが統合され、今では1つになったようだ。プラントハンターの数も、今では1千人に縮小している。

 時空間ゲートの使用回数は激減して、年間で200回を超えることは無い。

 すっかり年老いたトメルグさん達をエリーとりネア達が一緒に暮らしながら世話をしている。

 俺も、たまに3人に会いに向かうが、いつもは砦の地下でゾアと一緒に新たなシステムを構築中だ。タイムマシンの開発はレブナン博士から、キリル博士に担当が移っている。レブナン博士は本来の専門である、採取した膨大な標本の分析を手掛けている。


『来年にはテストが可能です』


 俺の隣にいるドローンがゾアの感覚器官の集合体だ。直径30cm程の球体だが、左右に展開したイオンクラフト装置で俺の周囲を飛び回りながら装置の確認をしている。小さなマジックハンドも付いているから、結構役に立つ相棒だ。


「そこで問題があるの。この装置だと、目的地への時間軸接合を自分で制御することになるのよ!」

「6次元空間座標であれば、波動方程式を俺が解けますよ。たぶん、これがレブナン博士の俺に対する目的だったんでしょうね」


 病室に現れた竜人族に似た男は、レブナン博士の前にも表れたんじゃないかな?

 でないと、この状況にぴったりの俺を作れなかったと思う。俺の体の構成は、ナノマシンが2割を超えているようだ。電脳並みの演算を今では簡単にこなすことも出来る。さらに、もう一人の可能性を秘めた者がいる。

 ゾアなら、俺よりも高次元の計算が可能だ。ゾアを運転手にしたバスのようなタイムマシンも作れるんじゃないかな。

 もし、そんな乗り物が出来たら、トメルグさん達を連れて親父に会いに出掛けよう。

 時空間ゲートを使用しないから、パラドックスの呪縛を受けないで済みそうだ。


 地下施設から外に出ると、車庫に向かう。

 ここにあるドラム缶の焚き火ではいつでもコーヒーが飲めるようにポットがあるんだよな。

 バッグからシェラカップを取り出して薄いコーヒーを注ぐと、タバコに火を点けた。

 砂糖を入れていないから、本来のコーヒーの味には程遠いが、たまには良いだろう。

 星空を見上げて、これからの事を色々と考えるのも久しぶりのような気がするな。

END






 エピローグ



「「お兄ちゃん、早く、早く!」」

 応援してくれるのは良いんだが、声に出すなら後ろに向かって銃を撃って欲しいぞ。

 そんな事を考えながらも、口から出る言葉は、

「おう、任せとけ。まだまだだいじょうぶだ!」

 

 俺の言葉に案したように、4輪駆動車が俺から離れて行った。

 直ぐ後ろから、大きな肉食恐竜が追い掛けて来る。呪文で身体能力が上がっているとはいえ、ここで転んだりしたら俺の人生が終わってしまうのは目に見えている。


 そもそも、こんな事になったのは、エリー達がギルドで変な依頼を受けたからなんだよな。『ラブートの卵2個』って、目玉焼きでも作るんだろうか?

 そろりそろりと巣に近付いて、どうにか2個の卵は手に入れたんだが、サリーが踏んだ枯れた枝の音で、大逃走劇が始まってしまった。

 最初は、ラブートだったんだが、いつの間にかチラノザウルスみたいなやつに変わってしまってる。あのラブートは食われたんだろうか?


 遠くで俺達に手を振っているのはトメルグさん達4人だ。

 大きな槍を持って待ち構えてるんだが果たしてそこまでたどり着けるかどうか……。

 とにかく全力で走る。牽制に使った手榴弾も既に2個使ってしまった。


 トメルグさん達が俺に向かって駆けだした。かなり後ろの奴が近付いて来たに違いない。

 片手を振って彼らに答えた時、草原に隠れていた岩に足が引っかかった。その場に転倒した時、俺の上を2本の筋が飛んで行く。少し遅れて更に2本。


「まったく詰めが甘い奴だ。ティーゲルの若いときそのままだ!」

「何だと! 俺はそんなにドジじゃねえ。こいつにはマリーの血が……」


ゆっくりと体を起こした時に目にしたのは、親父の首にぴたりと蒼く光る鎌が押し当てられていた。

「私の血がどうかしましたか?」

「いや、こいつの運が良いのはマリーの血を受け継いだせいだと言いたかったんだ」


 そんな親父の姿をゴランさん達が見て笑っている。

  遠くから、4輪駆動車が近付いて来た。エリー達が手を振っているぞ。

  まったく、退屈とは縁が無いな。

  


1月から開始した物語も、これで終了です。

名前が変わってる部分は後で修正したいと思っています。

長く付き合って下さって、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 再々度、完読しました。やはり素晴らしい。有り難うございました。
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