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PH-102 ギルドの変化

 病室から自室に移動すると、1時間もしない内に3人の女性が訪ねて来た。

ある意味、気晴らしなんだろうけど、俺も退屈してるから話を聞く分には問題ない。それに、ギルドの動向も気になるところだ。


「プラントハンターを削減するそうよ。定年制を導入して、新規のハンターは退職者の半数とするらしいわ」

「1回の採取期間も今までの倍になるみたい。初心者ハンターでも5日以上よ。レベルの高いハンター達なら1っか月近く帰ってこれないでしょうね」


 とりあえずは、時空間ゲートの利用回数を削減する方向で調整したらしい。

 これで少しは課題を先送り出来ると考えたんだろうな。だが、根本的な解決には至っていないぞ。


「実は、病室に3人が来てくれた時に、こんなものをとある人物に託されたんです。どうやら他の世界から、警告するためにやってきたようですが、俺達の話を聞いて立ち去りました。俺が出来ると断言した事を、教えてくれそうでしたが断りました。俺達が原因なら俺達で解決すべき問題です」

「ちょっともったいない気もするわね。でも、私もバンター君に賛成するわ」


 レブナン博士の言葉に他の2人も頷いている。

「そうなると、これは何なのかしら?」

「『パラドックスは覆せない。でも第3者ならば……』と言ってました。たぶん俺が探していた世界の記録ではないかと」


 レミ姉さんが俺がテーブルに乗せたクリスタルをそっと手に持った。たぶん姉さんも知りたかったんじゃないかな?


「それで、バンター君はこれからどうするの?」

「エリー達を連れてリネア達の世界に帰ります。ゾアとのんびりこの問題を考えてみたいですね。彼も興味を持つんじゃないかと。それにリネア達をこの世界に置くわけにもいきません」


「バンター君が怪我を負った世界には?」

「他にも優秀なハンターがいるでしょう。少なくともロボットは再び現れないんじゃないかと……」

「今朝、連絡があったわ。あの岩窟が謎の爆発を起こしたそうよ」


 レミ姉さんの言葉に、レブナン博士達が絶句する。だが、それで良かったんじゃないかな。システム制御回路は画像に納められているはずだし、あの球体ゲートの存在を知ったらトメルグさん達が飛んで行きそうだ。

 

「長い道のりね……」

 そう言ってテーブルに乗ったお菓子をつまむと、キリル博士が口に入れた。

 冷蔵庫を開けて缶ビールを取り出したのはレミ姉さんだ。俺のなんだけど、俺の分まで持ってきてくれたから諦めるしか無さそうだな。


 プシュ! っとプルタブを開いて4人で缶をカチンと鳴らす。まあ、お約束ってやつだけど、こんな時でもやるんだな。


「5日後に、向こうに帰ることになるわ。私達の時空間ゲートの利用は大目に見てくれるそうよ。でも、頻度は控えめになるわね。数日ごとに荷物のやり取りをしていたけど、その頻度を月に2回程度まで減らすことにするわ」

「それで、十分でしょう。先ずは削減からです。その先に停止がありますが、果たして俺達の時代にそれができるかどうか……。少なくとも、開発の方向性以上の事はやっておきたいですね」


「それは、私の仕事になるんでしょう? 私もラボを畳んで貴方達に同行することにします。理論作りの大型電脳が欲しいですけど、コンテナ単位にまとめて構築できるでしょうからね」


 ゾアの存在を知る者は少ないんだよな。向こうに行って驚くんじゃないか? レブナン博士も、、その辺りの詳細はあまり開示していないみたいだ。

 

「エリー達にも伝えておいてね。それと、お土産は小型コンテナ1個分にしなさいと伝えてくれない」

「色々買い込んでるみたいですからね。了解です」


 バッグの魔法の袋にも空きがあるから、爺さん連中にお土産を用意しないとな。それはカタログで見ておこう。


「今日も会議があるのよ。全く、ギルドはどうなるんでしょうね?」

「良い機会じゃないですか。今後のギルドの方向性については十分に議論してほしいですね。プラントハンターを削減するのであれば、目的の明確化が必要です。膨大な標本の分析で系統樹も十分に枝が伸びているんじゃないですか?」


 ある程度は、目的に合う植物がどんな形をしているか分かるんじゃないかな。それが可能なのは、表向きではあるもののディストリビュート計画の賜物なんだろう。

 裏の目的をもう少し隠ぺい出来るから、ギルドにとっても都合が良いんじゃないか?


「その辺りに議題を移したいわね。さもないと今夜は責任問題で互いの糾弾が始まりそうよ」

「今夜は王国の代表もやって来るんでしょう。だいじょうぶかしら?」

「王国側はあくまで利益の確保が主眼よ。現在の状況に大きな変化が無ければ何も言わないわ。出来れば王族が来てくれれば良いんだけれど。それなら王家の安泰を考えてくれるから世界秩序の維持を第一に考えてくれる筈よ」


 まあ、数日で結論が出るようでも困るな。方向性は見えたんだから、マイルストーンをしっかりと考えて欲しいものだ。

 夕食までそんな話をして、帰ってきたエリー達と夕食を食べる。

 向こうではあまり食べられない物をたっぷりと食べて博士達と別れた。


 エリー達に5日後に帰ると告げると驚いてたな。エリー達の遊びの予定は10日も先までぎっしり詰まっていたらしい。

 それでも、村の子供達が気になるのか、最後には納得してくれたけど、お土産用のコンテナが小さいと文句を言い始めた。


「魔法の袋が3人で3個あるんだから、それも使えるだろう? 向こうの世界を広範囲に調べるための調査機もヤグートⅢより大きいものを準備して貰えば良い。そしたら空いた場所に色々詰め込めるはずだ」

「大型って、今度はどこに出掛けるの?」


「リネア達の世界さ。俺達が調査した場所はほんの一部だ。これからは時空間ゲートをあまり使わずに、じっくりと腰を落ち着けて調査するみたいだな。それにゾアと色々話がしたいしね」


 リネア達だって同じ種族のいる世界が一番だと思ってるだろうな。大勢の警備員に囲まれて遊ぶんじゃ、気疲れするだけだしね。

 

・・・ ◇ ・・・


 あれから1年が過ぎると、砦の地下施設は以前の数倍に規模が拡大したようだ。

 すでに砦の地上施設の範囲より拡大しているけど、増設した区域は地下30mより深いと言っていたから、かなり長く使えるんじゃないかな。


 砦の柵を広げて、砦の中に畑を作ると村には伝えてある。数年もすれば地下施設は砦の敷地内に取り込まれるから、この世界の住人に知られることもないだろう。

 砦の住人も何時の間にか3倍以上に増えている。増えた人間の名目上の仕事を考えるのは大変だったが、鉄の製品を作ることでこの世界との整合を図ることにした。

 リネア達の暮らしていた砂漠の都市には鉄器があったからな。村で使われている青銅製の銃や剣のような製品を売り出して俺達の食料に換えている。


 砦のプラントハンターは5つのパーティを抱えている。2組が周辺の薬草を採取し、3組がこの世界で広範囲の調査をしているようだ。ヤグートⅢより一回り大きな調査機を使う彼等は、一度出掛けると一ヶ月は帰ってこない。

 俺達も新たな調査機を貰ったんだが、横幅だけで3mもある。長さも10mあるから、ほとんど大型のトレーラーハウスのようだ。リビングや寝室は部屋として独立してるし、プライバシーも保たれるようになっている。

 ヤグートⅢは内装を全て撤去して、新たな仲間が乗り込んでいる。ゾアのコアと専用の生命維持装置、それに彼専用の記憶媒体が詰め込まれている。

 彼の乗ったヤグートⅢの隣が俺達の調査機の駐車エリアだ。2台の調査機を有線で結んで互いに秘密の会話を楽しむこともしばしばだ。


 俺達は、砦周辺の薬草採取をしている。

 3日程砦から数十km以内の森や草原で採取を行い、鉄器と共に村に届けている。村での滞在は2日だから、トメルグさん宅に一晩厄介になっている。

 いつの間にか、小屋を一回り大きくしたようだ。寝室を小さいながらも2つ別に作ってあるし、リビングの上にあるロフトが俺達の村の宿舎になっている。

 以前の小屋は壊さずに、中を改造してシスターが子供達に読み書きを教えているようだ。

 ちょっとした学校が出来たと、村人達が喜んでいると話してくれた。ある意味この世界の居候みたいなところがあるから、可能な範囲で協力してあげるみたいだな。

 以前の恐竜襲来の面影は殆ど残っていないが、南の大きな町は軍隊の砦と一体化したようだ。まあ、ここからはだいぶ距離があるし、南の方向を常に監視しているだけだから、この町にその影響はないと言って良いんじゃないかな。


俺達が薬草採取を終えて、明日は村に出掛けるという夜の事。レミ姉さんが俺達の調査機を訪ねて来た。

テーブルに揃った俺達を前に、姉さんがクリスタルを俺の前に置く。


「これは?」

「去年預けてくれたでしょう。ようやく記録の再生が出来たわ。オリジナルはレブナン博士が持っているけど、バンター君には直ぐに再生できるように私達の記録方式に変換して持ってきたわ」

「何々? エリーも見たいよ!」


 まったく、すでに20歳は超えてるんじゃないか? いつまでたってもエリーは変わらないな。

 そうはいっても、俺も気になることは確かだ。『パラドックスは覆せない。だが第3者ならば……』と言ってたからには、相当貴重な映像なんだろう。

 バングルの記録媒体セット用のスライドを開けて、クリスタルを挿入する。後は、仮想スクリーンを展開して……。


 どこかの時代の林が映っている。

 数人の男女が獲物を担いで林の奥から歩いて来た。

 壮年の男が1人、若い男女が4人だな。少し開いた場所に獲物をドサリと下ろして焚き木を探しに出掛けた。

 帰ってきた男達が焚き火を作ると、その上にポットが乗せられる。

 この世界かな? 典型的な狩人達だ。焚き火の周囲に腰を下ろすと、男達がパイプを取り出して火を点ける。


 どこの世界のハンターも変わりが無いな。俺達もあの焚き火にお邪魔して話をしても不自然さは感じない。


『上手く狩れましたね。これでレベルが上がります』

『さすがはティーゲル様ですね。私達には、少し早狩に思えます』

『いつまでも、同じ獣を狩るのも良いが、たまには背伸びをするのを忘れるな。もっとも、次に狩るときには1つ上のレベルのパーティを誘うのだぞ』


 声も入っているのか? だが、確かにどこも変わりが無いハンターの会話だな。


「何を話してるんだろうね?」

 エリーの声に愕然とした。彼らが話しているのは、あのホールにあった言葉そのものじゃないか!

 

「この画像を、トメルグさん達に見せてごらんなさい。あの壮年のハンターだけど、シスターの旦那様その人よ」


 今度はエリーが吃驚しているようだ。開いた口を閉じる事さえ忘れている。

 だが、そうだとすると……。

 別れた時からだいぶ時間が経っているから、生きていればお爺さんの姿になるはずだ。 それが、あの容姿であることを考えると、すでに無くなったという事になるんだろうか? この画像は、シスター達や俺達みたいな直接の関係者は時代に近付くことも出来ない。それがパラドックス現象と言われる不可避の現象なんだよな。

 第3者であればこんな画像を持ってくることも出来るという事になるんだろうが、これではあまり意味が無いのかもしれない。

 だが、シスター達はこの画像だけでも満足するんじゃないかな。シスター達を逃がした後で犠牲になったわけではなくて、残った世界でハンターの育成に力を注いだという事だからね。



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