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残党

(1)


「今夜は臨時休業で店を閉めてあるし、扉には張り紙もしてあるはず……」

 マリオンが扉の傍まで行こうとしたが、「放っておけ、その内いなくなるだろ」とハルが引き留める。

 だが、扉を叩く音はいつまで経っても止まず、むしろ音は大きくなっていく一方だ。

 マリオンは、辻馬車に乗っている時の御者との会話を思い出す。

 クリスタル・パレスの火事を隠れ蓑にした強盗の類だろうか。

「……もしかして、人数が増えていないか??」

 ハルとランスロットの顔付きが徐々に険しいものに変わっていく。ただの客ではないことを察知し、警戒しているのだろう。ハルは、ズボンのポケットから短銃を取り出す。(燕尾服を捨てる際、銃はズボンのポケットに入れ替えたのだ)

「おい、ランス。猟銃を用意してくれ。こいつじゃ、七発しか撃てないから」

「でも、ボス。利き腕の小指がないんじゃ……」

「何とかする。ランス、銃を持っていない奴はお前に任せる。マリオンは奥に隠れてろ」

「えっ、嫌です。僕にも協力させてください!」

「駄目だ」

「僕はランスやハルさんみたいに強くないけど……、ただ見ているだけなのはもう嫌なんです!!」

「……分かった。じゃあ、お前にはこれを渡す」

 ハルは短銃をマリオンに渡すと、使い方を事細かに説明する。

「いいか??さっきも言ったが、これは七発しか装弾されていない。だから、お前や俺達の身に、本当に危険が迫った時だけ、引き金を引いてくれ。それと……、なるべく手足を狙え。絶対に、頭と心臓だけは撃つな。どういう理由であれ、俺はお前に人殺しさせたくないんだ」

「……分かりました……」

 そんなやり取りを交わしている間にも、扉を叩く音は更に大きくなり、終いには銃弾が撃ち込まれ始めた。

「ったく……、どいつもこいつも俺の店を潰す気かよ。勘弁してくれ」

 ハルが盛大な溜め息をついた直後、遂に玄関の扉が蹴破られ、複数の男達が中に侵入してきたのだった。


(2)


 男達は扉だった残骸を踏みながら、中に人がいたことに驚きを隠せないと言った表情を浮かべた。しかし、すぐさま一番先頭に立っていた男が、「金目のモノを全部出せ!!」と、カウンターに並ぶ三人に向かって銃口を突きつける。

「おいおい、一晩で二回も銃をつきつけられるとか、どんだけ運悪いんだよ……」

 ハルがうんざりしたように呟くと、「余計なことを喋るな!!」と先程の男が怒鳴り散らしながら、天井に向かって引き金を引いた。

「あーー、悪いが、お前さん達が今しがた壊した扉と、穴を空けた天井の修理代が必要だし、個人的な医者代もあるんでね。ビタ一文足りとも金は渡せないんだよ」

「そうか、じゃ、お前らを全員始末するだけの話だ!」

「ランス、マリオン!!カウンターの下へ隠れろ!!」

 二人に隠れるように指示すると、ハルは即座に猟銃を構え、発砲した。

 ドォン!ドォン!!

 二発の銃声が響き渡り、男が撃った弾はカウンター奥の棚に置いてある酒瓶に当たった。瓶は派手な音を立てて割れ、破片が飛び散り、液体と共に辺りに散乱した。僅かな差ではあるが、ハルの方が先に引き金を引いたようで、両手の指を撃たれた男は床に崩れ落ちた。

 しかし、次の瞬間、残りの三人がハル目掛けて同時に銃を発砲してきたのだ。ハルは咄嗟にカウンターの下に隠れたが、左耳を撃たれ、耳朶が見る見るうちに血に染まっていった。

「ハルさん!!」

「ボス!!」

「……大丈夫だ。耳朶を少し欠損しただけだ……」

 ハルはそう言って笑おうとするが、却って痛々しさが増すばかりで、マリオンとランスロットは悲しそうに顔を歪める。

「そんな顏するんじゃねぇよ……」

「でも……」

 その間にも強盗達は、容赦なくカウンター目掛けて銃を撃ち続ける。

「ランス、マリオン。お前達は逃げろ……」

 二人は目を潤ませながら、激しく首を横に振る。

「雇い主の言う事は聞けよ……!」

「聞ける訳ねえだろ!!」

 ランスロットが大声を出して猛反発すると、その声に反応して更に銃弾が撃ち込まれる。

「……奴ら、ただの強盗じゃない。全員が銃を所持していることといい、銃の扱いに慣れていることといい、ひょっとすると、クロムウェル党の残党かもしれない。このカウンターを弾除けにするにも、直に限界が来る。その前に、お前達だけでも逃げてくれ……!頼む!!」

 ハルが悲痛な面持ちで懇願するも、二人は微動だにしない。

「ランス、マリオン。お前達やメリッサのお蔭で、人生に失望していた俺は、また生きることへの希望や楽しみが少しずつ見出せるようになったんだ。だから、お前達には何としても生き伸びて、幸せでいて欲しいんだよ。多分、あいつらもそろそろ弾切れを起こすところだろうから、その隙に裏口から逃げるんだ……!」

「嫌です!だったら、三人で逃げればいいじゃないですか!」

「いや、俺は手負いで足手まといになるだろうし、あいつらにこの店をこれ以上好き勝手破壊されたくないんだよ。刺し違えてでも、俺はあいつらを全員撃ち殺す。俺にとって、お前達とこの店だけは何としても守りたいんだ」

「そんな……!」

「……了解」

 反発し続けるマリオンとは逆に、ランスロットが低く唸るような声でポツリと返事をした。そんなランスロットにマリオンは、責めるような目で睨みつける。

「マリオン。いいから、ボスの言う事を聞け」

「ランス!!」

 さすがのマリオンも逆上しかけた瞬間、ランスロットがマリオンの鳩尾を拳で殴りつけて黙らせる。殴られたマリオンは、うぇっと間の抜けた声を出し、ぐったりと大人しくなった。

「マリオン、ごめんな」

 申し訳なさそうにマリオンに謝ると、ランスロットは「俺がマリオンを抱えて出て行きます」と、ハルに告げる。

「そうだな……。ちょうど今、三人の内の一人が弾を切らしたみたいだから、他の二人ももうすぐ弾切れするだろう。そこで俺が銃を撃って引きつけるから、お前はマリオンを連れて裏から出て行け」

「……了解……」

 ハルの言葉通り、弾を切らした男が装弾している間に、他の二人も弾切れを起こした。

「……ランス、今だ!!」

 ランスロットはマリオンを抱えたまま、カウンターから飛び出す。

 丁度装弾し終った男が二人に目掛けて銃を発砲してきたが、「させるかよ!!」と、ハルが応戦し、その隙にランスロットは裏口の扉を開け放ち、店から脱出した。

「ランス、脱出成功したね……」

 外へ出た途端、マリオンが口を開いたため、ずっと気絶しているものだと思っていたランスロットは、ひどく驚いた。

「お前……、気を失っていなかったのか?!」

「ランスが僕を抱えて逃げる途中で意識が戻った」

「んじゃ、降りろ。意識のある男を姫抱っこしてやる趣味なんか、俺にはない」

 マリオンがランスロットの腕の中から解放された直後、二人の間を銃弾が擦り抜け、弾が飛んできた方向を確認すると、強盗の内の二人が銃口を向けて佇んでいた。

「クソッ!!」

 ランスロットが苛立だし気に奥歯を噛みしめたと同時に、彼の隣からパン!パン!!と銃声がしたかと思うと、男達の内、一人は脛を押さえて蹲り、もう一人は足を抱えながら地面にひっくり返り、痛みでのたうち回っていた。マリオンが男達に銃を発砲したのだ。

「……ラ、ラ、ランス!い、いい、い、今のうちに、あ、あいつ等を取り押さささ、えて!!」

 自分で撃っておきながら、咄嗟に取った自身の行動に混乱しているマリオンは、歯の根をガタガタと鳴らして、叫ぶ。銃を握りしめた両手をブルブルと震わせながら。

 マリオンの言葉通り、すぐにランスロットは二人の傍に走り寄ると、地面に転がっている二丁の銃を押収する。すると、蹲っていた男がランスロットの足を掴んで転ばせようとしてきたため、すかさずマリオンは男の手を狙い、再び発砲する。 しかし、弾は男の手ではなく、頬を掠めただけだった。それでも、男が一瞬怯んだ隙をついて、ランスロットは男の顔面を思い切り蹴り飛ばし、気絶させる。

 続いて、まだ撃たれた痛みに悶絶している、もう一人の男の顔面も蹴り飛ばして気絶させると、ランスロットは二人の首根っこを掴み、マリオンの元まで引きずっていく。

「マリオン、銃も二丁手に入ったことだし、ボスを助けに行くぞ」

「うん!!」

 ランスロットとマリオンはお互いに視線を合わせて頷き合うと、ハルを救出しに再び店の中に向かったのだった。

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