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二度目の対面

 劇場の非常口から出た後、マリオンはクリスタル・パレス内から外への出口を探す。

 温室を参考にした建築様式のためか、通路の両脇には小さな木が多数植えられている。

(確か、何処かに上流階級の人達専用の出入り口があったはず……)

 そこは、上流の人々が使用する馬車の停留所が近くにあり、上手くいけばダドリーと会うことができるかもしれない。

「マリオン!劇場から出たはいいが、どうやって男爵を探すんだ??」

 劇場での騒ぎのお蔭で、他の施設や展示場にいた人々も外へ避難するよう、指示を受けている。

「……僕に考えがある。二人共ついてきて!」

 そう言うと、マリオンは近くにいた係りの者を見つけ、声を掛ける。

「すみません、私達が使う専用の出口を探しているのですが、この混乱の最中ゆえに出口の場所が分からなくなってしまいまして……」

 マリオンは、ニコリと穏やかに微笑みながら、成るべく丁寧で品のある話し方を意識して話す。すると、非常事態なのに呑気に構えている、世間知らずな良家の子息と勘違いした係りの者が、「すぐに出口にご案内致しますので、早くこちらへ!!」と慌てて三人を出口まで連れて行った。

「やるじゃねぇか、マリオン」

 出口から外へ出ると、開口一番ハルがマリオンを褒める。

「んーー、こういう騙しみたいなの、あんまり好きじゃないですけどね……」

「使えるもんは使っとけ。特に、こういう非常時はな」

 すぐに三人は、停留所でダドリーの馬車を探す。あの混乱の中ではすぐに出発できるはずがないので、必ず馬車の近くにいるはずだ。

 名家の馬車には、それぞれの家の紋章が描かれた旗が屋根に飾られていて、ファインズ家の紋章は、天秤の上に一羽の鷹が止まっているというものだ。マリオン達は止まっている馬車一台一台、紋章の旗を確認していたが、その中でも一際大きな馬車の近くに来た途端、三人は思わず動きを止める。

 丁度、ダドリーがその馬車に乗り込もうとしていたからだ。

「待ってください!!ファインズ男爵様!!」 

 間髪入れず、マリオンは声を張り上げて男爵を呼び止める。男爵は、馬車の踏み台に足を掛けたまま、マリオンの方へ顔を向ける。

「何だ、お前達!!クロムウェル党の連中か!?」

 即座に、ダドリーの腹心がマリオンに銃を向ける。

「ち、違います!!」

 マリオンは敵意を持っていないことを示す為、両手を上に上げるが、腹心の男は銃口を下げない。

「ファインズ男爵様に、是非ともお渡ししたいものがあり……」

「信用ならん!!」

 威嚇するかのように、腹心の男はマリオンの足元の地面に向けて引き金を引く。

「てめぇ!!丸腰の人間相手に何しやがる!!」

 これには、ランスロットとハルも怒りを露わにさせて、腹心の男を怒鳴りつける。

「ランス、ハルさん!!やめて!!あの騒ぎの直後じゃ警戒されても仕方ないよ!!」

 マリオンは二人を嗜めると、再びダドリーと対峙する。

「……お前は、もしや……」

 腹心とマリオン達とのやり取りを黙って見ていたダドリーが、ようやく口を開く。

「イングリッド・メリルボーンが私に会わせたい、と言っていた者か??」

「はい!!」

 ダドリーは、値踏みするかのような視線をマリオンに送った後、「……いいだろう。こちらへ来い」と手招きした。

「ダドリー様!なりませぬ!!このような、得体の知れないものを近づけるなど……」

「エイドリアン。お前はいちいち喧しい。少し黙っていろ」

 静かだが威圧感のある、ダドリーからの叱責を受け、腹心の男は苦々しげな表情を浮かべつつ、銃を懐にしまう。その間にも、マリオンはゆっくりとだが、ダドリーの傍に一歩、また一歩と近づいていく。

 もう少しで、ダドリーに手紙が受け渡せる距離までマリオンが近付いた時だった。

 パンッ!という乾いた音がしたかと思うと、ダドリーの腹心がこめかみから血を流して地面に倒れたのだ。

「……やれやれ、見つかったか……」 

 ダドリーが溜め息をついたと同時に、四方から銃弾の雨が襲いかかってくる。

「マリオン!逃げるぞ!!」

「手紙を渡すのはもう無理だ!!それよりも、早くこの場から離れるんだ!!」

 ハルとランスロットはマリオンに逃げるよう、しきりに叫び散らすが、マリオンは呆然と立ち尽くしたままだ。

「おい、マリオンとやら」

 ダドリーに声を掛けられたことで、ようやく我に返る。

「私に話があるのだろう??馬車に乗れ」

「あ……」

「迷っている暇などない。さっさとしろ」

 マリオンは、ランスロットとハルの方を振り返って叫んだ。

「ランス!ハルさん!!全て終わったら、ラカンターに戻りますから!!」

 そして、ダドリーが差し出した手に掴まり、共に馬車に乗り込んだのだった。

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