表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/41

絶体絶命

 どれくらいの時間、そうしていただろうか。

 次発の汽車が近付く音で、マリオンはようやく我に返った。

 汽車に乗降する人の邪魔になってはいけないと、メリッサと一緒に座っていたベンチに腰を下ろす。

 メリッサといる時は何も感じなかったのに、一人となった今ではやけにベンチの冷たい感触が身体に伝わってくる。

「……メリッサ、何で……」

 マリオンは身体を折り曲げ、膝に頭を付けるようにして突っ伏す。

 最後に見た、メリッサの泣き顔が瞼の裏に焼き付いて離れない。

「……泣かせたくなんか、なかったのに……」

 彼女の、太陽の光のような、明るい笑顔が好きだったのに。

 あの笑顔を守ってあげたかったのに。

 結局、自分は彼女を幸せになんか出来ないじゃないか!!

(……不甲斐ないにも程があるよ……)

 マリオンは、自嘲するように軽く笑った。 

 だが、いつまでもこうやって感傷に耽っている場合ではないことを、マリオンは理解していた。

 気を取り直すようにフゥッと息を吐き出すと、マリオンは荷物を持って立ち上がり、ホームを後にする。

「おや、お兄さん、振られちまったのか??」

 切符を切ってくれた駅長に声を掛けられ、「えぇ、まぁ、そんなところですかね」と、マリオンは苦笑を浮かべて改札を出て行く。

(……帰ったら、シーヴァに散々怒られるだろうなぁ……)

 少なくとも、小一時間は説教されるであろうことを覚悟しながら、マリオンが家路を辿っていると、自分の背後を誰かが後をつけていることに気付く。始めは気のせいかと思っていたが、かれこれ五分以上はついてきている。

(これは……、家に帰るのは止めて、歓楽街に行こう)

 もしもクロムウェル党の人間であれば、家の場所を知られてはいけないし、歓楽街ならいざという時に、適当な酒場に逃げ込むことができる。

(それにしても、何で、一定の距離を開けたままでついてくるんだろう??)

 詰めようと思えば詰められるはずの距離感にも関わらず、ただ後をついてくるだけという動きに、マリオンは言いようのない気味の悪さを感じていた。

 走って振り切るべきかもしれないが、ひょっとしたら、マリオンが本気で逃げようとした場合、銃で撃ってくるかもしれない。相手の意図が全く読めない以上、下手な動きは避けるべきだろう。そう思ったマリオンは早足で歓楽街に向かうことに徹したのだった。

 そして、かれこれ十五分以上歩き続けた後、ようやく歓楽街に辿り着いた瞬間、マリオンは男に向かって荷物を思い切り投げつけた。

 荷物は見事に男の頭に命中し、男が怯んで一瞬見せた隙をついてマリオンは全速力で駆け出す。

「待ちやがれ!!このガキが!!」

 背後では男が大声で怒鳴り散らしているが、何故か追い掛けて来ない。

 その様子が妙だと思いつつ、マリオンは適当な酒場に入ろうと走りながら思案していた矢先、建物と建物の隙間から一人の屈強な男が突如現れた。

「?!」

 男は即座にマリオンの腕を掴むと、さっきまで自分がいた場所まで引っ張り込み、抵抗する隙すら与えず、そのまま彼を路地裏まで連れて行く。

 そこには、いかにもチンピラ風情と思しき、柄の悪い男達がもう一人立っていた。

「こいつ、男の癖に女みたいに細っこいから、簡単に連れて来れたぜ」

 マリオンを引っ張り込んだ男が、彼を馬鹿にしながら仲間に引き渡す。

「はっ、顔まで女みたいだな。本物の女なら、たっぷり可愛がってやりたいとこだが……」

 鼠のような、出っ歯とつぶらな目が特徴的な痩せた男がマリオンの胸倉を掴むと、彼の顏目掛けて拳を振り上げる。殴られた弾みで、マリオンは地面に投げ出された。

「あーあ、せっかくの顔が台無しだなぁ」

 鼠男は、しゃがみ込むと再びマリオンの胸倉を掴む。

「おい、女は何処に向かった??」

「…………」

「答えろ。お前と女が駅に向かったことは知っている」

「…………」

「だんまりかよ。そうか、そうか!!」

 男はマリオンの顔を何度も何度も殴りつける。マリオンの整った美しい顔は、見るも無残に血に塗れ、赤く腫れ上がっていく。

「おい、バリー。その辺にしておけよ。情報聞き出す前に、気絶されでもしたら困っちまう」

 屈強な男が制止すると、鼠男は不服そうに顔を歪めながらもマリオンを地面に放り投げる。どうやら、屈強な男の方が鼠男より立場が上のようである。

「兄ちゃん。素直に吐いた方がいいぜ??」

 今度は、屈強な男がマリオンの傍にしゃがみ込み、地面に突っ伏している彼に話し掛ける。

「お前が女の居場所を話さえすれば、お前の家族は助かるんだぜ??なぁ??」

「……もしも……」

「あ??」

「もしも……、僕が……、吐かなかったら……」

「その時は、お前の家族全員、命はないと思え」

「……!!……」」

「お前んとこの主人の女房だっけ??いい女だよなぁ。あんなオッサンの女房にしとくにゃ勿体ねえ。うちの血気盛んな男共のことだ、殺す前に散々愉しむだろうなぁ」

「……や……、やめ……」

「あ??何か、言ったか??」

「……やめろぉぉぉ!!!!」

 次の瞬間、マリオンは自分でも信じられない程の素早さで起き上がると、屈強な男に猛然と飛び掛かっていた。隙を突かれた男は無様に地面に仰向けにひっくり返ると、その上にマリオンは跨り、男を無我夢中で殴り続けた。マリオンの予想外の反撃に面喰う余り、男は抵抗もままならず彼に殴られ続け、やがて気を失ってしまった。

「やめるのはテメエの方だ!!」

 鼠男がシャツの襟首を引っ張り上げ、屈強な男の身体からマリオンを引き剥がす。

 再び地面に投げ出されたマリオンが起き上がるよりも早く、鼠男は彼の脇腹を思い切り蹴り飛ばしてきた。

「……がっ!……」

 口の中に溜まっていた血を吐き出したマリオンを見て、「きったねぇなぁ!!」と言いながら、鼠男はマリオンを蹴り続ける。先程とは打って変わり、マリオンは抵抗すら出来ずに、ただ蹴られ続けていた。

 やがて、痛みと流血が原因の貧血により、マリオンの意識は徐々に遠のいていったのだったーー。


(続く)



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ