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別離

(1)


 イングリッドから聞かされた話を、マリオンはイアンとシーヴァ、メリッサに伝えるために家に戻った。

 話が終わると、すぐさまシーヴァは寝室に入っていき、中から一通の手紙を持ち出した。

「マリオン、メリッサ。この手紙を持って、二人でウィーザーという港町に今すぐ逃げるのよ。そして、ミランダとリカルドという夫婦の元を訪ねて。その夫婦には事情を説明してあるから、予定より早まってしまったけど、きっと力になってくれるわ」

「シーヴァ……、僕も一緒に行っていいの??家のこととか……。それに、もしもクロムウェル党が来たりしたら……」

「確かに、マリオンがいなくなるのは私やイアン、子供達にとっては辛いことだわ。でも、貴方にとってメリッサは大切な女性でしょ??だったら、すぐ傍で彼女を支えてあげて。それに、奴らが来た時には皆で協力して追い払うことになっているから、きっと何とかなるわ」

 シーヴァはマリオンの瞳を強い眼差しで見据えながら、手紙を手渡す。

「さぁ、早く荷物をまとめて、汽車に乗る準備をするのよ」

 気丈な態度とは裏腹に、シーヴァの声は微かに震えていたのだった。


(2)


 マリオンとメリッサはシーヴァに言われた通り、荷物をまとめ、家を出て行く。

 怯えるメリッサの不安を少しでも和らげようと、駅へ向かう道中、マリオンは彼女の手を握りしめていた。駅で切符を買い、駅のホームで汽車を待つ間もずっと二人は寄り添うように、お互いの手を離さずにいた。

 調べたところ、この街からウィーザーという街まで行くには、中間地点の駅で一度、汽車を乗り換えなければいけない。その為、ウィーザーに着くのは夜が明けてからということになるので、およそ一晩かかる。そんな遠く離れた街ならば、クロムウェル党の連中が追ってくることはまずないだろう。

「メリッサ、大丈夫だよ」

 マリオンがメリッサにそう囁くと、メリッサは無言のままで更に強く、彼の手をギュッと握り返したのだった。

 一時間程待ったのち、ようやくマリオン達が乗る汽車が駅に着いたので、二人はすぐに乗り込んだ。

 夜の九時を過ぎた現在、ホームで汽車を待つ人はまばらで、この汽車に乗ったのもマリオンとメリッサだけだった。

「……あっ、しまった!!」

 汽車に乗り込んだと同時に、突然、メリッサが大きな声で叫ぶ。

「えっ、何、どうしたの??忘れ物??」

 驚いたマリオンがメリッサに声を掛けた時だった。

 ドン!! 

 マリオンの身体に衝撃が走ったかと思うと、気付くと彼はホームの固い地面に尻餅をついていた。

「メ、メリッサ……」

 信じられないことだが、メリッサがマリオンを汽車の中からホームへと突き飛ばしたのだ。

「何で……」

 マリオンは、フラフラと立ち上がると汽車にもう一度、乗り込もうとする。

「来ないで!!」

 すかさずメリッサに拒絶され、マリオンはショックでその場に立ち竦んでしまった。

「私の……ことは、いいから……。貴方は、家族の傍に居て、彼らを守って……。私なら……、きっと、大丈夫……。一人でどうにか生きていくわ……」

 メリッサのアイスブルーの大きな瞳から、一筋の涙が流れ出す。

「……メリッサ……」

 マリオンが手を伸ばした瞬間、無情にも汽車の扉が閉まり、ピーッ!!という警笛の音が鳴る、そして、ガタンゴトン、ガタンゴトンと重たい機械音と汽笛を響かせながら、汽車がゆっくりと動き出す。

 呆然自失となったマリオンは、成す術もなく汽車を見送ると、しばらくの間、ホームに佇んでいたのだった。

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