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襲撃

「マリオンの奴、大丈夫か……」

 ランスロットは二時間前、ラカンターの開店と同時に姿を現したイングリッドからの話を聞いてからと言うもの、どこか落ち着きがなくソワソワしている。

 いつもなら、遅くても開店時間の一時間前には必ず店に訪れるマリオンが今日に限ってちっとも来ない。どうしたもんかと、ハルとランスロットが心配しているところへイングリッドがやって来て、マリオンに話したこととほぼ同じようなことを彼等にも伝えたのだ。

「ランス、落ち着けよ。あの女が言っていたことが本当なら、今頃メリッサを別の街へ移す準備を始めているのかもしれない」

「それはそうなんですけど……」

 ランスロットが心配しているのは、マリオンやメリッサのことだけではない。イアンやシーヴァ達の事も含まれている。親友のマリオンや惚れ込んでいるシーヴァだけでなく、彼はイアンの事も好きだったからだ。

 子供の頃、ランスロットは近所で評判の悪ガキだったこともあり、一度、市場で盗みを働いたという疑いを掛けられたことがあった。その時、「確かにランスは、しょっちゅう悪戯を仕掛けたり、大人に対して反抗的な態度を取ることがある。だけど、やって良い事と悪い事の分別はしっかりつけられる子だ。証拠もないのに、ランスがやったなんて決めつけるな」と、イアンが庇ってくれて以来、実の父親と同じくらい彼を慕っている。

「いくらあの連中でも昨日今日で、すぐに何かしてくることはないだろう……、っと、いらっしゃいませ」

 店の扉が開き、栗色の巻き毛をした、目付きの悪い男が入って来た。

 男はカウンターにつかつかと歩み寄ると、ランスロットに向かって、「ここに、メリッサという女が働いているだろう??」と尋ねてきた。

「あぁ、そんな女いたっけ。少し前からいきなり店に来なくなって、実質クビになったけどな」

 クロムウェル党の人間だ、と確信したランスロットは、適当に話をはぐらかそうとした。

「とぼけても無駄だ。ここで働くマリオンとかいう男が匿っているんだろう」

「お客さん、分かってて聞くとか、相当性格が悪いねぇ」

「ふざけるな」

「ふざけてんのはどっちだか……」

 男は、肩を竦ませようとしたランスロットの胸倉を掴む。

「おい、痛い目みたいのか」

「お客さん、勘弁してくださいよ。他のお客さんに迷惑だ」

 ランスロットは立ち上がると、男の腕を払いのけようとしたが、その隙をついた男が彼に殴り掛かってきた。しかし、殴られるよりも早く、ランスロットはカウンター越しに男の鳩尾に一発、強烈な拳を食らわせていたのだった。

 男はぐえっと、蛙が潰されたような声と涎を吐き出した後、無様に床に倒れ込む。

「悪いねぇ、お客さん。俺、ちょーっとばかし人より腕が長いから、このくらい朝飯前なんだわ」

 気を失っている男を店から叩き出す為、ランスロットがカウンターから出てきて男の身体を持ち上げようとした時だった。

 玄関の前で、短銃を構えた男が立っていたのだ。

「……チッ!全員、床に伏せろ!!」

客達から悲鳴が上がり、伏せるようランスロットが叫ぶ。

「ランス!右か左、どっちかに寄れ!!」

 ハルの言葉に従い、ランスロットは咄嗟に、正面から見て右側に倒れ込むようにして伏せる。

 ドォン!!ドン、ドン!!

 耳を劈く大きな銃声が店内に響き渡り、硝煙が宙を舞う中、玄関先で銃口を向けていた男が「うぎゃぁぁぁぁ!!ああぁぁぁぁーー!!」と、言葉にならない悲鳴を叫んでいた。どうやら、男が引き金を引くよりも先に、カウンターからハルが護身用に置いてあった猟銃を発砲したようだ。

 ハルは指先に狙いを定めて撃ったらしく、男は両手の指を大半失った様で、痛みと流血でもがき苦しみ、床にうずくまる。

「ランス、こいつらを縛り上げるのを手伝ってくれ。あと、誰か警察を呼んできてくれないか」

 非常時に置いても、ハルはいつもの冷静さを失わず、周りに指示を出す。

 ハルの指示通り、ランスロットは奥から縄を持ち出し、「オラ、こっち来いや!」と玄関先でまだ痛みに悶絶している男を、失神している男の元まで引きずっていく。

 二人を床に座らせ、背中合わせで縛り上げると、ハルは指を撃った男に尋問を始める。

「お前、クロムウェル党の一員だろ??」

「…………」

 男は答えない。すると、ハルは手にしていた猟銃の銃口を、男の眉間の間に押し当てる。

「答えろ。でないと、お前の頭を吹っ飛ばすぞ。俺はこの店と、この店に関わる人間以外に守るものがないし、そいつらを守るためなら俺自身が犠牲になっても構わないと思っている。お前一人をぶっ殺してブタ箱にぶち込まれたって平気だ」

 ハルの、金色が入り混じったグリーンの瞳が狂気懸っている。それは豪胆なランスロットでさえゾッと凍り付く程に恐ろしいもので、男は指を失くして心身が衰弱しているせいか、ガタガタと歯を鳴らしてすっかり怯えていた。

「そ、そうだ……」

「……だろうな……。ハーロウの命令で、この店を襲撃したんだろ??」

「あ、あぁ……」

 ハルは銃口を突きつけたまま、フッと鼻を軽く鳴らす。

「あと……、もしこの店に、女がいなければ……。女が匿われている家に、押し込み強盗を装って、女を含め、家の者も全員始末することになっている……」

「何だって!?」

 途端に、ランスロットがハルを押しのけるかの勢いで、男に掴み掛かる。

「てめぇ!!詳しく話せ!!でなきゃ、俺がぶっ殺してやる!!」

「やめろ、ランス!!お前には親父さんがいるだろ?!守るべき者がいる奴は、手を汚そうとするな!!」

 激昂するランスロットを、ハルが厳しい口調で制止する。

「で、勿論、話してくれるよな??」

 ハルの中の狂気を垣間見たせいか、男は彼に対して恐怖心を抱いたようで、洗いざらい全てハルとランスロットに話したのだった。


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