約束
「あれ、メリッサ。こんな夜中にどうしたのさ??」
夜中に目が覚めたマリオンが台所に行くと、寝間着の上にガウンを羽織ったメリッサが、テーブルの席にちょこんと座っていた。
「ちょっと眠れなくて……。マリオンこそ、どうしたの??」
「ふっと目が覚めてね。喉も乾いたから、水を飲みに」
マリオンは柄杓で甕の中から水を掬い、カップに移したのち一気に飲み干すと、メリッサの隣の席に腰を下ろした。
「ねぇ、マリオン。貴方を始め、この家の人達は皆良い人ばかりだから、あと二週間でここを離れなきゃいけない、って思うと……、何だか寂しくなってきちゃって……」
「僕も、メリッサがあと二週間でいなくなることが……、正直辛いな」
メリッサは、マリオンにもたれ掛かるようにして、彼の肩に頭を乗せる。
「私、マリオンの傍にずっと居たいだけなのに……。何で、それすらも叶わないのかな……」
今にも泣き出しそうなメリッサの肩に手を回すと、マリオンは無言で彼女をそっと抱き寄せた。
「メリッサ。いつか君が、この街に戻って来れる日が来たらさ……」
マリオンは一瞬だけ目を泳がせたが、すぐにメリッサの方へ視線を戻すとこう告げた。
「僕と結婚して欲しいんだ」
「…………」
メリッサは、唐突にマリオンから求婚されたことに吃驚して、鳩が豆鉄砲を食らったかのように大きな瞳をパチクリさせた。
「……そ、そんなに驚かないでよ……」
「……驚くわよ……。まさか、この状況でそんな風に言われるなんて……、思ってもみなかったし……」
どことなく気まずい空気が二人の間を流れ、少し性急過ぎたかな……、失敗だったかも……、とマリオンが心の中で反省しかけた時、「私も、マリオンのお嫁さんになれたら、すごく嬉しい」と、メリッサが微笑んだのだ。マリオンが彼女を好きになるきっかけとなった、太陽のようにとびきり明るい笑顔で。
「じゃあ、約束しようよ。全てが解決したら。僕とメリッサは結婚しますって」
マリオンが右手の小指を立ててみせると、すぐにメリッサも左手の小指を立てる。そして、お互いの小指を絡ませ合い、「ゆーびきり、げんまーん、う、そつーいたーら、はーりせーんぼーん、のーます!!ゆーび、きった!!」
マリオンとメリッサは顔をくっつけ合い、イアンやシーヴァ達を起こさないよう、小声でクスクスとじゃれ合うように笑い合った。こんな他愛もないやり取りですら、二人は確かな幸せを感じていたのだった。




