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打ち明け話

 マリオンとメリッサは、花火見物をしている人だかりから少し離れた場所――、休憩場所にあたるベンチに腰掛けながら、打ち上げられる花火を眺めていた。

「……私が生まれた村は美しい湖水が有名で、あとは田園と牧場ばかりがそこかしこに広がっているだけの何もない田舎だった」

 泣いたせいで目の周りを少しだけ赤くして、メリッサが語る。

「家族も近所に住む人も皆、優しくて気の良い人ばかりだった。でも、成長するに従って、こんな田舎で畑や羊の世話をするだけで一生終えるなんて、何てつまらないんだろうと思い始めたの。都会に憧れを持っていたことも手伝って、その思いは日に日に膨らんでいったわ。勿論、そんな事は誰にも言わなかった。唯一人を除いて」

 マリオンは相槌も打たず、ひたすら黙ってメリッサの話に耳を傾ける。

「私の家の隣に、キャスっていう一つ年上の男の子がいて、小さい頃からずっと一緒で兄妹みたいに育ったわ。その内、お互いを異性として意識するようになって……、次第に恋人同士の関係になった」

 メリッサにはかつて恋人がいたーー、過去の話とはいえ、その事実にマリオンは今まで感じたことのない、モヤモヤした息苦しさを感じたが、グッと堪える。所謂、これが嫉妬心というものだろうか。

 マリオンの気持ちを悟ったのか、メリッサは「ごめん、あんまり気分の良い話じゃないよね……」と謝る。

「ううん、謝らないで。それより、話を続けてくれないかな??」

 自分のつまらない感情のせいで、メリッサに気を遣わせてしまったことを申し訳なく思ったマリオンは話を続けるよう促す。

「キャスには家族や友達にも話せないことですら自然と話せたし、彼も同様に私には何でも話してくれた。それでキャスも、この村で一生暮らしていくという生活に疑問を感じていたことが分かって……。三年前、私が十六歳、彼が十七歳の時に村を飛び出して、この街に二人で暮らし始めたの」

「つまり……、メリッサは恋人と駆け落ちしたんだね」

「……うん。でもね、今まで暮らしていた田舎と、都会のこの街じゃ何もかも勝手が違って、生活に慣れるのに私は必死だった。反面、キャスは水を得た魚のようにどんどん都会の生活に馴染んでいって……、気付いた時には、彼は他の女性にすっかり心変わりしていたわ。ある日突然、『君よりも好きな女性が出来たから、別れたいんだ』って言われて、部屋から出て行ってしまった。私はすぐに一人住まい用のアパートに引っ越したけど、リバティーンの稼ぎだけじゃ家賃を払うので精一杯だったから……、仕方なく街娼として身を売ることにしたのよ……」

「…………」

「自分から捨ててしまった家族の元へなんか今更帰れないし。身の丈以上の生活を求めた結果だもの、自業自得よね。呆れたでしょ??私はマリオンが思っているよりもずっと、自分勝手で馬鹿な女なの」

「……そんなことないよ!」

 気付くとマリオンは、メリッサの肩を両手で掴んでいた。思いの外、彼女の肩は小さくて華奢だった。

「メリッサが本当に自分勝手な人だったら、恋人と別れた時点で、平気で何食わぬ顔をして故郷に戻るはずだよ。でも、君はそうせずに、身を売ってまでこの街で暮らそうという決意を守って生きている」

「それは違うわ。帰る場所がないから、家族に合わせる顔がないから、そうしているだけよ」

「本当にそう思う??」

「どういうこと??」

「メリッサ、君自身が思っているよりも、君はこの街のことが好きなんじゃないのかな??だから、君なりに、この街で生きる理由を必死で見出そうとしている気がするんだ……って、そう思った方が多少は気持ちが明るくならない??」

「…………」

「……過ぎてしまった過去を悔やんだって仕方ないよ。それよりも、少しでもこの先を前向きにどう生きて行くかを考えた方がいい気がする」

「…………」

「って、僕なんかが偉そうに言って、ごめん……」

 メリッサは、ゆっくりと首を横に振る。

「マリオンは……、どうして、いつもそんな前向きでいられるの??」

「どうしてかなぁ……。でも僕だって、子供の頃は泣いてばっかりでいつもふさぎ込んでいたよ」

「……えっ……、何で??綺麗な顔立ちしているだけじゃなくて、優しくて周りの皆からこんなに愛されているのに……」

 メリッサは即座にマリオンに問い掛ける。

「……今はね……。昔は全然違ったよ。ちょっと事情があって詳しいことは話せないんだけど……、子供の頃は周りにいる人達全員から疎まれていた。僕には父親がいなくて、母親は……、いたけど……、母すらも僕を嫌って避けていた」

「何でよ!!」

 今にも怒り出し兼ねない勢いで、メリッサが小さく叫ぶ。

「母は、僕を産みたくて産んだ訳じゃなくて、周りに説得されて仕方なしに産んだんだ。だからだよ。実際、面と向かってそう言われたこともあるし」

「酷い……」

「メリッサ、僕の為に怒ってくれているの??ありがとう」

 マリオンは穏やかに微笑み掛ける。

「十歳の時、とある事情で僕は家から追い出されたんだ。その時、僕は悲しいとか辛いとか思わなくて、むしろ、ようやく自由になれたんだ、って思った。まぁ、その後、浮浪孤児状態で飢え死にするんじゃないか、ってくらいの空腹やらに苦しむ羽目になったけど……、でも、お蔭でイアンさんとシーヴァに出会えたし、ランスとも友達になれた。だから、今では追い出してくれた人達に感謝すらしているかな」

 メリッサは、マリオンの両手を自身の手で包み込むように、そっと握りしめる。

「ねぇ、マリオン。私も貴方に出会えたことに感謝しているの。もう二度と恋なんかしない、そもそも娼婦なんかやっている時点で恋なんて出来ない、って思っていたから。こんな私に好きだって言ってくれて……、本当に嬉しかった。私もマリオンの事が好きだから、二人で一緒に幸せになろうよ」

 メリッサに手を握られたまま、マリオンは顔を真っ赤に染め上げ固まってしまった。

「もう!マリオンは本当に照れ屋さんね、可愛い」

 クスクス笑うメリッサに、マリオンは「そ、そんなに笑わないでよ……」とたどたどしく言い返すことがやっとだった。

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