第2話
だが、そんなジスクの事など全く気にせず、2人はさらに話を続ける。
「これだけ本があると、他のも気になるよね……。目的の本が探し終わったら、ちょっと興味のある本探してみようかなぁ」
「あら、いいわね。ここならかなり年季の入った本もあるでしょうから、魔導書でも探してみるわ」
「アタシも、機械技術に関する本探そうと思ってんだよ」
何時の間にやらメイズまで加わっており、3人で和やかなインテリトークを催していた。
一方、話に入れないジスクはつまらなさそうに机に片隅に置いてある本を軽く突けば、
「よくもまぁ、本何か読んでられるよなぁ。オレなんて、目次見た時点で読む気無くすからな」
「それは早すぎでしょ」
呆れ果てたようなリアムのツッコミが炸裂し。
すると、エマイユが改めて一同に視線を巡らせるなりこう切り出した。
「それじゃあ、早速資料探しに入りましょうか」
「でも、探すっていっても……どうやって?」
リアムがおずおずと尋ねると、エマイユは考えを巡らせた後ゆっくりと口を開く。
「そうね……。まずは、歴史書と地図を片っ端から探しましょう。それをくまなく読んでいれば、きっと手掛かりが見つかるはずよ」
張り切ってそう返すエマイユに対し、ジスクは心の底から面倒臭そうなげんなりした表情を浮かべる。
“そんなだるくて面倒で疲れる事、やってられっかい”という気持ちが、口に出さなくても表情に出過ぎである。
だが、ここで文句を言ってもどうにもならない事なので、あえて黙っておく事にしておいた。
「かなり大変な作業でしょうけど、ニネア地方がどこか分からないと、行きようがないものね。それじゃあ、手分けして探しましょう」
「お……おう。」
何ともテンションの低いジスクの応答。
だが、エマイユは特に気にすることも無く、1人でさっさと本を探しにいってしまった。
「それじゃ兄さん。ボク達も探しに行こうか」
ジスクを1人にさせておいては絶対にサボるに違いない、第六感がそう告げたのか、ジスクの腕を引っ張るなりさりげなく彼を促すリアム。
「はぁ~、何でまたこんな事に……」
肺の奥に溜まった息を吐き出しつつ、やはり気乗りは全くしないらしいジスク。
しかしこのままぶつぶつ愚痴を零していても進展しないとすぐさま気持ちを切り替え、ゆるゆると椅子から立ち上がるなり本を探すべく本棚の方へと向かった。
◆◇◆
「……うげぇ。これ全部読むのかよ」
苦虫を噛み潰したような顔つきで、不満を余すことなく口から零れ落とすジスク。
だが、それも無理はない。
歴史書だけでも、本棚数個分の本があるのだ。
いくら手分けして探すとは言え、流石にこの分量は堪えるものがある。
特に、読書が何より苦手なジスクにとっては地獄にいるよりも辛い事だろう。
相変わらずげんなりしているジスクに対し、リアムは特に気にも留めていないのか涼しい顔つき。
「ほら、ぼやぼやしてないで、兄さんも手伝ってよね」
リアムは、両手いっぱいに本を抱えている。
本の重さによろけながらも、ジスクの前にあるテーブルにどん! とそれらを並べてみせる。
「これ……ホントに全部読まなきゃ駄目か?」
嫌そうに本の山を指差しながら、恐る恐るそう問いかけるジスク。
すると、リアムはさも当然の事のようにあっけらかんとこう返したのだ。
「そりゃ、そうだよ。頑張って手掛かり見つけなくちゃね」
すぐさまリアムの視線は目の前の机に落とされ、早速張り切ってページをめくり始めた。
「まぁ、文句言ってもしゃーねぇか……」
ジスクは諦めたようにそうつぶやくと、彼の目の前にある本の一冊を摘み上げた。
そして、渋々重い手つきでハードカバーの表紙を開いたのだ。
一同が、本を探し始めて数時間。
館内は私語の一つすら無く、耳鳴りがしそうな程の静寂が辺りを支配するばかり。
しかし、そんな静寂はいともあっさりと、そして突然に破られる事となってしまう。
──バァン!!
突如、静寂は破られた。
誰かがドアを乱暴に蹴破ったのだ。
辺りが静寂に包まれていた為、余計に扉を蹴破る音が図書館中に響き渡る。
予想だにしなかった雑音に思わずびくりと肩を震わせるなり、一同はまるで弾かれるように入口の方に視線をずらした。