第1話
メイズの必死の説得…というより、半ば強制的にメイズがパーティに加わって数日。
一同は、当初の目的地であるリネスタウンに向けて歩を進めていた。
リネスタウンへ向かう事に関しては、メイズはあっさり承諾した。
彼女にしてみれば、妹を探す事が出来ればどこへ行こうと構わないのだろう。
あまりに話がまとまるのが早い事に拍子抜けした3人だったが、心機一転、旅を続けたのである。
街道をひたすら歩き続けて数日、行けども行けども長閑な田舎道が続くばかりで飽き飽きし始めた頃、漸く4人の視界に大きな街並みが映り込んだ。
「あ、もしかしてあっちにあるのがリネスタウンかな? うわ~流石学問都市。何と言うか……威厳があるよね。町並みも何か、歴史がありそうな感じだし」
漸く街道を抜けて街の大通りへと足を運んだ一同。
リアムは、まるで上京してきたばかりの田舎者のように、あちこちをキョロキョロと見渡している。
──そう、一同が今いる場所こそ目的地であるリネスタウンだ。
リネスタウン…別名『学問都市』と言われており、その二つ名に恥じぬ程の立派な古代図書館は世界中にその名を轟かせている程。
古代図書館は赤レンガ作りの立派な建物で、芸術的な佇まいながらも厳格な雰囲気が同居している。
ジスクも大袈裟に図書館を仰ぐと、鳩が豆鉄砲を食らったようにぽかんと口を半開きにするばかり。
「はぁ……こりゃまたすげーもんだな」
「噂通りの図書館ね。それじゃあ、早速行きましょうか」
エマイユは、そんな言葉を残すとさっさと一人歩き始める。
ジスク達も後を追うが、ふと、リアムは何かを思い出したようで、メイズの方に視線をずらした。
「そういえば……メイズさんはどうするの? ボク達は図書館に行くけど、無理に付き合う事は無いし」
一方、そう訊かれたメイズは頭をポリポリ掻きつつ、どうしたもんかと頭を捻らせる。
「う~ん、どうするかねぇ……。妹探しも早くやりたいけど、古代図書館ってのも気になるんだよねぇ。いろいろ本読んでみたいし、せっかくだから同行させてもらうよ」
メイズの口振りはまるで、『観光名物はすべて目にしておきたい』と思う観光旅行者のようであった。
てっきり断られるものだと思っていたリアムにとってはメイズの返答はよっぽど意外だったのか、ぽかんと目を見開くばかり。
だが他人がどうこう口を挟む問題でもあるまい……と、口は噤んでおく事にしたようであったが。
一方のメイズは何かを思い出したようで、改めてリアムの方へと向き直った。
「あ、それから……」
彼女はそうつぶやくと、リアムの鼻をつん、とつついた。
これにびっくりしたのはリアムである。
とは言え、無理に手を振り払う訳にもいかず。
どうしていいか分からず戸惑っていると、メイズからこんな言葉が返ってきた。
「アタシの事は、呼び捨てでいいよ。『メイズさん』なんて、よそよそしくてむず痒くなってくるよ」
「え? あ、うん、分かった」
一体何を言われるのかと身構えていたリアムであったが、またしても予想外なメイズの言葉に一瞬反応が遅れたのか、しどろもどろな返答をするだけで許容量オーバーのようであった。
そうこうしている2人であったが、気がつくとジスクとエマイユはさっさと図書館の中に入ろうとしていた。
急いで、リアム達も後を追うべく駆け出して行った。
◆◇◆
「うへぇ~……。流石にここまで所狭しと本が並べられてると、気分悪くなってくるな……」
げんなりした様子で、そうぼやくのはジスク。
確かに、彼の言う通り、図書館の中は右を見ても左を見ても上を見ても何処を見ても本、本、本、の一言に尽きる。
本棚がずらりと立ち並んでおり、その高さといえば天井に届きそうである。
新しい本から、めくった瞬間バラバラになってしまいそうな程朽ちかけた本まで、まさに多種多様であった。
この図書館内で地震が起きたら、崩れ落ちる本に埋もれてしまう程の量である。
本の虫にとっては天国のような場所であるが、そうでない人にとったら、息苦しい事この上ない。
どうやらジスクは『そうでない人』の部類に入るようで、心から嫌そうな顔をしている。
だがそれとは対照的に、リアムとエマイユの2人はやたら張り切った様子で目を輝かせていた。
「予想以上の本の多さね。これなら、何か手掛かりが見つかるはずだわ」
「そうだね。もしかしたら、エターナルについても何か分かるかもしれないし」
やる気満々の2人に対し、ジスクのテンションは下がる一方であった。