第15話
「旅に出なくちゃいけない理由……訊いてもいいかな?」
躊躇いがちに問いかけるリアムであったが、メイズは言い淀むこと無くぽつぽつと語り始めた。
「アタシにはさ……生き別れの妹がいるんだよ」
「へ? 妹いんのかよ? 名前は? どんな奴なんだよ?」
メイズの口から零れ落ちた事実は一同を驚かせるには充分だったらしい。
よっぽど意外だったのか、ジスクは目を丸くしつつも興味本位で矢継ぎ早に質問をぶつける。
だが、メイズは首を振ると、
「妹とはガキの頃に生き別れちまったからさ、どんな奴だったかなんて、全然覚えてないんだよ。……っていうか、アタシは自分に妹がいた事すら知らなかったからさ」
あっけらかんとそう答えるメイズの瞳には、わずかながら寂しさと憂いの色が浮かんでいた。
それを察したかどうかは定かではないが、エマイユが真剣なまなざしをメイズに向けた。
「もし、差し支えなければ……詳しい話を訊かせてもらえないかしら?」
その言葉に頷く事で同意の意志を示すメイズ。
そしてゆっくりと記憶の糸を手繰り寄せ始めた。
「アタシに妹がいるって知ったのは、親父が死んでからさ。遺品を整理してたら、親父の遺言書を見つけてね。そこに書いてあったんだ。『お前には、生き別れた双子の妹がいる』ってね」
「でも……どうして生き別れになったの? 何か事情でも……」
ふと、そんなことが気になったので、思い切ってそう尋ねるリアム。
「アタシらが生まれて間もない頃、仕事が上手くいかなくて、金銭的に子供を2人養う程の余裕が無かったらしいんだ。だから、泣く泣く妹の方を孤児院に出したらしいね」
メイズはそこまで話すと、ゆっくりと一呼吸置いた。
それから再び語り出した彼女の双眸には、確かな力を宿していた。
「でも、決して捨てた訳じゃない…! その事を、親父はどうしても伝えたかったらしいんだ。でももし、それが叶わず、自分が死んでしまったら……代わりにアタシが伝えてくれないか、そう遺言書には書かれてたんだ……」
彼女はそこでいったん言葉を切ると、寂しそうに目を伏せてしまった。
そんな様子を眺めていた3人も何か込み上げるものがあったのだろう、複雑な表情を浮かべる。
だが、メイズが落ち込んでいたのはほんの数秒で、すぐにまたいつもの明るい顔つきに一変する。
伏せていた視線を上にずらせば、彼女の表情は決意に満ちていて。
「遺言書にそんな事が懇願されてたらさ、断る訳にもいかないだろ? きっと親父は無念だったと思うんだ。真実を伝えられなくてさ…。だから、アタシがその遺志を継ごうと思ってさ。それに、妹にも一目会ってみたいしね」
天を仰ぎ見ながらまるで自分に言い聞かせるようにそう話すメイズ。
それを聞いた3人は、そんな彼女に何と声をかけるべきか考えあぐねているようであった。
何処となく重苦しい空気が辺りを包み込もうとした中、それを破ったのはリアムだ。
「でも、探すって言っても、どうやって? 何か、手掛かりでもあるの?」
不安そうに尋ねるリアムに対し、メイズは自信たっぷりに胸を張ってみせる。
「そりゃ、手掛かりがなけりゃ探しようがないだろ? まずは、名前はレマ=サジスト。それから、一卵性の双子らしいから、少なからずアタシに顔は似てるはずなんだ」
「……それだけ?」
「ああ、そうだけど」
「……。」
あっけらかんときっぱりそう言い切るメイズに、3人はぽかんと目を丸くしてその場に固まるばかり。
──おいおいおい!? いくら何でも、そんな少ない手掛かりで見つかるのかよ!?
……という言葉が喉まで出かかったが、すんでの所でぐっと飲み込んだ。
まるで、空に浮かぶ雲を掴むような曖昧さ。
それだけ大変な作業にも関わらず、当の本人であるメイズは謎の自信に満ち溢れた表情を浮かべるばかり。
肝が据わっているというか、事の重大さが分かってない、というべきか。
どうやらかなりメイズは大雑把且つ楽天的な性格のようだ。