第3話
「なっ…何だ今の!?」
あまりに突然の出来事に、ジスク達だけでなく軍人達も驚きを隠せない。
エマイユの放った魔法の矢は真っ直ぐ飛んでゆき、彼女に襲いかかってきた軍人に直撃した。
その軍人はそのまま地面に倒れ込み、糸の切れたマリオネットのようにピクリとも動かない。
エマイユ以外の一同はしばらくあっけにとられていたが、一足先に我に返ったリアムがポツリと呟いた。
「まさか…今の、魔術? でも、使えるはずが…」
「ええ。貴方の言う通りよ。でも…今は説明している暇は無いわ。とにかく、詳しい話は後で、ね」
リアムの呟きが聞こえていたらしく、エマイユが冷静な口調で答えた。
──彼女は確実に、何かを隠している──…
リアムはそう確信しながらも、今は呑気に追及している暇はない。
「ふん、その程度の事など!」
軍人達も体勢を立て直してきたようだ。その辺りは、日々訓練していて戦い慣れている軍人と言った所か。
エマイユの放った魔術…のようなものに怯む事無く、またしても襲いかかってくる。
それでも、エマイユのおかげもあり、形勢は再びジスク達の方に傾いてきた。
それを悟ったジスクは、リアムとエマイユに話しかけた。
「此処はオレが何とかするから、2人は先に逃げろッ!」
いきなり何を言い出すのかと、リアムとエマイユの顔には明らかな驚愕の色が浮かぶ。
勿論、そんな提案にはいそうですかと二つ返事で了承出来る筈も無く。
「そっ…そんな事出来ないよ! それに…兄さんはどうするの!?」
「オレなら平気だよ。この程度の数なら、オレ一人で何とかなる。後で追いかけるからさ。そもそも、一番の目的はエマイユを逃がす事だろ? お前はエマイユと一緒に行って、守ってやれよ」
ジスクは、落ち着いた口調でそう返す。普段の直情的で向こう見ずな彼とは似ても似つかないくらいに。
しかし、それでもリアムはまだ納得出来ないようだった。
リアムが何か言おうとした時、それを遮るようにして、今までずっと黙っていたエマイユが口を開いた。
「…分かったわ。いい? 必ず後で来るのよ? 格好良い事言っておいて、あっさりやられたりしたら許さないからね」
「ちょ、ちょっと待ってよ! ボクはそんな…兄さんを置いていける訳無いでしょ! それにエマイユさんもちょっと冷たすぎない?」
「……分かっているわよ、そのくらい。けれど…私は此処で立ち止まる訳には行かない。それに大丈夫よ、貴方のお兄さんならきっと後を追ってきてくれるわ」
「……っ、それは…」
一見、冷たすぎるエマイユの発言に、リアムは眉をつり上げた。
しかし、エマイユには分かっているのだろう。自分がやられてしまったら、今までの苦労がすべて無駄になるという事を。そして、ジスクは必ず後を追ってきてくれると。
「ったりめーだろ? オレは悪運だけは強いからな。ほら、さっさと行け!」
ジスクはにかっと人懐こい笑みを浮かべると、腹を括ったエマイユ、そして未だ戸惑いの表情を見せるリアムにさっさとこの場から離れるよう促した。