第14話
「毎日のように、親父がこれを見せてくれたんだ。いっつも嬉しそうな顔してさ、『これは俺の宝物なんだ』って言ってたっけ。子供みたいに顔を輝かせてて、見てるこっちの方がおかしくなっちまったね」
まるで思い出の1ページを開くように、ゆったりとした口調で語り始めるメイズ。
彼女が本当に取り戻したかったもの──…それは月光石ではなかったのかもしれない。
月光石や彼女自身の心に刻まれた、掛け替えのない思い出。
懐かしそうにしているメイズを見て、他の3人の顔も自然と綻んでくる。
「屋敷に忍び込むのはすっっごく大変だったし散々な目に遭ったけど、何か嬉しいと思うからそれでいいよね」
「……だな」
そんな事を言い合うジスクとリアムの表情は、何処か穏やかさに満ちていて。
その会話を聞いたのか、エマイユもくす、と微笑んでいる。
穏やかな光は、まるで一同を包み込んでいるかのようだった──―…
「うわ~、凄いね! あれだけいろいろやってもピクリとも動かなかったのに、今はすっかり元通りになってるよ!」
と、嬉しそうな声を上げているのはリアムである。
彼の手には古びた懐中時計が握られており、その時計は正確に時を刻んでいる。
その時計とは、修理に出していたリアムの母親の形見である。
メイズはそんな彼の様子を嬉しそうに眺めると、自信たっぷりにこう言ってのけた。
「そりゃ当たり前さ。これはかなりの自信作だからねぇ。アタシの持ってる技術、全て惜しみなく投入したからね。これで動かないはずがないさ。……ま、おかげで昨日は完徹だったけど」
そう言い終わるや否や、メイズの口からは最大級の欠伸が零れ落ちる。
すると、リアムは申し訳なさそうに目を伏せてみせた。
「何か……無理させちゃったみたいだね。わざわざこんな事させちゃってごめんなさい」
リアムはしゅんと眉尻を下げながら彼女に深々と頭を下げる。
しかし、メイズはぶんぶん手を振ると全く持って気にする素振りもなくこう返した。
「ちょっ……! 何やってるんだい! よしてくれよ。これは、アタシが善意でやったんだ。別に、無理した訳でも無いし。それにアンタはさ、アタシの宝物取り返すのに協力してくれたし、その礼だよ」
メイズは照れくさそうにそう言うと、リアムの肩をポン、と叩いた。
そんな彼女の晴れやかな笑顔に釣られるように、リアムの顔から憂いの感情が消えていった。
「そ、そっか……ありがとね」
そんな会話をしていると、ジスクとエマイユがやってきた。
ジスクは、リアムの手に握られている時計をひょい、と摘み上げると、
「おっ、これが修理した時計か? へぇ~、ちゃんと動いてんじゃねーか。オレはもう絶対無理だと思ってたけど、何とかなるもんなんだなぁ」
ジスクは時計をまじまじと眺めると、感心した素振りでそうつぶやいている。
一方のエマイユはメイズのとある様子が目に付いたらしく、不思議そうに小首を傾げてみせる。
どうしたもんかと暫く無言で悩んでいたようだったが、遂に意を決したエマイユがメイズに向き直るなりこう切り出したのだ。
「ねぇ、一つ訊いてもいいかしら?」
訊かれた方のメイズは、問いかけをされる覚えが全く無いようできょとんと首を傾げるばかり。
だが、エマイユはそんな様子など気にも止めずに言葉を続ける。
「貴方、荷造りをしているようだけれど……どこかへ行くつもりなのかしら?」
エマイユの問いに、メイズは拍子抜けしたような顔をした。
その表情は、『何だ、その程度の事か』と言わんばかりである。
「ああ、これかい? 見ての通り、これから旅に出ようと思ってさ」
軽いノリであっさりきっぱり言い放つメイズに、3人は揃いも揃って鳩が豆鉄砲を食らったような表情をぶら下げるばかり。
「それじゃ修理屋はどうするの?」
「そりゃ、しばらく休業って事にするさ」
驚いてリアムが問うと、メイズはさも当然の事のようにそう返した。
「でも、どうして突然……?」
エマイユの言葉に、メイズは首を横に振ってみせた。
「……いや、これはずっと前から決めてた事なんだよ。親父の形見を取り返したら旅に出よう……ってね」