第11話
「それは此方の台詞だ! たかがメイド風情が、何故この部屋から出てくるんだ!? まさかお前ら、何か盗んだんじゃ…!?」
と、眼を血走らせながら富豪は一気にまくし立てた。
2人をメイドだと勘違いしているものの、その読みはあながち間違ってはいない。
それを悟ったメイズは、さも馬鹿にしたような視線を送る。
「…で? そのまさかだったら、どうするっていうのさ!?」
まるで挑発するかのようなその台詞に、富豪の頭からは湯気が出んばかりの勢いだ。
わなわなと拳を震わせながら、
「なっ…!? 盗人の分際で、よくもそんなふてぶてしい態度が取れたものだな!?」
その言葉に、今度はメイズが沸点に達する番であった。
「はぁ? 何偉そうな事言ってんだい!? そもそも、先に盗んだのはそっちだろ? アタシは、あくまで自分のモノを取り返したまでさ」
「な、何を馬鹿な…! このわしが盗んだ、だと? 言い掛かりもいいかげんにしろ!! だいたい、お前らは何者なんだ!?」
全く訳が分からない、といった感じで、怒鳴り散らす富豪。
そんな様子を見て、怒る気力も失せたようにメイズは大きな溜め息を零してみせた。
「はぁ…アンタ、何にも分かってないんだねぇ。話す気力も無くなってくるよ。…まず、アタシが何者か、だって? 訊かなくても、アンタだったらよぉ~く知ってるはずさ。なんせ、アンタはアタシの家に何度も訪ねてきたんだからねぇ。『譲ってほしいものがある』って、さ」
メイズが此処まで説明してやっと全てを思い出したらしい。
血の気がさっと引いていくのが本人だけでなくリアム達にも分かる程。
まるで、お化けでも見るような顔つきでメイズを指差してみせた。
「お、お前、あの時の…! メイズ=サジスト、だったか?」
「…ご名答。名前まで覚えてるとは、光栄だねぇ。ま、せっかくだから、何にも分かってないアンタに教えてやるよ。アンタは人の手を借りてまんまとそれを手に入れたと思ってるかもしれないけど、アタシには全部お見通しなんだよ!」
勝ち誇った笑みを浮かべながら、啖呵をきるメイズ。
一方、富豪は顔を青くしたり赤くしたりと忙しく顔色を変えつつもメイズに鋭い視線をぶつける。
「何が『全部お見通し』だ。そもそも、わしがそんなことするはずがないだろう!」
「そうかねぇ。アタシははっきり見てるんだよ。アンタが見知らぬ男に、『アレを盗んでくれた報酬だ』とか言って金を渡しているのをさ。それに、さっきそこの部屋で物色してたら、しっかり例のブツ、発見したからねぇ」
彼女は得意げにそう言い切ると、懐から何やら袋を取り出した。
どうやらその中に、彼女が取り返したかったモノ…父親の形見があるのだろう。
ここまでメイズにばれてしまっては、言い訳のしようもないのだろう。
しばらく富豪は顔を真っ赤にしながら考えをめぐらせていたが、突然、何かを思い付いたように声を荒げた。
「誰か! 誰かおらんのか!! ここに泥棒がいるぞ! 早く捕えよ!」
途端、2人の間に緊張が走る。
自分を睨み付ける2人を見下ろしながら、富豪は下卑た笑みを口元に湛える。
「フン、そこまで調べたのには褒めてやろう。だが所詮、子供の浅知恵だ。どうやって逃げるつもりだ? 此処には、何十人もの警備兵がいるんだぞ?お前達は、まさに袋の鼠だ」
よっぽど自分が敷いた警備網に自信があるのだろう、富豪は勝ち誇った笑みを浮かべる。
すると、今までずっと黙っていたリアムが不安そうにメイズに耳打ちをしてきた。
「どっ、どうするの? せっかくここまで来たのに、逃げられないなんて…」
「何情けない事言ってんだい? お楽しみはこれからだよ」
何か策でもあるのだろうか、不安げに瞳を揺らすリアムとは対照的にメイズといえば自信満々の台詞を残す。
「威勢だけはいいようだな。もうすぐ、警備兵も来る頃だ。そんな状況でどうする気だ? まぁ、お前が持ってるそれを返すのなら、考え直してもいいがな」
一方の富豪は、まるで人を見下したような台詞である。
もちろん、メイズも負けてはいない。
「へっ、誰が! これは、死んでも返さないよ!」
彼女はそう叫ぶと、ほんの一瞬リアムにアイコンタクトを送る。
勿論リアムはそれを見逃さず、彼女の真意を悟るとコクリとうなづいた。
メイズはその様子を見ると、満足そうに頷いてみせる。
そして改めて富豪へと視線をずらした。
「この程度で追い詰めたなんて思ってもらっちゃ困るね!」
彼女はそう叫ぶと、何かを思い切り地面に叩きつけた。
──煙り玉である。