第2話
「どうしても…諦めてはくれないのね?」
静かにそう訊くエマイユ。彼女の、最後の希望を賭けた必死の訴え。
しかし、彼女のそんな願いは脆くも崩れ去る羽目となる。
「当たり前だ。上の命令は絶対だからな。そちらこそ、渡す気がないのなら…力ずくで奪うまで!」
軍人の一人がそう答えた瞬間、まるで、待ってましたと言わんばかりに、周りにいた軍人達が武器を構えた。
エマイユも覚悟を決めたかのように、軍人達を鋭い双眸で見据えた。
一触即発の空気が流れる中──…
完全にジスク達だけが取り残されていた。
…この雰囲気に。
だが、場の空気に取り残されおたおたしている2人を気遣う人達がいるはずもなく。
一斉に、軍人達が攻撃をしかけてきた。
「あ…あっぶねーなぁ」
反射神経が勝手に動いたというべきか。
迫り来る狂気の刃の軌道を咄嗟に読み取ると、それぞれ軽やかな足取りで軍人の攻撃を回避してみせる。
もう、ジスクとリアムに迷っている暇など無かった。
「おいリアム、もう腹括るしかないみてーだぞ」
ジスクはやる気満々、といった顔つきで、腰にぶら下げている剣を鞘から抜くと両手に持ち身構えてみせる。
何だかんだで、呑み込みが早い性格と言うべきか、ある意味では好戦的な性格のようだ。
「そう…だね。それに、後でエマイユさんにきっちり説明してもらわないと気が済まないしね」
リアムは気乗りがしないようだが、そうも言ってられない。
彼は懐からグローブを取り出し、右手にはめた。
「とりあえず、危ないからエマイユは下がっててくれ」
エマイユが戦えないと判断したのだろう、ジスクは視線だけエマイユに向けると彼女にそう話しかけた。
しかし、彼女は無言のまま。
「よっしゃ! いっくぜぇ~っ!!」
ジスクが声を張り上げてそう叫ぶと同時に、軍人の1人に斬りかかった。
2人共、まだまだ荒削りだったが、なかなかの実力で軍人達に応戦していた。
ジスクは手にした剣を勢いよく振り回し、基本的に直線的で猪突猛進な戦い方をするタイプのようだ。
軍人達に動きを読まれる事もしょっちゅうであったが、そこは持ち前の前向きな性格と力で捻じ伏せていった。
そしてリアムの操る糸は武器としては珍しいようで、軍人達も戦いにくそうにしている。
リアムのはめているグローブの指先から、糸が出てくる仕組みのようだ。
しかし、明らかに軍人達の数が多く、数で押されてきた。少しずつ形勢は一同が劣勢へと追い込まれてゆき、ジスク達も苦戦を余儀なくされる。
そんな2人の隙をついて、軍人の1人がエマイユに襲いかかってきた。
ジスクとリアムも彼女の援護に向かおうとするも、自分の所に向かってきている軍人達に手一杯で、そうもいかない。
「エマイユ! とにかく早く逃げろッ!」
ジスクの悲痛な叫びがこだまする中──…エマイユだけは冷静に、一つの言葉を紡いだ。
「エナジーアローっ!」
彼女の手にしているスタッフから、一筋の矢が放たれたのだ。