第4話
「どんな事でもって…一体、何をするつもりなの?」
リアムが、驚きつつも恐る恐る訊いてみる。
「どうって…そりゃ、富豪の屋敷に侵入して、取り返すまでさ」
何を躊躇う事があるか。
事も無げにあっけらかんと言ってのける少女を目の当たりにするなり、リアムの胃がずっしりと重くなるのを感じた。
「ちょっ…! ま、待ってよ! その富豪が盗んだ、っていう事が分かってるんなら、本人に直接問いただして、返してもらえばいいじゃない」
普通ならば、リアムの言い分の通り真っ当な手段を用いて速やかに返却してもらうべきであろう。
しかし、少女は首を横に振ると、
「それで済むんなら、とっくにやってるさ! アタシが何度も問いただしても、あいつは知らぬ存ぜぬの一点張りだよ。口で言ってももう無駄、って事さ」
絞り出すように放たれる言葉に、リアムのみならず一同は絶句してしまう。
そんな一同の様子を知ってか知らずか、少女はさらにこう続ける。
「だから、こっそり忍び込んで返してもらおうって訳さ。やられたらやりかえす、ってね。ほら、言うだろ?『目には目を』ってさ」
落ち込んでいるかと思いきや、なかなかの強気発言である。
むしろ『目には歯を、歯には牙を』といった気もするが。
彼女に同情すべき部分はあるし、何とかしてやりたいという気持ちも無くは無い。
しかしおいそれと了承出来る内容でもなく。
一同が答えに戸惑っていると、少女がすがるように頼み込んできた。
「忍び込むのにはどうしても誰かの協力が必要なんだよ。だから…お願いだから協力してくれないかい?」
しかし、いくら頼まれようとも、安易に返事が出せるようなものでもない。
対応に困っていると、少女がさらに食い下がる。
「確かに…こんな事言えた義理じゃないけどさ…。でも、どうしても取り返したいんだよ! 宝物だから…アタシの親父が残してくれた、大切なモノだから…!」
彼女は真剣な眼差しが一同を突きぬけてゆく。
先程までのノリの軽さとはうって変わって、覚悟を決めたような…何の迷いも無い顔つきだ。
それほどまでに、大切なものなのだろう。
確かに、そこまで言われると断り切れないものがあるが、だからといってはい分かりましたと引き受ける訳にもいかず。
一同が戸惑っていると、リアムが決意したかのように口を開いた。
「…分かった。その依頼、引き受けるよ」
「へ? ちょっと、おい!? そんな簡単に決めちまっていいのかよ!?」
ジスクが青天の霹靂、と言った様子で戸惑いと驚愕を孕んだ双眸をリアムに向ける。
確かに、いつも慎重に事を運ぶリアムにしては珍しい事だ。
むしろ、こういった無謀な決断はどちらかといえばジスクの専売特許だろう。
リアムはジスクを一瞥してから、眉一つ動かす事無く言葉を続ける。
「だって、お父さんの形見なんでしょ? それが、どれ程までに大事なものか、ボクにも分かるよ。この懐中時計もボクの母さんの形見だから…」
リアムはそう答えると、愛しそうに両手に収まる懐中時計を一撫でして穏やかな微笑みを向ける。
そんな彼の様子を見て、2人も納得せざるを得なくなっていた。
…と、少女がパァッと顔をほころばせ、嬉しそうにリアムへと向き直れば、
「じゃ、協力してくれるって訳だね! 何だ、話が分かるじゃないか」
彼女はそう言うと、豪快に笑い飛ばしながらリアムの肩をバンバン叩いた。
一方、ジスクは諦めたように肺の奥に溜まった息を吐き出した。
「ま、しゃーねぇか。確かに、悪いのは向こうなんだしな。そんじゃ、早速詳しい話を訊かせてくれねーか?」
ジスクの言葉に、少女は一つ頷いてからぽつりぽつりと詳細を話し始めたのである。
「ま、平たく言えば富豪の屋敷に忍び込んで、さっさと取り返せばいいんだけどさ。警備がかなりキツいだろうし、一筋縄じゃいかないだろうね」
「それなら…何か良い案でもあるのかしら?」
エマイユの問いに、少女は自信たっぷりの表情でこう答えた。
「そりゃ、もちろんさ。まずは二手に分かれる。一方は屋敷に忍び込んで、もう一方は、何か騒ぎを起こして警備の気を引いてほしいのさ」
「つまり…陽動する、って事?」
ふむふむ、と考え込みながらそう呟くリアム。
少女は頷く事で同意の意志を示してみせた。
「まぁ、そういう事だね。だからさ、陽動する方は、出来るだけ派手な事やらかして警備の気を引いてほしい訳さ」
「へぇ…なかなか面白そうじゃねーか」
と、ジスクも何だかんだで乗り気のようだ。