第3話
ジスクはポリポリと頭を掻きつつも、
「いきなりそんな事言われてもなぁ…。とりあえず、詳しく話を聞かせてくんねーか?」
と、とりあえず事情を聞く事にした。
すると、少女は相変わらず軽いノリであっけらかんとこうのたまってみせたのだ。
「ま、平たく言えば…泥棒の手伝い、ってトコかねぇ」
「……はぁ?」
さらりと事も無げに言ってのける少女に対し、ジスク達と言えば鳩が豆鉄砲食らったような顔をぶらさげるばかり。
その表情には驚愕の他にも呆れの色が浮かび、まるで何を言ってるんだコイツは、と言いたげだ。
暫く頭が真っ白になっていた一同であるが、いち早く我に返ったジスクが食って掛かった。
「なっ…何言ってんだよ!? 犯罪の片棒なんか、担げる訳ねーだろ! そもそも、何しでかそうってんだよアンタ!?」
掴み掛からんばかりの勢いでそうまくし立てるジスク。
確かに、彼の言うことは尤もである。
すると、少女はしれっとした態度でまるで悪びれる様子も無い。
「そんなに騒ぐ事かい? つーか、言い方が悪かったね。アタシはあくまで、自分のモノを取り返すだけなんだからさ。アンタ達には、それを手伝ってほしいのさ」
「取り返す…? 一体、どういうこと?」
全く訳が分からない、といった様子で首を捻るのはリアム。
少女はうんうん、と頷くと当然、と言いたげに顎を上げて強気な態度を見せた。
「そ。元はと言えば、向こうが悪い訳。自分のモノを取り返すのは、別に犯罪じゃないだろ?」
「まぁ、確かにそうだけれど…。でも、イマイチよく分からないわね。取り返すってどういう事なのか、詳しく聞かせてもらえないかしら?」
的を射ない口振りの為にどうにも話が見えてこないので、思い切ってエマイユはそう訊いてみた。
すると、少女の口から零れ落ちたのはこんな答えであった。
「アタシの…宝物が、盗まれたんだ」
「盗まれた…?」
突然、真剣な眼差しで話す少女に対し、リアムは驚いた様子で鸚鵡返しをする。
「ああ。何でも、かなり貴重なモノみたいだけど…それ以前に、アタシの親父の形見なんだよ」
「お父…さんの…」
悲しそうに目を伏せる少女に労わるような視線を送るエマイユ。
だが、そんな憂いを秘めた表情は一瞬で消え失せすぐに元の顔つきに戻った少女は、話を続ける。
「で、大事にしてたんだけどね…数か月前に、突然それがなくなっちまったんだよ」
予期せぬ展開に、一同は思わず驚愕のあまり瞠目する。
だが、少女はかまわず話を続けた。
「いくら探しても見つからなくてさ…。その時、盗まれたって気付いたんだよ。…ってか、それしかありえないってね」
確信したかのような少女の台詞に、エマイユは眉をひそめた。
「盗まれたって…どうして分かるのよ?」
エマイユの問いに、少女は小さく首を振ってからこう返した。
「前から、それを欲しがってる奴がいたんだよ。この街一番の富豪なんだけどね。そいつ、何度もうちに来たんだよ。『それを譲ってくれないか』ってさ。でも、アタシはいくら積まれても渡す気は無かった。暫く、そいつはうちに来てたんだけど…いつだったか、急に来なくなってね。もう諦めたのかな、って思ってたんだけど…」
「じゃあ…その後に無くなった、って事だね」
少女の言葉に続くように、そう話すリアム。
彼女は頷く事でリアムの言葉を肯定してみせた。
「だから…必死に調べたんだよ。富豪の事とか、ね。それで、必死に駆けずり回って、やっと突き止めたのさ。…あいつがやった、っていう証拠をね」
先程までの態度とは一変、突然鋭い視線を虚空にぶつける少女。
「あいつとは…その富豪の事ね? 一体どういう…」
「あいつと、見知らぬ男が話しているのを盗み聞きしたのさ。そしたら…『アレを盗んでくれた報酬だ』とか言って、金を渡してたんだよ! あいつが、その男にね!」
「つまり…その富豪が、人を雇って盗ませた、という事ね?」
少女の台詞を要約するように、エマイユが呟く。
一方、事情を説明しているうちに胸の奥底に燻っていた憤怒の炎が燃え上がったのだろう、少女の口から放たれる声は吹き上がる怒りを必死に押し殺しているのか僅かに震えていた。
「ま、そういう事だね。向こうがそういう汚い手使ってくるなら、こっちも容赦しないよ。どんな事をしてでも、取り返そうって思ってるのさ」
止めどなく湧き上がる怒りをぶちまけるように、少女が放った言葉の語尾は力強いもので。
その双眸には昏い感情が浮かび上がっているようにも見えた。