第2話
「えっと…此処みたいだね」
一同の目の前には、こじんまりとした何処か素朴な家が聳え立っている。
どうやら、此処が修理屋のようだ。
早速、一同は中へ入っていった。
中に入るとすぐにカウンターがあるが、そこには誰もいない。
仕方なく店内を見回してみると、中は乱雑としていて生活用品やら修理に必要な道具やらが所狭しと散乱している。
どうやら、この店を経営している人物はあまり整理整頓が得意ではないようだ。
「あれ…? 誰もいねーじゃんか」
店内を見渡しながら、そうぼやくジスク。
「おかしいなぁ…。ごめんくださーい!」
不審に思ったリアムが、声を張り上げてそう叫んだ。
しかし、待てど暮らせど一向に応答はない。
「あの~、ごめんくださーいっ!!」
少し苛立ち混じりに、先程よりもお腹の底から張り上げるように大声で呼びかけるリアム。
すると、漸くカウンターの奥の方からバタバタと足音が聞こえてきた。
「何だ、いるんじゃねーか」
と、ジスクがこぼした時であった。
「あ、待たせちまって悪いね。アンタら、お客さんだろ?」
あっはっは、と豪快に笑いながら、カウンターから一人の少女が現れた。
その様子からして、客を待たせてしまった事に関してはまるで悪びれてはいない模様。
くせっ毛でふわふわの金髪を一つに束ねており、なかなか豪快そうな雰囲気の少女である。
年はリアムより少し上くらいだろうか。ラフな格好をしており、赤い野球帽を目深に被っている。
あまりにマイペースな態度にリアムがジト目で彼女の方を見ていると、彼女もその視線に気付いたようで決まり悪そうに頭をポリポリ掻いて見せた。
「奥の部屋でずっと機械いじりに没頭しててさ、人が来てるなんて全然気付かなかったんだよ。悪気は無かったんだからそんな視線送らないでくれよ」
そんな弁解を繰り広げる間も時折誤魔化し笑いを浮かべる辺り、やはりかなりのマイペースのようだ。
リアムはやれやれ、と溜め息とつくと、
「まぁ、いいけど…。とにかく、直してほしいものがあるんだ」
彼はそう言うと、懐から懐中時計を取り出した。
少女はそれを摘み上げると、それをまじまじと眺める。
「ふむふむ。直してほしいってのは、コレの事だね? う~ん…こりゃ随分とまぁ、年期の入ったモンだねぇ…。完全に直せるかどうかは分かんないけどさ、やるだけやってみるよ」
その言葉に、リアムは嬉しそうに顔を綻ばせる。
それほどまでに、この懐中時計は彼にとって大事なものらしい。
「本当に!? 良かった~、ありがとう!」
と、声を弾ませながらリアムが礼の言葉を述べた。
尊敬の眼差しを送るリアムとは対照的に、少女はまるで取るに足らない事、とでも言いたげなあっけらかんとした態度で、
「あったりまえだろ? このアタシに、直せないモンなんか無いのさ」
と、かなり自信たっぷりに言い切ってみせる。
「へぇ~、大したモンだなぁ」
そんな2人のやり取りを遠巻きに眺めつつ、ジスクもしきりに感嘆の声を上げている。
…と、今まで懐中時計を眺めていた少女であったが、突然ジスク達を頭のてっぺんからつま先まで余すところなくじろじろと凝視し始めたのだ。
どちらかと言えば、品定めに近い視線だ。
その一方で、一同はどうしたものかと居心地悪そうに視線を彷徨わせるばかり。
しばらくそんな状態が続いていたが、やがて少女は何かを決断したらしく意を決したように真剣な眼差しを一同に投げかけた。
「ねぇアンタ達、この辺じゃ見ない顔だけど…冒険者、とか?」
思いもよらなかった問いかけに多少戸惑いつつも、とりあえず頷いて見せるエマイユ。
「ええ、そうだけれど…それが何か?」
「ふ~ん…。それじゃあさ、それなりに強いんだろ?」
何か思うところがあるのか、さらなる質問をぶつける少女。
一体、彼女は何が訊きたいのか。
訳も分からず、エマイユはとりあえず無難に答えておく。
「まぁ、一応戦えるだけの力はあるけれど…」
エマイユの言葉に、少女は何か考えを巡らせているようだ。
しばらく目を伏せたまま、真剣な顔つきで考えごとをしていた彼女だが──―…
ついに、何かを決心したように、こう話を切り出した。
「なぁ、それならさ…アタシの依頼、受けてくれる気無いかい? 勿論、報酬はちゃんと払うからさ。あ、何だったら、修理代もチャラにしていいけど?」
いきなりの依頼の話に、一同は驚きを隠せない。
鳩が豆鉄砲くらったような顔を並べるばかり。