第28話
決意新たに、目的地に向けて歩き始めようとした時であった。
一同の耳に飛来する、鼓膜が破れそうなくらいの大きな爆音。
青天の霹靂に一体何事かと驚いて辺りを見渡した。
そんな一同の視界の隅をちらつく、不穏な光景。
「何だろう…あれ…?」
リアムが恐る恐る指差した先には、黒々した煙とオレンジ色の光が浮かび上がる。
ゆらゆらと揺らめくその光は、まるで鬼火のようで何処か不気味さを醸し出していた。
その光景に一同は訝しげに眉をしかめる。
「まさかあれ…燃えてんのか?」
神妙な顔つきで、ジスクがまるで独り言のようにポツリと呟く。
オレンジ色の光の正体が炎の揺らめきだと察するのに、さほど時間は要しなかった。
一方、エマイユといえば不安と動揺で顔が真っ青になっていた。
「そんな…? どうして…?」
嘘であって欲しい。そんなエマイユの願いはまるで幻のように儚くて。
がくがくと震える身体を抱き締めるように両手で覆い、足元がガラガラと崩れていくような錯覚を覚えた。
一方、只事ではないエマイユの様子にジスクとリアムも気づいたような、心配そうな眼差しを彼女へ投げかける。
「どうしたエマイユ……っておい、顔が真っ青だぞ? どうかしたのか? 気分でもわりーのかよ?」
労わるようなジスクの言葉に、エマイユは力なく首を横に振ってみせた。
「違う、違うの…。オレンジの光が見える方向、私の村があるのよ…。もしかしたら、私の村が燃えているのかも…」
その言葉に、2人の顔つきが一変する。
「そ、そんな…! でも、まだそうと決まった訳じゃ…」
「そうだぜ! よし、そんじゃ、実際に行って確かめようぜ! ほらエマイユ、行くぞ」
明らかに動揺を隠せないエマイユを何とか元気づけようとそんな言葉をかける2人であったが、彼らもエマイユの村に危機が訪れている事は何となく察していた。
だが、そんな2人の気遣いが嬉しかったのか、エマイユは必死に自分を奮い立たせる。
早速、エマイユの村に向かう一同。
だが、そこには彼らを絶望させるような出来事が待ち受けていた──…
◆◇◆
「どーゆう事だ…? こりゃあ…一体…」
あまりの光景に、一同は呆然と立ち尽くすしか出来なかった。
それだけ、彼らの視界に飛び込んできた光景が驚愕且つ信じがたいもので。
これが夢ならどんなに良い事か──思わず現実から目を背けたくなる程に。
まさに、彼らの前に広がる光景は、悲惨としか言いようがなかったからだ。
家という家は焼き尽くされ、今も紅蓮の炎をあげている所もある。
火を消そうと奮闘する者、恐怖のあまり逃げ惑う者、あまりの出来事に、呆然とその場に立ち尽くす者…
まさに、村は混沌の渦に巻き込まれていた。
エマイユもしばらく立ち尽くしていたが、やがて、ハッとなって近くにいた村人に声をかける。
村人はエマイユを見ると、驚きのあまり目を見開いた。
「ぞっ…族長! どうしたんですか? 逃げたはずでは…?」
「ぞ、族長っ!?」
村人の言葉に、ジスクとリアムはすっ頓狂な声をあげる。
驚きのあまり金魚のように口をぱくぱくさせながらエマイユを指差している。
一方、当の本人であるエマイユは涼しい顔をするばかり。
「あら? 言ってなかったかしら? 私は、この村でエルビア族の族長をやっているのよ」
「き、聞いてないよ…」
リアムが、驚きつつもツッコミを入れる。
──エマイユって実は凄い人物なのかもしれない、色んな意味で…とリアムは心の中でそんな事を呟いていた。
さて、気を取り直して、エマイユが事情を訊く。
すると、村人は混乱する頭を必死に整理しようとするものの上手く行かないのか、ところどころ言葉に詰まりながらも説明してみせた。
「そ、それが…また、フォルス軍が来たんですよ! それで、『我々に協力しない報復処置だ』とか言って、家を焼き払ったんです! 焼き払う前に警告をしていったから、犠牲者は幸い出ていませんが…」
一同は、その言葉を聞いて愕然とした。
まさかここまでやるとは、思ってもみなかったからだ。
あくまで狙われているのはジスク達だけだと思っていたのか思い違いだったらしい。
村にまで被害が及ぶとは…と、エマイユは悔しげに歯噛みする。あまりにも強く歯噛みしたせいで、奥歯が砕けそうになるくらい。
どうやら、向こうも手段を選ばなくなったようだ。
あまりの事実にリアムは顔をしかめながらも、何かを思い出したようで声を上げた。
「そういえば…さっきボク達と戦った軍人達、『他にやることがある』って言ってたよね…。まさか、これだったなんて…!」
合点が行ったようにそう呟いた後、軍人達の手段を選ばぬ所業に胸を痛めたのか苦しげに眉をしかめながら目を伏せるリアム。
と、その時であった。
「ふっ…ざけんじゃねーよッ!!」
突然湧き上がるr、咆哮のようなジスクの叫び。
それと同時に、近くにあった木に思いきり拳を叩き付けた。
そんなジスクの行動があまりに予想外だったのか、驚愕の眼差しを彼に投げかけるのはエマイユとリアムだ。
「たかがクリスタル一つのせいで…! 何でこんな事になっちまうんだよ!? 汚い事しやがって…オレはあいつらを、絶対に許さねぇッ!!」
絞り出すように紡がれた声は、まるでジスクの業火のような憤怒を表すかのようで。
彼の咆哮のような叫びに応える者はいなかった。