第27話
「エマイユ? おい、どうかしたのか? 急に黙りこんじまってよ」
「いえ…何でもないわ…」
彼女の口から零れ落ちた声は、今にも消え入りそうな程弱々しいもので。
何でもないと言うものの、動揺しているのは火を見るより明らかだ。
その証拠に、顔が真っ青である。
ジスクも彼女の内心を察したのか、さらに食い下がる。
「それが何でもないってツラかよ。一体何が…」
「だから、何でもないって言っているでしょう!!」
突然、エマイユが声を荒げてそう吐き捨てた。
普段、滅多に感情を露わにしないエマイユにしては、珍しい事である。
むしろ、こんなこと初めてではないだろうか。
当然、ジスクもあまりの出来事に、鳩が豆鉄砲くらったような顔をぶら下げるばかり。
そこまで、気に触るような台詞ではないはずだ。
むしろ、エマイユの苛立ちは、『これ以上立ち入らないでくれ』という気持ちが隠されているようにも思えて。
ジスクもそれを察したのか、無理矢理口元に作り笑いを浮かべる。
「…そっか。そんならいーんだ。どうやら、オレの思い過ごしみてーだな」
彼の言葉に、エマイユは申し訳なさそうに目を伏せてしまった。
一方、リアムは、そんな2人の様子を心配そうに見守っている。
特にエマイユの事が気にかかるのか、先程からしきりに彼女へと視線を注いでいるようだ。
数秒、沈黙が続いていたがそんな沈黙を破ったのはジスクだ。
「その石板に書かれてる事は、それで終わりか?」
「え、ええ…」
ジスクの問いに、エマイユは目を伏せたまま答える。
すると、ジスクはさらに続ける。
「よし、そんじゃ、石板の内容をまとめてみようぜ。それから、これからどーするかも決めねーとな」
ジスクの言葉に反応するかのように、リアムがこう切り出した。
「んーと、エターナルの封印方法が書かれてるんだよね。まずは、封印するためには『魔力』が必要で、それを得るためには『ニネア地方』にある遺跡に行け、と」
「んでもって、そこの遺跡に封印されてる魔力ってのを手にいれて、またここに戻ってこい、ってんだろ? この奥に、『魔方陣』ってのがあるみてーだけど」
2人が、このように要約してくれた。
エマイユも、2人の説明に同意するようにコクリと頷いて見せた。
「ええ。そういう事ね。フォルス軍にエターナルを渡さないためには、やはり封印するのが一番でしょうし。私はこれから…封印するために、ニネア地方に向かうわ。貴方達もそれでいいかしら?」
「ったりめーだろ? こんな得体の知れないモン、とっとと封印しちまった方が身のためだしな」
自分の左胸を押さえながら即答するのはジスクだ。エマイユに協力したいという気持ちは勿論あるが、自らに降り注ぐ災難を振り払いたいという気持ちもあるのだろう。
リアムもジスクに続くようにこくこくと頷いて見せた。
「ボクも賛成! いつまでも、こんな状態を続けている訳にもいかないしね。…ところで……」
すると、リアムは何かを思い出しておずおずと切り出しにくそうに2人の顔色を伺いながらも意を決して口を開いた。
「肝心の、『ニネア地方』ってどこにあるの?」
「………あ。」
それを聞いた他の2人は、明らかに言われて初めて思い出したかのような顔をした。
そんな重要な事、忘れられる方が凄いような気もするが。
「困ったわね…。まずは、ニネア地方がどこにあるか調べなくてはならないわね」
「でも…調べるって言っても、どうやって?」
確かに、リアムの問いは尤もである。
エマイユは口元に手を当てて暫く考え込んでいたが、後に何かを思い付いたようで、
「そうね…それなら、古代図書館に行ってみましょう。そこになら、手掛かりがあるはずよ」
「古代図書館…? 何だそりゃ?」
首を傾げつつ、鸚鵡返しをするジスク。
エマイユは一つうなづくと、
「ええ。ここから、少し遠いのだけれど…リネスタウン、という所があるの。そこにある古代図書館には、ありとあらゆる本が揃っていると聞くわ。多分、そこになら手掛かりとなる本が置いてあるはずよ」
エマイユの説明に、ジスクとリアムも成程、と納得しているようだった。
「なるほどなぁ。確かに、行く価値はありそうだな」
「そうだね。もしかしたら、マナの大戦やエターナルについて書かれてる本があるかもしれないしね」
2人の言葉に頷きつつ、エマイユはこうまとめた。
「それなら決まりね。リネスタウンに行きましょう」
一連の会話を纏めるようにそう締めくくるエマイユの双眸には、力強い光が宿っていた。