第25話
ルナハもエマイユとの交戦により決して浅くない傷を負い、これ以上の戦闘の続行は不可能であった。
「クルーディア少尉! これ以上は無理ッス! 早く撤退した方かいいッスよ! まだ、自分達にはやることがあるのだし…」
ウェイルは悔しそうに舌うちをする。
「チッ…! 結局このザマかよ…! レイナード大尉の言ってた、『クリスタルの力』ってのも見たかったんだがなァ…」
彼は悔しそうにそう吐き捨てると、懐から何かを取り出した。
まさか切り札でも持っているのではとジスクは思わず身構えてしまう。
それがウェイルの放った罠だとも知らずに。
ウェイルはそんなジスクの行動を目にするなりニヤリと口角を吊り上げれば、間髪入れずにその何かを地面に思いっきり叩き付けたのだ。
「うわっ!? な、何だ!?」
その刹那、地面からまばゆいばかりの閃光が放たれた。
予想だにしない展開にその閃光をしっかりと網膜に焼き付けてしまったジスクはそのせいで一瞬視界が失われてしまう。
どうやら、ウェイルが投げたものは閃光弾だったらしい。
あまりの眩しさに目が眩む。
まともに目を開ける事すら出来ない状態だ。
暫く真っ白の視界に翻弄されその場に立ち尽くしていた一同ではあるが、時間と共に少しずつ目も慣れてきたようだ。
慌てて辺りを見渡してみたものの、予想通りと言うべきか軍人達の姿は無かった。
どうやら、完全に逃げられてしまったようである。
エマイユはふぅ、と息をつくと心底疲弊した様子でこう呟いた
「どうやら…逃げられてしまったようね。」
あっさりした態度のエマイユに対し、リアムは不満そうに頬を膨らませると、
「全くもうっ、何だったのさあの人達。いきなり攻撃してきたと思ったら、さっさと逃げちゃうし…」
「まぁ、いーじゃねーか。誰も死ななかったし、こうしてクリスタルも無事だった訳だし」
命を狙われているとは思えないほど呑気な口調のジスク。
そんなジスクに呆れつつも、リアムは何かに気付いたようで首を傾げた。
「そういえば兄さん、クリスタルの力使わなかったんだね。どうして?」
「ああ…あれか。あの力は、極力使わない事にしようと思ってさ。得体の知れねーモンに頼りたくねーからな」
ジスクはふと、視線を足下に落としながらこう返した。
クリスタルに対して多少なりとも不信感を抱いているのか、それとも正体不明の強大な力に恐れを抱いているのか…そこまで汲み取る事は出来なかったが。
何にせよ、彼なりに何か思うところがあるのだろう。
「さ、それじゃ行きましょう。時間が惜しいわ」
そこで一旦話を区切ると、エマイユは本来の目的を切り出した。
確かに、現在の一同の目的は軍人達と戦う事ではなく遺跡に向かう事なのだ。
エマイユの言葉にジスクとリアムも同意し、早速遺跡に向けて歩き出した。
◆◇◆
「うわぁ…これが遺跡かぁ。確かに年期がありそうだね」
リアムが驚きのあまり口を半開きにしたまま感心した様子で眼前に聳え立つ建物を見上げている。
一同の眼前に立ちはだかるは、洞窟を利用して作られた古びた朽ちかけた小さな遺跡。
リアムの言う通り、かなり年期が入っているというべきか古風というべきか。
暫くの間ろくに整備もされていなかったのだろう、所々崩れかけていている。
おどろおどろしい雰囲気さえ漂う中、エマイユは入口であるドアを入念に触れる。
ドアはしっかりと閉じられていて、人の力では到底開きそうもない。
「これ…どうすんだよ? 鍵でもねー限り、開かないじゃねーの?」
ジスクがドアに手を触れながら、そう呟いた時であった。
突然、ジスクの左胸──クリスタルが輝きだし、ドアと共鳴を始めたのだ。
「なっ…何だよ一体!?」
ジスクにとっては青天の霹靂であったのだろう、訳が分からない、と言った様子でおろおろと狼狽するばかり。
他の2人も目の前で繰り広げられる光景に戸惑いと驚きを覚えつつも、固唾を飲んで成り行きを見守っている。
すると、重々しい音と共にドアが少しずつ開いてゆく。
人が通れる程扉が開いた所で、クリスタルから放たれていた光も遂にはその輝きを失い元の姿へ戻ったのだ。
「多分…クリスタルが鍵だったみたいだね」
目の前の光景に未だに唖然としつつも、リアムは一人納得したように独りごちる。
その一方で、エマイユの方といえば驚く所か眉一つ動かさずにさっさと中に入り込んでしまっていた。
「え、ちょっとエマイユさん? 1人で行ったら危ないよ!」
「しょーがねーな、オレ達も一緒に行こうぜ」
「うん、そうだね」
2人も、急いで彼女の後を追う。
「…うわ~、中も凄いね…」
リアムが辺りをキョロキョロと見渡しながらそうつぶやく。
確かに、中は漆黒の闇に包まれておりライトで足下を照らさなければうまく歩けない程だ。
整備もされておらず、長年管理もされていなければ中に入った人物もいないのであろう。
そんな暗闇の中、ひたすら前方に続く廊下を歩いていると、眼前に朽ちかけた石板があるのが見えた。
「きっとこれね…!」
エマイユの表情には僅かに歓喜の色が浮かび、石板の方に駆け寄った。