第23話
ルナハはバズーカの標準を合わせ、不敵な笑みを浮かべた。
「発射ッ!!」
──ドォンっっ!!!
ルナハの掛け声と共に、勢いよくバズーカが発射される。
凄まじい爆音に包まれながら、弾はリアムとエマイユめがけて真っ直ぐ向かっていった。
いきなりの襲撃に戸惑いつつも、2人は咄嗟に横に跳んで紙一重でそれを躱す。
発射された弾丸は先程まで2人がいた場所に命中し、凄まじい爆発を巻き起こした。
「うわぁ…あんなのが当たったら、吹き飛ばされちゃいそうだよ」
爆発の影響で深々と抉られた地面を見やりながら、リアムがポツリと呟く。
2人の背中に、何か冷たいものが通り過ぎるのを感じた。
一方、ルナハは得意げな顔つきで腰に手を当て、一同を勝ち誇った眼差しで見下ろした。
「どうッスかこの威力! 怪我したくなければ、おとなしく降伏する事ッス!」
すでに勝利は我に有り、とでも言わんばかりのルナハの言いぶりは自分の強さに酔いしれているようにも見えて。
しかし、こんな所で引き下がる2人ではない。
先程の爆撃にも全く動じる素振りは無く、相変わらず冷淡な眼差しをルナハに投げかけるのはエマイユだ。
「それはこちらの台詞だわ」
エマイユがそう言い切った瞬間、彼女の手にしているスタッフから火球が放たれた。
突如生み出された火の球に、軍人達は驚きを隠せない。
だがそれも無理は無いであろう、本来使える筈の無い、失われし力をこうして目の当たりにしたのだから。
何とか躱そうとするものの、半数近くの軍人達は地面に激突した火球の爆発の巻き添えとなった。
凄まじい爆風に、吹き飛ばされそうになる者もいる。
一方、ルナハは多少の火傷を負ったものの、直撃は避けられたようである。
「あれが魔術ッスか…。初めて見たけど、凄いッスね~」
あちこちに負った火傷などまるで気にする様子も無く、相手に不足は無し、と言わんばかりの闘志を宿した双眸がエマイユを捉える。
そして、間髪入れずに肩に担いだバズーカを発射させる。
「うわわわっ」
再び襲い掛かる脅威に、思わず間抜けな声を上げてしまうリアム。
それでも脳で考えるより身体が先に動いたと言った方が正しいか、咄嗟に横に跳び、爆炎の直撃を受ける事は無かった。
だが、落ち着いている暇は無い。
ルナハに気を取られていたせいで、他の軍人達の方に目を向ける余裕が無かった。
時として、一瞬の油断や隙が命取りになる時もある。
一瞬、周りへの警戒を怠ったリアムの眼前に剣を構えた軍人の1人が襲い掛かった。
「うぐっ…」
リアムがそれに気付いた時には、時すでに遅し。
何とか身を捩った為急所は外れたが、それでも左肩に剣撃を受けた。
リアムの視界の隅に舞い散る赤い花。
傷の痛みに耐えながらも、バックステップを踏んでこれ以上の追撃からは逃れる事が出来た。
リアムは傷口を押さえながら、
「…くっ…。あのバズーカのせいで、戦いにくい…。よし、それだったら…!」
それなら、まずはルナハを狙えばいい、そう考えたのだろう。
リアムはターゲットをルナハに変え、武器である糸を繰り出した。
しかし、相手がそう動くであろう事は軍人達も想定済みだったのだろう、ルナハの前には軍人達が立ちはだかり、彼の攻撃を受け止めてしまった。
軍人達は、攻撃の要であるルナハを守りながら戦っているようだ。
リアムが悔しそうに唇をかみしめていると、エマイユが彼の傍へと歩み寄ってきた。
「リアム! 左肩…大丈夫?」
心配そうにするエマイユを尻目に、リアムは無理矢理笑顔を作ってみせた。
「うん。大した事は無いよ。それよりも…あの娘の持っているバズーカを何とかしなくちゃ…。でも、軍人達が前にいるせいで、攻撃出来ないんだ」
「そうね…。やはりこちらも、協力して戦った方が良さそうね」
エマイユの言葉にリアムは何か思い付いたようで、急にハッと顔を上げるとエマイユにさりげなくアイコンタクトを送る。
「…! それじゃあ、こんなのはどう?」
するとリアムは、彼女に何か耳打ちした。
その言葉に、エマイユは眉をひそめる。
「それで…大丈夫なの? かなり危険よ?」
「大丈夫! 任せといてよ!」
リアムはにこっと笑ってそう返すと、共同作戦に向けて動き出すべく武器であるグローブを嵌めると眼前を見据えた。
彼が腕を小刻みに動かすと、まるでそれに呼応するかのように無数の糸が軍人達に襲い掛かる。
その動きは、まるで獲物を見つけた大蛇のようで。
だが、果敢に突っ込んでいくのはリアムだけで、エマイユの姿が見えない。
ルナハも、それに気付いたようで不可解そうに小首を傾げて見せる。
「…あれ? もう一人いたはずッスが…?」
「あら? どこを見ているのかしら?」
突然、ルナハの背後から降り注ぐ鈴の鳴るような可憐且つ力強さを感じさせる声。
驚いて、反射的に背後へと振り返るルナハ。
彼女の視界には、不敵な笑みを浮かべたエマイユがまるで死神のように佇んでいた。
これが二人の作戦だったのであろう。
ルナハの前に立ちはだかる軍人達さえ何とかすれば良い。
そのために、あえてリアムは突っ込んでいったのである。
──軍人達の注意をひくために。