第1話
──閑散とした街道。
あまり舗装されていない道を歩く者は少なく、何処か物寂しささえ感じられて。
そんな中、不意に三つの影が街道を通り抜ける。
「何だよ、2人共。そんな暗い顔すんなって~」
相変わらず明るいノリのジスクに対し、リアムとエマイユは何処となく浮かない表情。
「暗いって…当たり前でしょ。はぁ、何でこんな事に…」
リアムはそうぼやくと、肺の奥に溜まった息を盛大に吐き出す。
一方、エマイユは何か考えごとをしているらしく、黙り込んでずっと一点を見据えている。
「ったく、つまんねーの。もっと気楽にだな…」
「…兄さん?」
突然、台詞の途中で話すのをやめてしまったジスクを不思議に思い、リアムは彼の顔をを覗き込んだ。
すると、彼はさっきとはうって変わって険しい表情を浮かべその双眸には鋭い光が宿る。
まるで神経を研ぎ澄まし、何かを感じ取っているようにも見えて。
…と、その時だった。
「危ないっ!!」
突然、ジスクはそう叫ぶと、咄嗟にエマイユを突き飛ばした。
「…っ!?」
一方のエマイユは、何が何だか分からない、といった雰囲気で目を白黒させるばかり。
まさか、突き飛ばされるとは思っていなかったようで、バランスを崩して派手に尻餅をついてしまった。
彼女が尻餅をついたのとほぼ同時に、鼓膜が破れそうになるくらいけたたましい音と共に先程エマイユがいた場所に銃弾がめり込んだ。
流石に、これにはエマイユも驚きを隠せない。
「一体、どういう…」
「おい、てめーら! もう分かってんだよ! こそこそしてねーで、とっとと出てきやがれ!」
エマイユの言葉を遮るようにして、ジスクが険しい顔つきのまま怒号を上げる。…街道から外れた、木の茂みの方に。
すると、観念したのか、茂みの方から何人もの軍人達が姿を現したのである。
「なるほど…待ち伏せ、って訳ね。まぁ、あっさり逃げられるとは思ってなかったけれど…」
エマイユは立ち上がると、視線で射殺せそうなくらい鋭い眼光を湛えつつ冷静な口調でそう言い捨てる。
…そう、この軍人達は、彼女を追って此処まで来たようだ。
「こちらとしても、早急にあれを渡してもらわないと困るのでね。もう手段は選べない、という事だ」
軍人の一人の言葉に、エマイユは眉をしかめた。
恐らく向こうもかなり切羽詰っているようで、軍人達の表情からは焦りの感情が色濃く浮かび上がっていた。
こんな緊迫な空気が流れる中、ジスクとリアムの2人だけは全く訳が分からない、といった顔をぶら下げるばかり。
すると、軍人達は彼らの存在に気付いたようで、訝しげな視線を2人に向けた。
「何だ、お前らは?この女の仲間か?」
「お、オレ達は…」
軍人の問い掛けに、ジスクが答えようとした、その時だった。
「違うわ! その子達は関係無い! 貴方達も、巻き込まれる前に早く逃げなさい!」
カッと目を見開き、焦りを孕んだ声色でエマイユが突如叫び声をあげる。普段の冷静で淡々とした雰囲気とは似ても似つかないくらいに。
あまりの勢いに、その場にいた人達は一瞬躊躇してしまった。
しかし──
「フン、関係無い、だと? 信用出来るとでも思うのか? 大方、そいつらにあれを持たせて逃がすつもりなんだろう?」
やはりというべきか、エマイユの言葉は信用されるはずもなかった。
それどころか、ジスク達は共犯だと一方的に決めつけているようだ。
何が何だか分からないうちに一方的に話が進んでいて、2人は…というよりリアムは、困惑の色を隠せないようだ。
「ど…どーなっちゃうの?ボク達…」
「どうやら、逃がしちゃくれないみてーだな。完全に共犯者扱いだし。事情を話したって聞く耳持たず、ってカンジだしな」
不安げなリアムに対し、ジスクはあっけらかんとした態度を崩さない。