第14話
今まで、黙ってずっとやり取りを見ていたジスクであったが、しびれを切らしたかのように主人に詰め寄った。
「…とりあえず、協力者がいるってのは分かったけどよ。その、肝心の協力者ってのは誰なんだよ?」
それこそが、本件の要であり一同が最も知りたかった事。
すると、主人は視線を2人から外し、ふと遠い目をした。
その態度がジスクの癇に障ったらしくまるで瞬間湯沸かしのように食って掛かろうとしたが、それより先に主人の言葉に遮られてしまった。
「あそこの窓から…見えますか?」
いきなりの質問に、2人は面食らってしまったようで一瞬言葉を失ってしまう。
どうリアクションすべきか悩んでいると、主人がまるで独り言のようにポツポツと呟き始めた。
「ほら、そこに見える屋敷…」
彼はそう言うと、窓の向こうを指差してみせた。
「屋敷…?」
2人は、言われるがままに指差す先へと視線を投げかける。
彼の言葉の通り、指差したその先にはまるで自らの権力と富を誇示するかのような豪華で巨大な屋敷が聳え立っていて。
おそらくは、この街一番の屋敷であろう。
しかし、どうにも趣味のよい建物とは言えずどちらかといえばあまりよい印象は受けない屋敷だ。
エマイユは、ふむふむ…と頷くと、
「あの…いかにも私儲かってます、と言わんばかりの、悪趣味で下劣で品の無い屋敷ね?」
「……。」
悪気があるのか無いのか、ただ目の当たりにした感想を口にしただけなのか、あえて辛辣な言葉を口にして嫌味にしているのか。それはエマイユにしか知り得ぬ事だが何にせよマシンガンのような凄まじい単語の羅列だ。
おいおい、いくら何でも言い過ぎだろ…、とジスクはツッコミを入れようとしたが、あえて言わない事にした。
ジスクは心の中で、
(う~ん…エマイユだけは、敵に回さない方がいいかも…)
とか何とか言っていた。
一方、主人はエマイユの発言には気にせずに話を続ける。
「あの屋敷の富豪…リーゼス氏が、私に話を持ち掛けてきたんですよ…」
「……!」
ついに、主人が協力者の名前を暴露したのである。
もちろん、2人がその名前を聞き逃すはずがなく。
ジスクは、興奮のあまり声を荒げながら、
「リーゼス…そいつがリアムをさらった首謀者なんだな!?」
その言葉に対し、主人は俯いてしまい答えようとしない。
しかし、その沈黙が肯定を意味するであろう事は、ジスクにも理解出来た。
漸く首謀者を突き止めた所で、ジスクはさらにこう畳み掛けた。
「じゃあ、リアムは今どこにいんだよ!?」
エマイユも、彼の問いに続く。
「まさか…もう引き渡しをしてしまった、なんて事は無いでしょうね?」
冷静な口調な中にも、静かな怒りが込められている。
しかし、またしても主人は口を固く閉ざし黙秘を続けるばかり。
その態度が癇に触ったのか、ジスクは主人の胸倉を掴みながら、こう叫んだ。
「おい! 黙ってんじゃねーよ!! リアムはどこにいるかって訊いてんだよ!! もし、リアムに何かあったら、タダじゃおかねーからなッ!!」
胸倉をぐらぐら揺さぶりながらそう叫ぶ姿は、脅しに近い。
しかし、今のジスクにそんな事を気遣っている余裕などある筈も無く。
すると、観念したのか主人の口からはこんな言葉が零れ落ちた。
「おそらくは…屋敷のどこかに監禁されているでしょう。ですが…無事かどうかは分かりかねます。今日の午後に、引き渡しに行くと言っていましたから…」
歯切れの悪い、何とも微妙な発言である。
だが、リアムがリーゼスの元にいるのは間違いあるまい。
エマイユは口元に手を当ててあれこれ思案を巡らせつつ、神妙な顔つきでこう呟いた。
「運が良ければ、まだ屋敷にいるかもしれないけれど…屋敷に侵入して、彼を探し出すにはかなりの時間がかかるでしょうし。もし、その間にリーゼス氏が行ってしまったら…。それに、入れ違いになる可能性もあるわ」
「確かに…そーだよな。確実にリアムを助け出さなきゃいけねー訳だし」
2人揃って出口のない迷路に迷い込んだように答えに行き詰っていると、意外な所から助け船が出された。
「この街には、出入り口が一つしかありません。ですから、そこで張り込んでいれば、もしかしたら…」
この、意外な発言に、2人は驚きのあまり瞠目するばかり。
それも無理は無い。まさか、犯人である主人からこのような助け船が出されるとは思っても見なかったからだ。
エマイユは驚きながらも最後の最後に自分達を騙そうとしているのでは、と疑念を抱いたようだ。、
「貴方…騙してる訳じゃないでしょうね? 貴方のその発言は、協力者を裏切る、ということになるのよ?」