第7話
ジスクは苛立ち紛れに荒っぽく頭を掻き毟ってみせる。
「あーもう一体何だってんだよ!?」
ジスクの怒りの叫びに返答がある筈も無く。
ただただ虚しく辺りにこだまするだけであった。
◆◇◆
──…あれ…もう、朝…なのかな…?
…それにしても……
「う~ん…」
寝ぼけ眼をこすりながら、もぞもぞとベッドから起き上がる一つの人影。
大きな欠伸を一つ零せば、眠そうな視線で辺りを見回した。
「皆、おはよう…あれ?」
明らかに、夕べとは雰囲気が違う事に今更ながら気がついた様子。
──何故、自分以外に誰もいないのだろう…
リアムは、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「…おかしいなぁ。兄さーん! エマイユさーん!」
どんなに呼び掛けてみても、応答がある筈も無く。
今自分が置かれている境遇がさっぱり分からず首を捻りつつも、リアムは仕方なくと言った様子でベッドから立ち上がり、きょろきょろと視線を彷徨わせる。
やはり、そこにはリアムの姿しかおらず。
それどころか、部屋そのものが夕べとは異なっているような気がする。
──昨日泊まった宿屋は、もう少し殺風景…というか、質素な気がしたのだが…。
ふと、そんな違和感がリアムの脳裏を過る。
確かにリアムがいるこの部屋は、小綺麗で並べられている家具の類もそれなりの値打ちがしそうなものばかり。
リアムは訳が分からず、ただ首を傾げるしかなかった。
「あれぇ…? どうしてだろ…? 何でボク、こんな所にいるんだろ…」
まるで狐に摘まれたような気分である。
自分が置かれいる状況が全く分からず、リアムはきょとんとするばかり。
「部屋間違えた訳じゃないだろうし…あ、そうだ」
リアムは何か思い付いたようで、すたすたとドアの方に歩み寄った。
そして、おもむろにドアノブに手を掛ける。
「とりあえず、外に出てみないとね。そうすれば、兄さん達も見つかるかもしれないし」
呑気にそんな事を呟くリアムの元に、驚愕の事実が襲い掛かる。
「あ…あれ?」
思わず間抜けな声を上げるリアム。
だが、それも無理はないだろう。
いくらドアノブを回そうとも、ドアが開く気配は全く無かったからだ。
押そうが引こうが、ドアはうんともすんとも言わない。
しばらく、リアムはドアノブをガチャガチャと格闘していた。
だが次第に諦めの感情がリアムを埋め尽くしたのか、ゆっくりと手を下ろすとその場に俯いてしまった。
「もしかして…鍵がかかってる…? でも、どうして…?」
認めたくなかった…恐れていた事実を、ポツリと呟くリアム。
まるでそれは、誰かに問い掛けているようにも見えて。
「兄さんも、エマイユさんもいないし…。どうしてボク一人だけ、こんな所に閉じ込められてるんだろう…?」
まるで、出口のない迷路に迷い込んだように、思考が交錯する。
暫く考え込んでいた後、彼は一つの答えを導いた。
しかしそれは、考えられる最悪の事態──―…
リアムはその考えを振り払おうと、必死に頭をぶんぶん振ってみせる。
「まさか、そんなはず無いよ。大体、どうしてボクが…」
まるで自分に言い聞かせるように、そう独りごちるリアム。
──…そう。そんなはずがない。
まさか、自分が誘拐されるなんて──―…
しかし、言い様のない不安感は拭い切れない。
次第にリアムの心を不安と焦りが塗り潰してゆく。
リアムはか細い声で、ポツリとこう漏らした。
「どうしよう…兄さぁん…」
リアムの掠れた声は、部屋に空しく響くばかりであった。