第6話
「あら、奇遇ね。私もよ…。それにしても、どうしてこんなに眠いのかしら…」
あまりの眠気に、最後の方はろれつが回っていない。
「オレも疲れてんのかなぁ…。こりゃ、リアムの事バカにしてらんねーなぁ」
欠伸混じりに、ジスクは目を擦りながらそうぼやく。
その後、軽く身体を動かしたり顔を抓ったりと何とか眠気を紛らわそうとするも、全く効果無し。
ジスクは、頭をポリポリ掻きつつこう呟いた。
「何つーか…ふぁ~あ、無駄な抵抗っぽいなぁ…。どうせ他にすることもねーし、おとなしく寝とくか」
無駄に眠気に抗った所で百害あって一利なし、と判断したのだろう、ジスクは既に寝る気満々の様子。
エマイユもその意見には賛同しているようで、眠気に支配されつつある頭をゆるゆると縦に振って同意を示してみせる。
「そうね…それじゃあ、また明日」
2人は互いに挨拶を交わすと、そのままベッドに沈み込み泥のように眠り込んでしまった。
暫くして、夜がすっかり更けた後──招かれざる来訪者が現れた事にも全く気付かぬ程に。
◆◇◆
窓の外から微かに聞こえる小鳥のさえずりが、朝の来訪を告げる。
部屋は窓から差し込む柔らかな朝日のお陰でほんのりと明るい。
「おはよ~っす!! 皆、起きてっか~!?」
元々寝起きは良い方なのか、天性の能天気さによるものなのか、早朝だというのに晴れやかな笑顔に弾んだ声。
一方、エマイユといえば漸く目が覚めたらしく、眠そうにしきりに目を擦りつつずるりと崩れ落ちるようにベッドから降りた。
「あ…おはよ……」
寝ぼけ眼のまま、掠れた声でそう返すエマイユ。
何か嫌な事があった訳でも無かろうに、何故だかかなり不機嫌そうだ。それに何より目付きが物凄く鋭い。
どうやら、エマイユは朝は弱いらしい。
眠たそうに欠伸をするエマイユに対し、ジスクは元気良く背伸びをしている。
ふと、ジスクは何かを思い出したようで、
「あれ? そういやぁ…リアムはまだ起きてねーのか?」
「さぁ…見ていないけれど」
そっけないエマイユの返答に、ジスクは首を傾げる。
「何だ…あいつ、まだ寝てんのか。にしても…めずらしいな。あいつ、いつも朝は早いのに」
釈然としないまま、とりあえずリアムを起こしに行く事に決めたらしいジスク。
リアムのベッドの前に立ち止まると、
「おい、リアム! いつまで寝てんだよ」
ジスクはそう叫ぶなり、何の前触れもなくいきなり布団をひっぺがした。
何とも荒々しい起こし方である。
しかし、目の前に横たわる光景は彼の予想を遥かに凌駕していた。
「……あれ?」
ジスクは、視界に広がる光景に思わず間抜けな声をあげた。
だが、それも無理はない。
何故なら、ベッドは既にもぬけの殻。リアムの姿はまるで煙のように掻き消えてしまっているのだ。
何が何だか分からず、ジスクは狐に摘まれたような顔をぶら下げるばかり。
すると、異変を感じたらしいエマイユが後ろからひょっこり現れた。
「あら…いないの? 顔でも洗いにいったのかしら」
まだ完全には目が覚めていないらしく、呑気な口調のエマイユである。
一方、ジスクは首を傾げつつも、
「何やってんだ…? あいつ。まぁいいか。とりあえず、その辺うろついて探してみっか」
リアムの姿が忽然と消えてしまった事にさほど重要性を感じていないのか、ジスクは頭をポリポリ掻きつつどうにも緊張感が見られない。
どうせその辺を散歩でもしているのだろう、その程度にしか考えていなかった。
しかし、物事はそう上手くはいかないもので。
事態は、彼らが思っているほど簡単なもでは無かったのであった。
「あれ? おっかしーな…」
ジスクは、わしわし頭を掻きながら困り果てたような口調でそうぼやいた。
だが、それも無理はない。
宿屋じゅうを探してみても、リアムの姿は何処にも見当たらないのだ。
エマイユも、戸惑ったように眉尻を下げながら不安げな声を漏らした。。
「やっぱり…此方にもいなかったわ。本当に、どこに行ったのかしら…?」
イライラする気持ちをぶつけるように、足下にある小石を蹴飛ばすジスク。
「どーしたんだ? リアムの奴…。いつもなら、何も言わずにどっか行っちまう事なんか無かったのによ」
明らかにいつもと違う行動を取るリアムに、ジスクは不審感さえ覚える。
しかし、幾ら2人があれこれ思案を巡らせた所で、いなくなったリアムが戻ってくる訳でもなかった。