第2話
空いている宿は無いものかと、一同は宿屋を探して街中を彷徨い歩く。
そんな中、何やら違和感を覚えたらしいリアムが、訝しげに眉をひそめてみせた。
その表情に気がついたジスクは、思わずリアムに声をかける。
「ん? 何だぁ? そんな変な顔して。何かあったのか?」
その言葉に、リアムは一瞬答えるべきか悩んだが、
「う~ん、あのね、ボクの気のせいかもしれないけど…何か、この街活気がない、というか…人気が少ないような気がして。でも、日が暮れてるなら人がいなくてもおかしくないか…」
と、自信なさげにおずおずと答える。
確かに、リアムの言う事にも一理ある。
いくら日が暮れているとは言え、人通りが少なすぎるのだ。
住んでいる人そのものが少ないならまだしも、この大きさの街にしては、どうも不自然であった。
あまりに閑散としているのに、不審感を抱いたリアムは首を傾げるばかり。
しかし、ジスクは全く気にしていない素振りで、
「そーかぁ? オレはあんま気にならないけどな。気にし過ぎなんじゃねーの?」
と豪快に笑い飛ばしながらそう返した。
些細な事は全く気にしない、ジスクらしいと言えばらしいであろうか。
「やっぱりそう…かなぁ」
リアムも、不審感は拭えないものの、確信は無いのでこれ以上気にしないことにしたようだ。
そんな会話をしていると、エマイユが何かを見つけたらしくそちらの方を指差した。
「あら? あそこに…誰かいるみたいだけど?」
そんなエマイユの声に導かれるように、ジスク達も彼女の指差す先に視線を移す。
彼らの視線の隅をちらつくのは、一つの人影…のようなもの。
先程から微動だにせずその場に地蔵のように固まったまま蹲るばかり。
流石に尋常ではない雰囲気を嗅ぎ取ったのか、誰が提案するでもなく自然と3人はそちらの方に歩を進めていた。
少しずつ距離が縮まれば、その人影から発する音を聞き取るのも容易な事。
…正式に言えば、その音はすすり泣きのようなものであるが。
その人影は、意外なことに小さな女の子であった。
3人は、多少拍子抜けしつつも彼女の傍へと歩み寄る。
その女の子は、せいぜい7~8歳程で、活発そうな印象を受ける。
しかし、先程からべそをかいているせいで、顔は涙と鼻水でぐしゃぐしゃである。
女の子は、3人の気配に気付くと警戒心を露わにして鋭い視線を投げかけつつすぐさま背後へと後ずさる。
そんな女の子の様子を目の当たりにしたエマイユは何とか警戒心を解いてもらおうと、努めて物腰柔らかに振る舞った。
「あら、貴方…どうしたのかしら? こんな所で蹲って、何かあったの?」
エマイユは女の子と目線を合わせようと、彼女の近くにしゃがみ込んだ。
そして、改めて女の子へと向き直れば、何か気づいたらしく一瞬驚いたように目を見開いてからどうしたものかと口元に手を当ててみせた。
「あら、怪我をしているじゃない。大丈夫? 今、手当てをしてあげるわ」
エマイユの言う通り、女の子の膝には擦り傷と思しき痛々しい痕が残されていて。
血は止まっているが痛い事には変わりない。
どうやら、女の子が泣いていた原因はこの傷にあるようだ。
エマイユが救急セットを取り出そうと、荷物を漁っている時であった。
先程から彼女の後ろで話を聞いていたリアムが、突如女の子の方へと歩み寄る。
そして、エマイユの方に向き直ると、
「エマイユさん。ここはボクに任せておいて」
「…? え、ええ…」
リアムの口調はやんわりとしているものの、何処か有無を言わさぬ力強さを秘めていて。
その声に引き込まれるように、半ば上の空で了承するエマイユ。
エマイユからの返答を聞いて満足そうにしたリアムが次いで視線をずらした先に映り込んだのは、女の子の姿。
「心配しなくても、大丈夫だよ。今すぐボクが治すから」
にっこり微笑みながらそう声を掛けるリアム。
一方、女の子の方は訳が分からず、頭上に“?”マークを乱舞させるばかり。
リアムは一呼吸置き、傷の部分に手を翳した。
予想外の行動に女の子は吃驚してリアムを睨みつけるが、リアムはそんな事お構いなしに続ける。
すると、彼の手のひらから現れた柔らかい光が、傷口を包み込んだ。
それから数秒と立たないうちに、傷はすっかり癒えたのである。