第14話
「よし、そんじゃ決定だな! エマイユもこれでいいだろ?」
エマイユも特に異論はないようで、すんなりと頷く事で同意を示してみせた。
「私もそれで構わないわ。元々、ほとぼりが冷めたら遺跡に行くつもりだったし」
その言葉を聞くと、ジスクは満足そうにニカッと歯を見せて笑い飛ばす。
そして、まるで猫のようにぐっと大きく背伸びを一つ。
エマイユはそんな様子をながめながら、ふと、視線を足下にずらした。
俯き加減のままゆっくりと口を開くエマイユの表情は、陰りと申し訳なさに支配されていた。
「本当に…ごめんなさいね…。私が巻き込んでしまったせいで、私に出会ってしまったせいで、こんな事になってしまって…。まさか、こんな事になってしまうなんて、思いも寄らなかったから…」
申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べるエマイユ。
しかし、ジスクの反応はエマイユが考えていたものとは正反対であった。
ジスクは首を横に振ると、あっけらかんとこう言い放つ。
「別に、謝る事じゃねーだろ。オレは別に気にしてねーし。それに、成せばなる! っていうだろ?」
「それ、微妙に意味違うし使い方間違ってるよ…」
呆れつつもすかさずツッコミを入れるリアム。
どうやら、ジスクは「何とかなる」と言いたかったようである。
「…ありがとう。そう言ってくれると助かるわ」
エマイユは、そう返すと柔らかく笑んだ。その微笑みは、まるで可憐な一輪の花がパッと咲き誇るようで。
元々美人な彼女であるが、その時の穏やかな笑顔は、彼女の魅力を最大に引き出した。
男性ならずとも見とれてしまうような笑顔だ。
「…兄さん?」
「……ん? ああ、何だよ?」
「何だよも何も…兄さん心此処にあらずって感じでボーっとしてたから。大丈夫?」
「だ、大丈夫に決まってんだろーが」
ジスクも、しばらく彼女の笑みに魅せられていたらしい。
リアムに名を呼ばれて漸く我に返ったらしくハッと顔を上げてみせる。
心配そうなリアムの眼差しに気づいたのか、ジスクは若干狼狽えつつも平気である事をアピールしてみせた。
「そんじゃ、日が暮れる前に出発しようぜ」
ジスクはそう言うと、早速出発の準備を始める。
そして、ジスクはエマイユの方に改めて向き直ると、
「んじゃまぁ、改めてよろしくな」
彼はそう言うと、太陽のような明るく晴れやかな笑顔を見せた。
そして、彼女に握手を求めるように手を差し延べる。
彼女もまた、ジスクの笑顔につられるように微笑んでからこう返した。
「ええ。こちらこそ宜しく頼むわ」
差し出された手をしっかりと握るエマイユの顔には、一点の曇りも迷いもありはしなかった。
◆◇◆
──偶然なのか、それとも必然なのか。
どちらにせよ、邂逅を止めることは出来ない。
果て無き運命の輪が今、軋み始めた──…