第11話
エマイユの言葉に、2人は答えあぐねる様子で口を噤むばかり。
2人の内心としては、こんな手に余るものをいきなり手にする羽目になってしまいどうしてよいか分からないのだろう。
ふと、リアムは何かを思い出したようで、ジスクに話しかけた。
「でもさぁ、兄さんはその力を使いこなしたんでしょ?」
「ん…まぁ、そーゆう事になんのか?」
と、ジスクの答えは歯切れが悪い。
しかし、リアムはなおも食い下がる。
「その剣で、軍人達を追い払ったんでしょ?」
「まぁな。何かしんねーけど、剣を手にした途端、傷が治ってるし剣はすげぇ威力だし…あ、そうだ」
ジスクは、“軍人”と聞いて何かを思い出したらしい。
しかし、思い出すと同時にジスクの双眸は深い悲しみに支配された。
出来る事なら二度と思い出したくはなかった、けれど目を背けてはならない──いつか、自分自身の手で解決しなければならない事なのだから。
だが、リアムは彼のそんな気持ちに気づく筈も無く。
「あの軍人達の中にな…あいつがいたよ」
「あいつ?」
ジスクの真意を測りかねているようで、リアムはきょとんと首を傾げるばかり。
一方、ジスクはゆっくりと一呼吸置くと、躊躇うように重々しく口を開いた。
「…アスティだよ。あいつ…軍の大尉になってたよ。んで、形勢が不利だと分かると、とっとと逃げちまいやがった」
「え……!?」
つっけんどんに言い放ったジスクの言葉に、リアムは驚きのあまり言葉を失った。
驚愕のあまり目を見開いたまま、言葉を発する事を忘れてしまっているようで。
リアムにとって、ジスクの言葉は青天の霹靂に他ならなかった。
それでも、リアムは何とか声を絞りだす。
「ま…まさか…何でアスティがそんな所に!? それ、兄さんの見間違いだよね?」
しかし、ジスクは悲痛は表情のままゆっくりと首を横に振る。
「確かに…オレだって信じたくなかったけどよ。でも、あれは見間違いなんかじゃねぇ。正真正銘、アスティ本人だよ。しかも、向こうもオレの存在に気づいてたみたいだったけど…何の躊躇いも無くオレに殺意向けてきてたぜ」
あっさり言い切るジスク。開き直ったような、吹っ切れたような印象を受ける。
一方、リアムは震える肩を押さえながら、未だに耳に入り込んできた情報を受け入れる事を頭が拒否していた。
「そ…そんな…! 5年前に別れてから、ずっと会えなかったのに…まさか、こんな形で会うなんて…」
「ま、そんだけついてねーって事だな」
と、ジスクは自嘲ぎみにそう言い放つ。
口ではそう割り切っているものの、やはり彼の瞳には物寂しさが残っていた。
リアムもショックを隠しきれないらしく、俯いてしまったまま固く口を閉ざしてしまった。
辺りを支配するのは重苦しいばかりの静寂だけ。
その沈黙を破ったのは、エマイユであった。
「取り込み中申し訳無いのだけれど…アスティって…どなた?」
その言葉を聞いた途端、ジスクとリアムは顔を見合わせてしまった。
エマイユはそんな二人の様子を見て、訊いてはいけない事だったのか…と、今更ながら後悔する。
だが、後悔先に立たず。今更口から発した言葉を取り消す事など出来やしない。
そんなエマイユの内心など露知らず、ジスクは努めて明るく振る舞った。
「そーだよな。エマイユは知らねーよな。アスティ…本名はアスティ=レイナード。オレより一つ年下だ。あいつは、オレらの家の隣に住んでて…まぁ、幼馴染みってトコだな。あいつ、両親いなくて…だから、オレらが家族みてーなもんだった。でも…」
それきり、ジスクは言葉に詰まってしまったらしく口を閉ざしてしまう。
そんなジスクの様子にいち早く気づいたリアムが代わりに言葉を続けた。
「5年前にね、アスティは村を出て行っちゃったんだ。それで、それきり音信不通…。今日、5年ぶりに彼の消息が分かったけどね」
「村を…どうして?」
エマイユは2人の説明を聞いて、納得のいかない部分について訊いてみた。
しかし、2人は俯いてしまったきり何も語ろうとはしない。
特に、ジスクは辛そうに唇を強く噛み締めたまま、固く拳を握るばかり。
いつもは呑気な顔つきのジスクだが、普段の顔つきとは似ても似つかない程だ。
そんな2人の表情を見て、エマイユはこれ以上追及すべきではないと判断する。
これ以上訊いてはいけない…。きっと、触れられたくない事なんだ、とエマイユは悟った。