第10話
「ぼ…暴発…!?」
ジスクとリアムは、驚愕のあまり目を見開いたまま返す言葉さえ出てこないようだ。
「これって、暴発する程あぶなっかしいモンなのかよ」
特にジスクは、驚きを隠せない。
自分の左胸を押さえながら、理解出来ない、といった口振りでそう呟く。
「そう…ね。驚くのも無理は無いわ。私達も、一年前のその事件で初めて知ったのだから。ともかく…突然、巨大なエネルギーが暴走し始めたの。そのせいで、村どころか近くの森まで被害が出てしまって…大惨事だったわ。けれど…」
彼女はそこまで言うと、一旦間を置くように灰の奥に溜まった息を吐き出した。
そして、ほんの一瞬だが…彼女の瞳には、物寂しさが映っていた。
しかし、すぐに元の顔つきに戻ったため、ジスクとリアムがその表情に気付くことは無かったが。
エマイユは数秒の沈黙の後、ゆっくりと口を開いた。
「何とか、暴走を止めることに成功したの。それからは、さらに厳重に保管されたわ。…二度と、あんな事が起こらないようにする為にね。このまま、平穏に事が運ぶはずだったのに…」
「軍人達が、クリスタルの存在に気付き始めたんだね」
エマイユの言葉に続くように、リアムが口を開く。
それを聞いて、エマイユは無言で頷いた。
「どこからその情報を嗅ぎつけたのかは分からないけど…。おそらくは、彼らも暴発事件について、調べていたんでしょうね。
そしてその結果──私達一族に辿り着いた。彼らとしては、何としてもクリスタルを手にいれたかったのね。クリスタルの強大な“力”を意のままに操りたかったのか、それともこのような危険なものを、自分達の目の届く所で管理したかったのか…理由は分からないけれど。まぁ、私としては、後者の理由であってほしい所ね」
そこまで話し終えると、自分が知っている事はほとんど伝えきったと言わんばかりにふぅ、と小さく息を漏らすエマイユ。
一方、ジスクはふむふむ、と頷きつつエマイユへと視線をずらした。
「成程な…。やっぱり、アンタは何か重罪犯して逃げてた、って訳じゃなかったんだな。…なぁリアム、オレの言う通りだったろ? エマイユは嘘ついてねーって」
成程、と納得しつつ、エマイユを信じていた事を何故か得意げにリアムに話すジスク。
その一方で、良からぬ事に加担せずに済んだのを内心ホッとしつつ、リアムと言えば呆れ果てたように溜息を零した。
「今はそんな事言ってる場合じゃないでしょ…。ほんっとに、兄さんってば緊張感の無い…」
「何だよ?その言い方? お前がくどくど考え過ぎなんだろーが」
「兄さんが何っっにも考えてないぶん、ボクが二人分考えてるのっ」
何時の間にやらどんどん論点はずれていき、本筋とは関係ない不毛なやり取りになってきているような気がしなくもない。
そのうえ、只の兄弟喧嘩になりつつある。
そんな二人のやりとりを見て、エマイユはくすくすと忍び笑いをした。
エマイユが笑っているのが分かったのか、二人ともそろって彼女の方に視線を向ける。しかし、何故エマイユが口元に笑みを浮かべているのか分からずその表情には訝しげなものが浮かぶ。
すると、彼女はハッとなって思わず口元を押さえた。
「あ…ご、ごめんなさい。貴方達のやりとり見てたらおかしくなっちゃって。貴方達、本当に仲の良い兄弟なのね」
エマイユの言葉がよっぽど予想外だったのか、それとも納得しがたいものだったのかは分からないが、2人共どうにも納得しがたい表情で、
「あれが仲が良いっていうのかなぁ…?」
「だよなー、オレ達にとっては別に普通の事だし。まぁいっか」
リアムは仲がいいと言われたのがよっぽど心外だったのか、口を尖らせながらぶつぶつと小声で文句を零す。
ジスクもまた納得しがたいようではあったがあまり気にも留めていないようで、すぐさま気持ちを切り替えエマイユの方へと向き直る。
「軍人達がアンタを追っかけてる理由は分かったけどよ…何で、剣に姿を変えたりしたんだ? そのうえ、オレの体内に入りこんじまって、ひっぺがす事すらできねーし」
ジスクの問いに、エマイユは首を横に振った。
「それは、私にも分かりかねるわ。暴発の事件の話は、先程したでしょう? あの時は、暴走はしたものの今回のような事は一切無かったわ。それに…かつてそんな事があった、という記録も残っていないの。だから、正直私にも手に余る状態なのよ」