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世界アクター  作者: 糸冬すいか
第一幕
13/45

Act12:彼らは舞台袖で悪巧みをする

「いやぁもー疲れたーぁっ! 三味慰めてぇーっ」

「わっ、え、わあっ」

 跳びついた日塔目の勢いに巻き込まれ、西崎は押し倒されるようにソファーに倒れた。顔を真っ赤にして目を回す西崎に、鳶織が苦笑する。

「日塔目、放してやれよ。西崎そのままだと失神しそうだ」

「っていうか随分荒れてるねー。そんなにつまらなかったのかい」

 筧の問いかけに日塔目はぷくっと頬を膨らませた。あざとい仕草だが妙に似合っている。

「つまんないっていうかー、ある意味面白くはあったけど、性に合わない! わたしチマチマしたの苦手なんだもん」

「いっそ潔いほどに堕落だなぁ」

「日塔目は器用だし、やればできると思うんだけどな」

「わたし、他人に任せていいなら全力でそうするもの。そのためにも友達はいっぱいいるよっ」

「学年のマドンナが聞いてあきれる悪辣さだなぁオイ」

 筧は苦々しい表情でため息をついた。対人スキルに関しては、日塔目は4人の中で群を抜く。同学年のほぼ全員に名前が知られているというのだから驚きだ。性格の悪さをきれいに隠していることも驚きだが。

「それで、日塔目さんの収穫は? 定規はいつも通りで、西崎さんは人の痛みが分からないカッコ物理って感じだったぐらいらしいぜ」

「うわー、凄い。異世界に行ってもやってること変わんないねー」

 日塔目は西崎を放し、ポケットから小瓶を取り出した。中に入った滑らかな黒い液体から察するに、インク壷のようだ。もっとも、インクが海蛍が住んだように自発的に光っているあたり、なんとも異世界だ。

「多すぎる法力を扱いきれない人御用達、使い魔インクー」

「何故に猫型ロボット風……」

「そこら辺にいる動物を捕まえて、契約陣をこれで描く。すると、なんということでしょう……術者の法力が流れ込み、絶対服従のパワーアップ使い魔の完成な、の、だ!」

「……ポーズ、考えておいたのか?」

「うん。ノリで」

 鳶織の呆れたような言葉に、きらきらの笑顔で日塔目が頷く。気分はおそらく騎乗する仮面のヒーローだろう。

 鳶織の反応とは逆に非常に楽しそうな筧は興味をあらわにしてインクを覗きこんだ。

「使い魔ねぇ。ま、日塔目さんは後方支援っぽいし、下手に法術に手を伸ばすよりもそっちの方がいいか。動物ってどっかで手に入るのかい?」

「なんかそーゆうお店あるんだって。犬とか鹿とかサラマンダーとか売ってる」

「さすがファンタジー」

 犬と同列に幻獣が入っていた。

 西崎もようやく日塔目ダイブから回復したのか、やや火照った顔で覗きこむ。首を傾げ、インクを指さして口を開く。

「インクで書いて、濡れたり、皮剥いだりして、効果切れない?」

「西崎さん、相変わらずの血生臭い発想だね……」

 おそらくは毛皮か表皮に描くことを思えば順当な発想だが、微妙にグロかった。日塔目は手慰みに西崎の頭を撫でつつ、机に置いたインク壷を指さす。西崎は火照った顔がさらに赤くなった。

「なんかそこはファンタジーなインクらしくて、これと対になってる除去液じゃないと落ちないようになってるんだって。ちゃんと手順踏んで落とさないと、皮剥いでも同じように浮き上がってくるみたい」

「メラニン的な……いや、ファンタジーに理屈こねても仕方ねぇか」

「まあ、とりあえず不意に落ちるって危険は少ないのか。何匹も使役できるのか?」

「そこは術者との相性と技量と法力次第って感じかな」

 鳶織の疑問に応え、日塔目はそれで、と言葉を継いだ。今度はぎゅうと西崎を抱きしめる。おそらくは縫いぐるみ感覚なのだろうが、西崎は困り顔でうつむいた。

「これの使い道は決まってるとしてー。これからはどうするの?」

「このままいけば、そのうちお披露目でもして旅立つんじゃねぇの。まぁ……」

 にや、と。筧は悪そうに笑みを浮かべて視線を上げた。二人きりを見計らい、セシリアには監視の目を外すようにと要求した。もっとも、割に早い段階で監視はあきらめたそうだが。

 侍女も、小間使いもいない。完全に4人だけの空間。

 これを、手に入れたかったのだ。

「……時間がないのは、確かだ。おれの先読み(、、、)を使うのも限度があるしな。定規は引き続き戦闘訓練、西崎さんは定規指導で体を鍛えて。日塔目さんは……」

「今日から引き続いて法術授業、で教えてくれてる王子様を籠絡(、、、、、、)、でいいんだよね?」

「……いや本当、日塔目さんは敵に回したくねぇわ」

「あはっ、適性の力を使えば簡単なお仕事だよ。それに人間関係なんて恋愛含め、単なるシュミレーションゲームの応用だよっ」

「それを実践できるあたり、日塔目さんマジパネェ」

 いぇーい、と悪い顔をしてハイタッチ。普段は互いに貶しているようで非常に仲がいい。鳶織がはぁ、と大きくため息をついて言う。

「お前ら、悪巧みもほどほどにな。敵って訳じゃないんだし」

「まあ、味方でも、ないけど」

「西崎まで……俺だけか? おかしいのは俺なのか?」

「いいや、お前は正しいよ、定規。ただいつも通り、おれたちが演るのは悪役ダークヒーローだってだけさ」

「ダークヒーローって言うには卑怯で卑劣で卑小じゃない?」

「ちみっちゃい、っていうか、ただ我儘なだけ」

「そうとも我儘さ。だっておれたちは道理の通じない子供だからな」

 くす、と。筧は言動とは裏腹に穏やかな笑みを浮かべて言う。両手を大きく広げ劇的に、俳優が語るように、手品師が騙るように。

「子供なんだから子供らしく、自分勝手な理由で駄々をこねて我儘を通そうじゃないか?」

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