冷夏
「・・・まじか。」
灼熱の太陽の下、
家から最寄りのコンビニ、透明のドアには、
「経営が立ちゆかなくなったため、本店舗は来月で閉店することになりました。
ご愛顧まことにありがとうございました。」
と、達筆で書かれた紙が貼ってある。
このコンビニなくなったら、俺んちから一番近いコンビニ、1㎞先じゃねーか・・・。
やっぱここ田舎なんだなー。
このドアを開ける感覚、体に馴染んじゃったと言うのに。
まあいい。それなら、閉店まで通いつめてやるってもんよ。
キーッ
「いらっしゃいませー」
冷房が効いている。寒いくらいだ。
この時期コンビニにくる時は、大体アイスを買いに来るときだ。
このコンビニオリジナルの氷菓、「冷夏」を気に入っている。
今日もまっすぐアイス売り場に向かう。
ガラガラ
冷夏の、今日はブルーハワイ。
もう食べられなくなるのかと思うと、やっぱり感慨を感じる。
そんなことを思いながら、レジに向かおうとしたとき、
見慣れない、女の子がいた。
青い膝丈のワンピース。肌は白くて、髪は長い。雑誌売り場に佇んでいる。
今まで一度も見たことがない子だ。でも、すごく、きれいだ・・・。
でも俺はヘタレだから、とりあえずスルーしてレジに行き、店を出た。
翌日。
またコンビニへ向かう。
あの女の子がいないかなんて、馬鹿なことを思いながら。
涼しい店の中、ぐるりと見渡す。
やっぱ、いねーか。
ちょっと情けない気持ちになりながら、冷夏を取りにいった。
今日は、レモン味。
ついでにお茶も買ってくか。
並んだペットボトルとにらめっこしていると、横に気配を感じた。そっと見ると、
あの女の子が、いた。
「・・・ぅわっ」
やべ、驚いて声が出てしまった。
「・・・?」
女の子の、ビー玉のような瞳が、「何?」という視線を向けている。
真正面からみると、彼女はびっくりするほど可愛かった。周りの空気まで、水のように澄み切っている。
「ぁっ・・と、ごめんなさい。ちょっとびっくりしちゃって」
謝れない男ってさすがにないよね!
「・・・えへ」
驚かせちゃった、みたいな顔で、女の子が笑った。すっげ可愛い。
今日は黄色のブラウスを着ている。それと白のスカート。なんかフワフワした素材だ。何ていうんだろ?
「あ・・・っ、そんじゃ」
とりあえず、これ以上話している必要もないと踏み、レジに向かった。
女の子は、澄み切った微笑みで、こっちを見ていた。
その翌日も。翌々日も。翌々翌日も。もう、毎日。
俺はコンビニに行った。
その度、冷夏を手にした後くらいに、女の子は現れた。
「こんにちはっ」
「・・・!こんちわ」
「冷夏だ」
「あっ、は、はい。好きなんです」
「へえ。うふっ」
「?」
「あのね、私の名前も、レイカっていうの。おなじおと」
「そ、そうですか」
こんくらいの会話はするようになった。
でも、会話だけだ。それも、踏み込んだことは何も聞けない。
なぜ毎日コンビニにきてるの。それも、なぜいつも冷夏を買うときにいるの。なぜそんなに可愛いの。なぜ俺に話しかけてくれるの。聞きたいことは、山ほどあるのに。
コンビニが閉店する日は、もう明日だ。
「あー・・・。今日か・・・。」
いよいよ、今日でこの店の営業は最後になる。
俺も、この店での、最後の「冷夏」になる。
キーッ
「いらっしゃいませ。ありがとうございました、いつもいつも」
おばさんバイトさんが声をかけてくれた。
冷夏の入荷はかなり前から止まっていて、俺が手にしたイチゴ味が最後の一つだった。
「こんにちは」
レイカだ。
「こんちわ」
「最後だね」
「最後っすね」
「いっつも、冷夏買ってるんだね ありがとう。」
「・・・?」
なぜ彼女が礼を言う?
「へんなかおー」
いつものように、会計を済ませ、店を出る。レイカとは、結局、今までと違う関係にはなれなかった。
かと思った。が。
「ねえ」
店の外。レイカは着いてきていた。
今まで、絶対外で会うことはなかった。
「遊びに行ってもいい?
あなたの家。」
違う関係に、なれるのだろうか。
「・・・どぞ」
「おじゃまします」
「あの、きったない部屋だけど、座っててください アイスしまってくるし」
「食べていいよ?」
「え、いやさすがに、人来てるのに俺だけそういうのって・・・」
「別にいいよ?気になるなら、一口ちょーだいっ」
「はあ、そんなら・・・。」
スプーンを2つ。床に座り、さくさくと食べ始める。
「どぞ。ひとくち。」
「ありがとー」
さくり。レイカがスプーンを入れる。
山盛りひとさじ、うれしそうに口に入れる。
次の瞬間。
ぐいっ。
ちゅ。
レイカの顔が目の前にある。唇に体温と、生温かいイチゴ味を感じる。
どういうこっちゃ。
思考の追いついてない俺を尻目に、もうひとさじアイスをすくったレイカは、再度俺の頬に手を当て、すっと唇を奪った。
これは・・・、レイカは一体何を・・・。
「ななななな何ですか」
直視できずに下を向きながら話す俺に、レイカは、すっと抱きついてきた。
「真っ赤ー」
女の子特有の柔らかさを感じ、いろんな衝動がまとめて襲いかかってきたような、どうしようもない興奮に襲われる。
お前からしたんだ、別にいいだろ。
「ん」ぐいっ
「ちょ・・・!んぅ、はぁっ!あぁ・・・ふぁ・・・ん あっ ・・・」
レイカの艶めかしい声と、水音が部屋に響き渡る。冷夏は溶け出してきている。
「ぷはっ」
「・・・ひどーい。くるしかったんだから」
「すいません」
なんで急にこんなこと・・・?
「・・・んっとね」
レイカが口を開いた。
「あの店と、私を気に入ってくれてありがとう。
これからも、どこかで私を見つけたら、その時はよろしくね。
私、あなたが大好き。最後に出会ったのがあなたで良かった。
ほら、冷夏溶けてるよ?食べなきゃ!」
ピンとこないけど、これが最後であることは分かった。
冷夏を食べる。言われたままに。
ごくり
最後の一口を食べ終えた瞬間、隣からレイカは消えていた。
レイカ・・・
冷夏・・・
私を気に入ってくれてありがとう・・・
最後があなた・・・
「そういうことか」
ベッドにぽすっと倒れ込む。
レイカ。
冷夏。
君がくれたのは、
とっておきの、
麗夏。
つまりレイカちゃんは冷夏だったってことだよ文才なくてごめんなさい!