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超絶最狂学園  作者: 超絶暇人
4/13

第3話 優の過去、茜とアントニオンの秘密

こんにちは、または こんばんは。

今回は茜とアントニオンが一緒に闘います。

ちなみに武器はキャラ紹介がヒントです。

それでは。

 俺がまだ、この学園に入る随分前の、小学1年生の頃まで遡る。入学して一月程経った時だ、友達もそれなりに出来ていた俺は、いつも通り休み時間に教室で次の授業の時間まで遊んでいた。


 友達と(じゃ)れ合う中で、ふと読書に耽る一人の男の子が俺の目に入った。気になった俺は、友達の一人に訊いてみたんだ。


「ねぇ? あの子は?」


「あの子? あぁ、悟くんだよ。悟くん、いつも本ばっか読んでるんだ、何だか変だよね」


「ふーん……」


 男の子の名前は海道 悟(かいどう さとし)


 小学生の、しかも1年生だと言うのに寡黙で、友達と遊ぶ様子が無いその男の子は、本を見下ろす節で時々こちらを覗き見ていた。察しの付いた俺は、その男の子を積極して話し掛けた。


「ねぇ?」


「……ん?」


「悟くん、だよね?」


「そう、だけど……」


 男の子は、少し困った様子でこちらを見上げては、恥ずかしそうにか細い声で応じた。思った通り、彼は俺や俺の友達の輪の中に入りたかったんだ、でも今一歩踏み出せない所で手を拱いていたんだ。


「僕達と遊ぼうよ! 悟くんもさ!」


「え……でも……」


「良いから! 行こうよ!」


「あわわっ……!?」


 俺は、どうしたら良いかわからず目を泳がす男の子を無理矢理に手を引っ張って、俺の友達の輪の中に連れ出した。それからだ、俺と悟が仲良くなったのは。


 毎日休み時間に入っては悟を含めた友達でいつも遊んでいた。俺や俺の友達と悟は1年間を楽しく過ごし、気が付けば2年生にもなっていて、2年生になっても仲良しで居ようと、実に年相応の約束もした。


 そんなある日、悟は元気を無くしていた。気が弱くて引っ込み思案な悟だったが、その時の落ち込み具合はいつもの悟から決して窺えない悲しみに満ちた表情だった。


「如何したの? 悟くん? 何かあったの?」


「……何でも無い」


 嫌な予感がした俺は、その日の一日は悟を案じて、目を離さない様にしていた。付かず離れずの距離を保ち、やや遠目から悟を一定毎に観察していたら、下校の時間に、その時が来た。


「なぁなぁ悟くん、今日もちょっと良いかな?」


「ちょっとで良いからさ? ね?」


「……うん」


 俺と悟は帰り道が違うので一緒に帰る事は無かったが、下駄箱までは常に付き添っていた。だが、この時は俺に付き添うどころか、別のクラスの同級生数人と何やら校舎裏の人目の無い場所へと向かって行った。


 ふと校舎裏の壁際で止まると、同級生の一人は悟を壁に向かって突き飛ばし、ポケットに入れていたのだろう小さく丸まった紙くずを悟目掛けて投げ始めた。


「ウザイんだよ、良い子ぶりやがって」


「頭の良い事を自慢してんじゃねぇよ」


 寄って集って悟を蔑む発言を飛ばす同級生の数人を見て、俺は胸の辺りが騒がしくなってきた。ゴワゴワと、ドクドクと、バンバンと、無意識に抑えている『何か』を閉じ込め切れないでいた。


「ぼ、僕……自慢なんて、してない……」


「口応えすんなよ!」


 悟が自らの自慢を否定すると、体格の良い坊主頭の同級生がピンポン玉大の石を拾って悟に投げ付けた。その石が勢い良く飛来し、悟の頭に当たった瞬間、俺の中の、抑えつけていた『何か』が爆発した。






「お前等ぁッ!!! 悟を! 俺の友達をォ!! イジメてんじゃねぇぇぇッッ!!!」






 気が付いたら、俺の足下に悟をイジメていた同級生の数人全員が怪我だらけで泣きながら倒れていた。一部始終を見ていた悟曰く、物凄い勢いで走って来て全員を有無言わさず蹴散らした、とか。


 その後、俺は悟を虐めた連中を纏めて職員室まで引っ張って行き、担任の先生に話した。だがそれを聞き届けるより先に俺が叱られた。暴力を振るうなんて、なんて子だ、とな。


「うわっ、話もマトモに聞かないで優を叱るとか、最近の先生って腐ってるの?」


「最近のお子さんは意外と賢いですからネ、先生も色々気を回さないといけないのでしょウ。それに優さんは話を聞くに無傷みたいでス。恐らくそれも変に思われてしまった原因かも知れませン」


「確かに、俺は一度も反撃をくらわなかったらしい(・・・・・・・・・・)。記憶が無いんだ、余りにも夢中だったもんで」


「僕等が思う以上に世間の目は厳しい。なのに人は悪を容認するんだ。矛盾だらけの世の中に、子供と言う純真は生まれた時から汚されてしまっている。だからイジメは絶えない。自らの不幸を、要求を、何でもない誰かにぶつけて、それを良しとしたり、嘲る事を快楽とする。醜いモノさ、僕達大人も原因の一つであるのに、それに気付けない馬鹿さ加減には呆れるばかりだ」


 とは言え、それ以降から悟を虐めてた連中は二度と悟の目の前に現れる事は無かった。中には転校した奴も居たとかで、無事に悟は再びの平穏を取り戻す事が出来た。それから3年、4年、5年と年月を重ね、俺と悟は小学6年生になった。


 しかし、6年生になった時、俺と悟は別々のクラスになってしまった。今までクラス替えで別れた事など無かったのに、小学生の最後の年で遂に違うクラスになってしまった。

 だがクラスが変わったとしても、いつも通り仲良しだ。そう、思っていた……


 クラスが変わってから、悟と疎遠になりだした。以前まで学校が終わってからも遊んでいたのに、新しい友達も増え始めた俺は、そっちの方を優先してしまった。結果、悟は孤立してしまった。


 新しいクラスでも積極的な子は居たらしいが、それでも悟の状況は芳しく無かったとか。だが、それ以上にまた変な連中が悟に絡み始めたらしいと噂を聞いた。俺は翌日、悟と久しぶりに話でもしようかと思った。


 ところが、悟は学校に来なかった。クラス担任に訊くと、風邪だそうで早く治る事を願った。だが、待てども待てども、悟は一向に学校に来る事は無かった。そう、既に時は遅かった……悟は不登校になっていたんだ。


 丁度時期としても修学旅行が近づいていたので、家を知っていた俺は、余り使わなかったお小遣いを散財して大量の御菓子を買い、休みの日に悟の家に行った。インターホンを押すと中から悟のお母さんが出て来て、快く迎えてくれた。


「悟の為に態々ありがとう! 最近、悟元気が無いから、丁度良かった。優くんが遊びに来たと判れば、悟もきっと以前の元気を取り戻してくれると思うの!」


 悟のお母さんは実に気丈だった。悟は危惧していた通りらしく、今すぐにでも部屋へ行ってやりたかった。そして、俺は階段を上がり、勢い良く悟の部屋のドアを開けた。


「よぉ悟! 久しぶりだな! 元気無いって聞い……」


 それからの俺の言葉は止んでしまった。悟は部屋の天井に紐を吊るし、そこに首を引っ掛けてぶら下がっていた。首吊り自殺だ。


 時は既に遅かった、いや、遥かずっと前から遅かったんだ。俺がもっと早く気付いてやれてれば、こんな事にはならなかったんじゃないか? 俺が悟をもっと案じてやれれば、こんな結末にならなかったんじゃないか?


 思えば思う程、俺は自分への怒りが募っていき、同時にその所為で悟が死んでしまった悲しみも溢れ出して、その内に────


「うぅぅ……あぁぁぁぁぁ、あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!! うう゛ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!! あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あああああああああああああああああああああああああああああああああッッッ!!!!!」


 俺は我を忘れて泣き叫んでいた。俺の声に気付いた悟のお母さんが部屋を訪れ、愕然としてから部屋を直ぐに飛び出して行った。その中でも俺はずっと叫んでいた。叫ばずにはいられなかった。

 だって、俺の所為で悟は死んでしまった、俺の所為で悟が自殺してしまった。掛け替えの無い親友を、こんなにアッサリと失ってしまった。それが堪らなく悔しくて、憎くて、許せなくて、俺は全身に力を込めて渾身で叫んだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」



 ドッッッッババババァァァァァァァァッッ!!!



 叫んだ瞬間、俺の全身から青色の光が溢れ出し、直後に全身から爆発する様に噴き出して悟の部屋の物を全て吹き飛ばした。突然の事で我に帰った俺は全身から溢れ出す青色の光の流動に驚きを隠せなかった。


 その後、救急車とパトカーが駆け付けて、色々な事を片付けた。俺は悟が死んだ事が余りにも衝撃で、それからの記憶が殆ど無い上、修学旅行も休んだ。悟が死んで、一週間経ったある日、とある三人組が自分達が悟を虐めていたと告白した。


 俺は直ぐにでもそいつ等を殺してやりたかったが、やめた。それを悟が望むとは到底思えなかった。やがて三人組は警察で事情聴取され、相応の処分を受けたそうだ。俺はそれで良いんだと思った。


 悟の話はそれで決着した、だが俺はまだだった。俺の体に備わった妙な力……悟の一件以降、普段通りの生活をしている筈なのに、度々物を壊してしまっていた。筋力が異常な程上がっていたんだ。


 他にも飛ぶ蠅の動きを鮮明に見れる様になったり、走る速度もバカみたいに速くなった。高いところから飛び降りても平気だし、ボールがいきなり飛んできても音と空気の流れだけで避けられる。


「つまり、"覚醒"ってコト?」


「聞いた事がありますヨ! 人体の"覚醒"には様々な方法があるみたいですが、中でも最も有力なのが、脳に決定的な刺激を与える事でス!」


「つまりは、彼の、悟くんの死のショックを引き金とした覚醒って事だね。優くんに取っては、人生で最大の衝撃だったと言うワケだ」


「まぁそうだな。この力がある事が苦しいワケじゃないが、気を抜くといつもコップが手の中でバラバラになっちまう。制御するのに少し気を遣うのが難点だが、色々と便利にはなったさ。気は元から解ってたが、この波動ってのも俺の守る為の力に変わりは無い……もう二度と、親友を失いはしない」



 ────────────



 某所、人目の全く付かない地。山の中だが、舗装された道路が通る場所では無く、正真正銘人の踏み入らない場所に、奇妙な木が有った。数ある木の中で一際異彩を放ち、サイズも他のどの木よりも太く大きい。

 だが、実に木らしいフォルムをしており、景色に馴染んでいる上、そもそも人が立ち入らない為にその木を気に留める事も無い。


 ある、一つの不思議を除いて……




「────どうだい? 彼等の様子。何か変わった事とかあった?」


 モダンな雰囲気の部屋へと、一人の青年が訪ねて来た。部屋には巨大なモニターと、それに見合う膨大な量のキーが有るキーボード、そしてそれを操作する女性が居た。


「無いわね。至って普通、至って日常よ、今はね? さっきまで不良くん達と闘ってたわ。それで貴方が一番気になってる『優』くんとかが、全員やっつけちゃった」


「そうかぁぁぁいやぁ、期待した通りだ。やはり彼は素晴らしい、素晴らしい力を持っている」


 女性と青年が話す部屋へ、身の丈2mは超える一人の大男が横開きの自動ドアから入って来た。部屋に入るなり大男はモニターを見て直ぐに舌打ちをして、身の丈らしい大声で文句を言い始めた。


「ガキの監視などして何になる!? あの程度の雑魚共、一撃あれば十分だ。それをチマチマと闘いやがって、所詮あの小僧も雑魚に過ぎんと言う事だろう」


「まぁ落ち着きなよ、何の為に僕達がこの地球にやって来たかわかるだろ?」


「そうよ! 何の為に刺客を送ってると思ってるの? 私達はこの研究を成功させないといけないのよ。……ぁぁぁでもあの坊やを見てると何だか『ちょっと、変な事考えないでね?』……もう、わかったわよ」


 女性の恍惚の表情を見逃さず、青年は直ぐに諭す。この中でのリーダー格は、如何やら一番歳の低い青年であるらしい。っと、そこへ何処から現れたか、如何にもらしい筋骨隆々の男と、背中に真四角の鉄を背負った白髪の老人が青年達の背後に立った。


「やぁ、来たか君達。我々は今彼の強さと色々を研究してる。序でに彼のお友達もね……そこで、君達二人に、彼等との全力の闘いをお願いしたい。行ってくれるね?」


「主人に仕え、従うが武士の務め。御任せくだされ!」


「クックックッ……! 仰せの通りに……」



 ────────────

 優〜



「ふあぁ〜……眠いぜ、全く」


 あれから翌日……

 いつも通りの授業を受け、眠気を体内に蓄える日々。昨日の事が原因で、俺の途轍もない身体能力が学校全体に広まった。まぁそんな事は良いんだ、だってクラスメイトはこっち見ながら談笑するだけだし。


 しかし、昨日家に帰る時、唐突に視線を感じた。数は三人、三人に見られていたのを確かに憶えてる。この否応無く迫る、何だ、『虫の知らせ』って言うのが体の中でゴワゴワと、胸騒ぎと言うか何と言うか────


 俺が惚けつつも考え込んでると、不意にアントニオンが近づいて来て、俺の肩を指で突っつき意識を一気に呼び戻した。アントニオンを見上げて鼻で溜息を吐くと、そこからちょっとした劇場が始まった。


「どうしたんですカ? 元気が無いDeathネ」


「────おいアントニー、お前自覚が無いだろうから言うが、そのデスはdeathのデスですよ??」


「oh! そうでしたカ! それは大変失礼致し増しましタ!」


「ワザとなのか? マシが多いぞ、本当に増してるぞ」


「アントニーと優何してんの? 揃ってマンガみたいな事して」


「茜! これはマンガじゃない、小説だ!」


 突然、真横へ茜が近づいて来て、直後に委員長が横槍を入れて来た。見事なツッコミなのだが、突如進出してきたメメタァに瞬間困惑、そして俺はそれを右から左へ受け流して会話を繋げた。


「おいおい何で委員長が話に入ってくるんだよ?」


「すまん、おもしろそうだったからな。あとこれくらいのギャグ絡みは必要だろ? 色々と」


 もうダメだこいつ、波紋疾走張りにメタりやがってる。


(メタ)だな!? 生徒会の仕事しろ冨樫」


「冨樫じゃない板野だ! 俺は仕事も娯楽もキッチリ出来る奴が一番優秀だと解ってる。これも必要な事だ! じゃあな!」


「それはともかく、足元に気をつけなよ!」


「あぁわかっt────」


 茜は昨日の出入り口での惨劇を思い出し、危惧して警告する。その警告に応えようと後ろの俺達の方を見ながら走り、委員長が向き直った瞬間に教室の壁に顔面でメメタァした、あぁいや激突した。


「ごめん委員長、前だった」


「そう……だな。我が生涯一杯に悔い有り…… 」


「それは実に沢山未練がありそうですネ」


 顔を押さえながら右手を天高く振り上げて教室を後にする委員長を見て、アントニオンが最後に言葉を溢した。なかなか言いツッコミだと俺は感心した。

 唐突、俺は気配を感知した。数は二人……両方共明らかな殺意を向けて来てる。嫌な予感を察知するまでも無いかもな。


「たのもぉー! 此処に瀧沢 優なる少年は居らぬか!?」


 見事に気合いの入った男性の声が校庭から届く。こちらも見事に予感が的中した。取り敢えず徐に教室から校庭を見下ろすと、其処には日本の夜明けが近い某偉人に似た袴姿の体格の良い男と反対に近未来を思わせる白衣に身を包んだ白髪頭の小さい爺さんが俺の方を見上げていた。


「むっ? 居たか。瀧沢 優殿! 貴殿に決闘を申し込む!」


「少年、逃げようとしても無駄じゃぞ……! 儂等は何処へでもお前を追う故な……」


「──待ってろ、そっちに行く」


 俺は昨日の事を思い出しながら教室を出た。紫苑とか言う奴が言っていた本物が来るってのは、つまりあの二人の事か。確かに昨日の不良達とは違うモノを感じる。

 明確な差だ、片方は刀を腰に構えた男。積み重ねた経験を見て取れる。片方は何かを背負った老人。実力は判らないが、やっぱ背中の"四角い箱みたいなモノ"が気になるな。


 と、俺が素早く校庭に出て早々に、茜とアントニオンも何故か一緒に出て来た。俺が二人を気にする間も無く、目の前に立つ侍風の男が口を開いた。


「拙者は百多 刀路(ももだ とうじ)と申す。いざ尋常に勝負願う!」


「儂はバッカ=ナンデス・ボンクラー。其奴は1対1を望むらしいからの、暫く見物させてもらう」


 そう言うと、四角い塊を背負った老人は背を向けて歩き、離れて行く。俺が侍風の男を見据えて闘おうとした時、後ろから茜が高く跳躍して俺の前に立った。

 いきなりだ。茜は俺に背を向け、左手には登下校時にいつも携えてる旅行とかに使われる様な横長の肩掛けバッグが有った。


「その勝負待った。刀剣が相手なら、刀剣と対敵するのが普通でしょ。それで尋常ってのは、おかしくない? 侍さん」


「茜……お前、一体何を?」


「優、まず謝るね、ゴメン。私、優に黙っていた事があるの。実は私、ある流派の継承者でね? その流派は剣術で、名前は『龍虎二刀流』。本当の私はね、優────」


 茜は左手に持つバッグを地面に落とし、中から鞘に収まった刀を二本取り出した。取り出した二本の刀は無銘では無く、柄頭に漢字一文字で"朱"、もう片方にも"玄"と彫ってある。


「────龍虎二刀流第62代継承者、大島 茜なの」


 茜は少しこちらに振り向きながら、背中で名乗った。その背中は、女ながらに大きく見えたのは、決して過剰表現では無い。確かに逞しく感じ、確かに頼れる勇姿の背だ。62代と言う歴史の長さも頷ける。


「確かに、お嬢さんの言う通り。では、代わりにお嬢さんが相手をして頂けるのか?」


「そうだね、私はそのつもり。んで今さっき聞いたばっかだけど、百多って言うと、あの百多流だね?」


「さすがに御存知であったか。左様、拙者は百多流第18代目」


「何だ百多流って……」


「知ってますヨ、僕」


 突然アントニーが真横に現れた。知ってるって言うか、お前何でも知ってそうだよな、本当……


百多流(ももだりゅう)。起源は遡ること幕末時代、天然理心流の派生剣術として生まれましタ。天然理心流の使い手、"沖田総司"の三段突きをコンセプトとし、従来の思想をそのままに太刀筋の最速化を目指した高速剣術でス。1対1を目的としているので、狭い範囲で恐るべき力を発揮しまス」


「ほぉ、よく調べている。左様、拙者の剣術はかの天才剣士、沖田総司を超えた速さを目的として編み出された剣術。一瞬で100もの斬撃を容易く射てる(・・・)


「ふーん。で?」


「ん?」


「自慢はそれだけ? 悪いけどさ、その天然理心流の元を辿ると必ず私の龍虎二刀流になるんだよね。あんたの剣術なんて、既に解り切ってるし」


「ぐっ! おのれぇ! 我が剣術を愚弄するとは、女とてこの刀路、容赦せん!」


 刀路は見下されたと思ったのか、腰から真剣を抜き、猛然と茜に向かって行く。自らに向かって来る刀路を見て茜も二本の刀を傍に挟んで鞘から引き抜き、振り下ろされる一刀を二刀で防いだ。


「ぬッ!? 貴殿の刀、見た事があるぞ。その刀の長さ、柄巻の色、柄頭の文字、そして何より二刀流……まさか本物の"龍虎二刀流"なのか?」


「おぉっほ、信用してない口だったか。龍虎二刀流は男女関係無く腕が立つなら継承出来る最古の剣術。その元祖は、当然あんたも解るよね百多 刀路!」


 茜は言葉を言い終わると同時に刀路の刀を弾き、互いに距離を取って構え直す。確かに茜の持つ刀は刀路の持つ刀より短い。だが脇差よりは確実に長いと言える中間の長さ。

 考えてみると、二刀流ってのは現実的に見るとなかなか使い勝手の悪い剣術だ。何せ一本でも重い刀を二本扱う事になるんだからな。それを改善したのが、片方を脇差として構える"二天一流"。その開祖は言わずと知れた"宮本武蔵"だ。


 けれど元祖と言うと、言葉の行方としては『二刀流より前』って事になるよな? つまりどう言う事だ?


「……もしや、刀の生まれた時代に発足したと言う、まさか、そんな馬鹿な! 刀が生まれた時代から有った剣術など創作であろうが!」


「ところがぎっちょん、創作じゃなくてマジ話なんだわ。私の家は大昔、一刀流で四つの方角の神を宿らせた刀を自由に扱った。私の持つ刀が正にそう、初代の頃から使われてるのに、手入れが徹底されているとは言え、ここまで新品並に煌びやかっての、変だと思わない? 理由は、神が宿っているから。この神様ってのが、方角の守護者、その名も『四神(しじん)』、私の流派の始祖とはつまり、『四神一刀流』なんだよ!」


 茜は気合を入れて最後の一言を口にした。何だかよくわからんが、とにかく歴史が深そうってのはわかる。


「説明しましょうカ?」


「お、おう……」


「四神一刀流とは、文字通り四神を元にした剣術。遡ること刀の誕生した時代────生憎僕も詳しい時代は不明ですが、ある一人の霊媒師の青年が、その『刀』に惚れ込みましタ。青年こと大島 四緒璃(おおしま しおり)は大変優秀な霊媒師で、神降ろしも出来る天才だったとカ。そんな彼が刀を見た時、霊媒師の道から剣術者の道を選び、彼は武を発足しましタ。それが四神一刀流……発足の際、彼は四つの無銘の刀を用意し、最も自分と相性の良い神様、四神を刀に憑依させましタ。それが今茜さんの持つ刀でス。時代の流れと共に刀も姿を変え、最も優れた日本刀としての今の形をしているとありまス。

 そして宮本武蔵が開祖である二刀流に目を付け、四神一刀流はもっと効率良く四つの刀を活かせる様に二刀流に移行、同時に名前も対比の意味を込めて龍虎二刀流としたそうでス」


「もうお前ウィキペディアより凄いんじゃないのか?」


「そうですかネ? それは大変嬉しいでス!」


 アントニオンの説明を聞き色々驚いてると、茜と刀路が再び接近していた。硬くしなやかに鍛えられた鉄同士が直撃を介する軽快で且つ鋭い音と響き。触れれば忽ち対象を真っ二つにする事が可能な、日本が産み出した単純で一瞬の最強の武。


 茜の秘密、それは龍虎二刀流の継承者と言う事だ。だが、それが何だ? 心強いことこの上ないじゃないか。寧ろ打ち明けてくれてありがとう、凄く嬉しい。俺は感謝の気持ちで、それだけで胸が一杯だ!


「茜! 負けるな!」


 有り余った俺の気持ちは茜を鼓舞する言葉となって放たれた。その一瞬、茜は無数に刀同士をぶつけている中で、心なしか口元を緩めて微笑んでいたように見えた。


「なかなかやるな! ならば百多流奥義ッ! 百閃鍊磨(ひゃくせんれんま)!」


 刀路は技名を叫びながら茜に突進、直後に高速の刺突を連続で繰り出す。その時、茜の全身から白いオーラのようなモヤモヤとした流れが溢れ出した。同時に、茜は呟くようにして口を開くと……


「〈白虎〉!」


 次の瞬間には、刀路の首筋と手首に茜の二刀が添えられていた。詳しく説明すると、茜はいきなり加速して駆け出し、刀路の繰り出す高速刺突の連続を躱しつつ身を翻して、華麗に回転してから刀の刃を構える刀路の首と手首にソッと置いた。


 つまりはこう言う事、死んだ(詰んだ)


「う……」


「真剣とは言え、これはもう勝負ありなんじゃないかね?」


「……拙者の負けだ、殺せ」


「私ね、お父さんから常に本気でやれって言われてるけど、死ぬまでとは言われてないの。殺して欲しいってんなら介錯するのも吝かじゃないけど、もう死を覚悟した人は"死人"、死人はもう殺せないんだよね」


「────負けだ、剣士としても武士としても、お主はずっと強いな」


「何が剣士だ、何が武士だ、下らん心得なんぞ持ちおって、これだから古風は好かん」


 刀路は観念し、構えていた刀をソッと下ろした。だが水を差すように見物していたバッカ=ナンデスとか言う老人が文句を垂らす。そろそろこの老人と対決かと思った直後だ。


「優さン、僕も今この場を借りて、カミングアウトしたいと思いまス! 良いですカ!?」


 突然、アントニーが俺の前に出て来たので、少し茜の時の既視感(デジャヴ)がある。いやそれより、今度は一体何だ?


「え、アントニーどうした? お前も何か力有るのか??」


「えぇ、力と言うよりは、僕自身なのですガ」


「「え? 僕自身?」」


 ついつい聞き返したら茜と言葉がハモったぞ。お前もやっぱり気になるんだな茜。確かに幾ら帰国子女だからって妙だと思ってたんだ。だってめちゃくちゃ背デカイし、知識量が異常だし……


「何じゃ貴様、その体躯で儂を倒せると思っているのか? デカイだけが能だと思ったら大間違いじゃ!」


「要は質────と、仰りたいのですよネ? 言葉を遮るようで御免なさイ。ですがバッカ=ナンデス・ボンクラー様、アナタの言葉は実に正しイ……何故なら────」


 瞬間、バッカ=ナンデスの背負う四角い謎の箱が突如何の前触れも無く爆発した。その爆発に驚くも四角い箱を下ろそうとはしないバッカ=ナンデス、それよりも何故爆発したかが気になるみたいだ。


「な、何ぃぃぃ!? 儂の開発した技術の粋がぁぁぁぁぁぁッ!!?」


「何故なら、僕は質も良いですからネ。御言葉を悪くしますが、僕から言わせれば貴方の技術はミジンコですヨ、アンドロイドの僕からすればネ」


 ん? 何だって?


「アントニー、今何て言ったの? 私ちょっとボーッとしててさ、聞き逃しちゃったから……」


「お、俺からも頼む……」


「では今の言葉を復唱しますと、"何故なら、僕は質も良いですからネ。御言葉を悪くしますが、僕から言わせれば貴方の技術はミジンコですヨ、アンドロイドの僕からすればネ"、でス」


「アントニー、ミジンコですヨって後のワンフレーズをもう一回……」


「アンドロイド────」


「「それだッ!!!!!」」


「Oh……」


 また茜とハモった。そりゃそうだお前、アンドロイドだぞ? 聞いて驚かない筈が無いだろお前、なぁお前! と、アンドロイドで俺と茜が驚き、アントニーが引いてる頃、バッカ=ナンデスは憤慨に満ちていた。


「おのれぇぇぇ……! 一度ならず二度までも儂をバカにしやがったなぁぁぁぁぁ!!! 許さんぞッ!!!」


「そうですカ、では僕から貴方に一つ冷酷な預言を致しましょウ」


 アントニーはバッカ=ナンデスの方に向き直ると同時に右手を前に出して中指と親指をくっ付けて、他の指を柔らかに畳んだ。その右手は、まるで指パッチンみたく握られている。

 畳まれた指からは即座にパチンと指打ち音が鳴ると、そのままアントニーは人差し指をバッカ=ナンデス自身に向ける。そして言葉を告げた……


「次にアナタは"そんな指打ちの音で何が出来る? パーカッションがやりたいなら勝手にやってろ"と言ウ」


「そんな指打ちの音で何が出来る? パーカッションがやりたいなら勝手にやってろ……はっ!?」


「ホントにアナタは口が良く動きますネ。ところでバッカ=ナンデス様、足下に視線を移されては如何かト」


 状況を察したのか、バッカ=ナンデスは足下を見る前から目を見開き、次の瞬間にはバッカ=ナンデスの足下の地面が噴火の如く爆発し、伴って噴き上がる炎に押し上げられて遥か大空へと旅立ったとさ。


 一瞬で空へと飛び、見上げると数秒後にはキラリと光が見えた。あぁ、これはダメだ。


「アナタには、宇宙の全てを見る事をオススメしまス。ちなみに僕のアイレーザーは、一応最低出力だったんでス。それに耐えられないようでは……って、もう届きませんよネ。だって、大気圏は既に通過しましたかラ」


「「…………」」



 アントニーが闘う一部始終見ている為、開いた口が塞がらないでいる。と言うか格好良過ぎるだろアントニー、言葉の先読みって完全にアレのネタだけど、マジ格好良過ぎるだろ……


「その様子は驚いてくれたようだね、僕の発明を」


「「……はい?」」


 何だ? いきなりジャック先生が出て来たぞ?


「実はね、アントニオンは僕が造ったアンドロイドなのさ」


「「(呆)」」


 唐突、藪から棒とは正にコレだ。先生が突然現れて何を言うのかと思えば、自分がアントニーを造ったとさ……もう、どうにでもなれ。驚きの連続の余り、俺と茜はもはや呆れた。


「今まで隠していてすみませン。でも、いつか言おうと思ってたんですが、まさかこんな形になるなんテ……」


「何言ってんだよ、お前が何だろうと、俺等の親友には変わり無いだろ!」


「そうだよ! 私達は決してアントニーを嫌いにならないよ」


「優さン……茜さン……!」


「良い友達を持ったね、アントニオン」



 そんなこんなで、実は剣術者だった茜とアンドロイドだったアントニー。茜はともかくとし、アントニーのカミングアウトは驚いた。でも俺はそれを受け入れる。


 友達が正直に言ってくれたなら、それを快く受け入れる。それが友情、それが親友だ!







~続く~

今回は少し長くなりました。

長いと疲れますね。

次回は委員長と先生が闘います。

大変な事になりそうな気がします。

今日は以上です。

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