第2話 平和な日常……って何だぁ? ②
2話目です。
優が強いです!
元々、闘うんで良いと思ってます。
以上です。
それでは、楽しんで行って下さい。
某私立○○学園の校庭にて……
優の後を追い、私とアントニーは学校の校庭に出た。私達が急いでザッと20秒とちょっとは掛かる3階からの道程を優は10秒で到達した。ねぇ、あんたは一体私達に何を隠しているの?
「お前が、"たきざわ"か?」
髪の毛は紫、見た目の身長180cm程のリーダーらしき男が両手をズボンのポケットに入れたまま優に問い掛ける。リーダーの男の問いに応えて、優は自らの名前を口にする。
「そうだ、俺があんた等の言う"たきざわ"、瀧沢 優だ」
「おいおいおいおいおい! どんな凄え奴かと思ったら? ザ・普通じゃねぇか!」
「俺等は強い奴と闘りにきたんだぜ!? テメェみたいな優男とじゃねぇよ!」
「おい中坊、見逃してやっから早く別の"たきざわ"呼んで来い!!」
リーダーの男の周囲で不良達が優を嘲笑するが、一方で優は冷たく笑っていた。決して自らの愚かさを皮肉に思ってでは無い、己に挑む不良達の浅ましさを含み笑っている。
少なくても私はこの優の表情を見た事は、今を除いて一度も無い。
「良いからかかって来いよ、論より証拠って、知ってんだろ? それとも何か? おちょくるだけが強さなのか?」
また驚く事に、優は指招きで不良達を挑発する余裕を見せた。自身より実力が上の相手に対して並大抵の精神で行う真似では無い、私の知る限り、コレは、そうコレは、慣れている……そうとしか思えなかった。
「……ガキが、嘗めてくれるたぁ良い度胸してんな? なら希望通りフルボッコにしてやんぜェ!!!」
リーダーを除いた不良達全員が優の挑発に乗って襲い掛かる。目の前で私の友達が、掛け替えの無い大切な友達が、今不良達が頭上高く振り上げる鈍器に打ちのめされるのを見るしか無いのかと、私自身の無力さを悔いる瞬間────
「「「ぎゃああああああああああッ!!!」」」
不良達の悲鳴が一斉に上がった。
視線を逸らさずに前方を見た私の目には、信じられない光景が広がっていた。何故ならば、優の右手の拳の一撃が、その一撃のみが、不良達を、集団の大多数を蹴散らしていたのだ。
極めて強固な一撃であったのか、一撃を正面からマトモに受けた一人に巻き込まれ、ボーリングのピンの様に、いやそれ以上に、全てが野球の場外ホームラン並みに弾き飛ばされた。
一人は胸の中心に服の上からでも十二分に判るほどくっきりと拳の痕を付けられ、堪らず喀血していた。一人は校庭をボールの如く転がり、端のフェンスに激突して気絶した。一人は最初に飛んで来た一人の直撃に一番影響を受け、フェンスを遥かに超えて飛んで行ってしまった。
吹き飛ばされた不良達は最低でも目測20mはノーバウンドで吹き飛んでいる、でも普通の中学生がそんな並外れた怪力を、一体何処にそんな超力を隠していたと言うのか? 優、あんたは一体何者なの? 如何して私に教えてくれなかったの?
大多数が吹き飛ばされ、辛うじて助かり残された10人足らずは優の隠された実力を目前にして、白旗とも取れる程に腰が引けていた。しかしリーダーの男は汗こそ流せど表情は微塵も変える様子が無い。
「フッ……大した馬鹿力だ、お前一体何処でそんなん身に付けたんだ?」
リーダーの男が再び問い掛けると同時に残ったリーダー以外が優に向かって駆け出した。猛然と駆けて来る彼等の繰り出す攻撃を、優は目で追い、動き、躱し、拳を出し、足を出した。
優の格闘は素人目で見ても判るくらい我流で、動きに無駄が多かった。動きに無駄は有れども然し、そこから生じる隙に打ち込む迎撃には、これまた素人目で見ても判るくらい無駄が無かった。
優の動きは断じて達人では無く、その動作はハッキリ言って無為。だが、その無為が有為、寧ろ絶対的な無の隙としてしまう程、その無駄だらけの動きには一切として無駄が無かった。
達人ならどれだけ焦がれたか、この自然体から繰り出される隙を攻撃にしてしまう、この、動きを。幾千幾万続いた歴史にすら終止符を打ってしまう、この、無形を、彼は持っていた。
恐らく、天性の物であると、私は考える。
「何処で手に入れた? 気が付いたら有ったよ」
「気が付いたらぁ? 何だそりゃ、喧嘩の天才って事かよ」
「天才? 違う、これは才能じゃない。これは、贖罪だ……」
周囲にかなりの距離を於いて不良達の痛みに悶える姿があるも、それを他所にリーダーの男と優は言葉を介し始めた。その言葉の中で、優の聞き捨てならない言葉を私は逃さなかった。
贖罪って何? 一体何の事?
「如何した? 掛かって来ないのか?」
「抜かしやがれ。っとその前に、自己紹介をしておく。俺は松熾 紫苑、全力で行くぜ! 全力で来いよ!」
リーダーの男、紫苑は自身の名前を口にすると、直後に優に向かって全力疾走を行い、右拳を即座に構えて振るう。これを優は紙一重で右に躱し、透かさず頭を紫苑の顔に向けて突き出した。
攻撃を回避と同時に頭突きで迎撃、更にそこから態々体を左下へ捻り、上半身が下を向いて左足が上を向く後ろ回し蹴りを紫苑の顔に放った。優の動きは本来ならば人が容易には行えない身体の駆動限界を超えた運動をしている。
その証拠に後ろ足を態々上半身ごと下げて振り上げ、尚且つそこに回転をも加えている。この運動を手練れの格闘家が真似をしても足首、脚の腱や筋を痛め、またバランスを崩してしまい、とてもじゃないが実現するにも無理無為無駄の三原則だ。
でも、宙を飛んで体を振り抜き放つ回し蹴りと比べたらリスクは遥かに低い上に、飛び程では無いにしてもなかなかの威力を誇るのを、私は知っている。体が触れるくらいの至近距離でなら強力な蹴りとなるのは確かだ。
「ぐッあぁッ!!?」
左足の円軌道運動で紫苑を地面に叩き落とし、優の上半身を引っ張り上げると、紫苑は驚愕の強く込もった呻き声を張り上げた。でも気の所為か、周囲に転がる不良雑魚を蹴散らした時の攻撃よりもずっと弱いような……
不良雑魚は全てが一撃で昏倒したのに対し、紫苑は二撃受けて尚立ち上がろうとしている。彼が呆れる程頑丈なのか定かでは無いが、まず間違い無く言える事が一つ有る。
────優は絶対に本気を出していない。
「チィッ……ッラァァ!!!」
尽きぬ闘志を燃やして立ち上がり、両手の拳を構えた紫苑は再び優に向かって駆け出し、今度は拳を単発では無く連続で放った。其々が優の体の隙を捉えるも、空振りを繰り返し、剰え攻撃と同時に反撃のアッパーを顎に見舞われ、倒れる寸前となった。
その時、優の構えが僅かながら解け、その隙を見逃さなかった紫苑は直ぐ様左拳を優の顔面へ突き出した。この時初めて優は攻撃を喰らった、今迄が無傷だったのが奇跡だったかの様に。
「────」
でも、それ以降、紫苑の拳が動く事は無かった……何故なら────
「どうした? それで本気か?」
優の顔にこそ拳は触れているが、マトモに受けている筈の彼にダメージなど、これっぽっちも見受けられない。そして優は驚愕で目を見開く紫苑の左腕を掴み、一度真上に振り上げた後に地面に叩き付けた。
「がぁぁッはぁッ!!!」
ヤンキーの群れは全員、優に依って全滅した。
「どうだ? まだやるか?」
「か、勘弁しろ……もう無理だ。お前、桁外れに強いな、中学生のクセに」
「そうかい、言っとくがコレは、俺の過去の『罪』の産物だ、大して誇れるモノでも無い」
「過去にお前が何をしたか知らねぇが、気を付けろ……次からは俺達みたいな半端じゃなく、本物が来る」
「ん? どう言う事だ?」
「詳しくは話せないが、"奴等"はお前の力を狙っている。お前の力ならそれなりに対抗出来るかもしれんが、お友達はどうだろうな?」
力無く立ち上がりながら紫苑は優の後ろに居た私とアントニーを見て口元を緩ませた。その後、周囲に転がる不良雑魚を起こしながらその中の一人の腕を担ぎ、去り際に……
「くたばるんじゃねぇぞ……」
優にその一言を残して学園から出て行った。
「何だったの?」
「よくわかりませんが、優さんに何か話していましたネ、何か警告しているようでしタ。でも仕返し云々では無いみたいですヨ?」
────────────
優〜
「ふぅ、腹減ったな、今日の給食何かなぁっと」
一仕事ならぬ一戦闘終えた俺は、体が空腹を訴えているのを察知した。教室に戻ろうとして振り返ると、其処には俺の親友の茜とアントニオンが戦慄した様子で俺を見て佇んでいた。
「おぉ、二人共、言わなくて悪かったな。そう言う事だから、教室に戻ろうぜ」
「待って! ……優、あんた何で今迄黙ってたの?」
「黙ってたって言うか、言う意味が無かったしな」
「言う意味が無ければ話さなくて良いの? 何でもさ、話し合える仲の私達じゃ無いの?!」
「茜さン……」
茜が珍しく怒っている序でで泣いているのか、顔を俯かせて言葉が説教の様に強く出ていた。確かに俺と茜とアントニオンは親友だ、話さなかったのは悪いと思ってるが、こればかりはなかなか口に出来る事じゃない。
「悪かった……ただ、この事はまだ話せない、話したくない。でも、時期が来たらいつか話す、だから……」
「うん……それはさて置き────凄いねその力!」
情緒不安定なのかとツッコミを入れたくなる程に茜の態度は急転し、俯いた顔を上げて目を輝かせていた。突然の茜の変化にその隣のアントニオンも意表を突かれて少々慌てていた。
「そ……そうでス! 凄かったでス! 大変驚きましタ!」
「おい、そこで騒いでないで早く教室に戻れ!」
いきなり俺達三人を怒鳴り散らしたこいつは主人公では無く、サブの一人……
名前は板野 牛男、14歳、中等部2年生徒会委員長。
然程知り合った経験は無く、初対面と言っても過言は無いくらいだ。
銀縁眼鏡を掛けているザ・優等生な奴だが、一つ欠点を挙げるならそれはかなり可哀想なモノだ。
牛男は怒鳴った直後にこちらに向かって来る、態々上履きから靴に履き替えて、ちゃんと靴紐も結んで。しっかりと靴を履いて速歩きで向かって来るところ、自らの足を絡めて顔から転倒した。
「ぶッッッ!!?」
石も無いのに転けた、さっきも言ったが自分の足を絡めて前倒した。あれだけしっかりと紐を結んで靴を履いておきながら、それとは全く関係の無い要素で顔面を地面へフィニッシュ。
皆まで言うな、これは痛い(いろんな意味で)
「そんな転倒で大丈夫か?」
「大丈夫だ、問題無い」
絶対大丈夫じゃないから、それ絶対ダメなヤツだから、そのセリフを口にして何とかなった試しは一回も無いんだって。茶色の顔してるし、やっぱり今回もダメだったよ……で次に回されるだけの結末しか無い。
「それじゃあ、戻るとしますかね」
「待って、優その前に保健室行こ」
「何だよ、俺は別に大丈b『良いから行く!』はぁ?」
突然茜は俺を引っ張って保健室に無理矢理連れて行った。真新しく綺麗な白いスライドドアを開き、俺と茜とアントニオンは保健室に強行入室した。
「おやおや? 誰だい、ノックも無しに入室なんて……君達は?」
部屋の奥から現れたのは、同じくサブの一人……
名前はジャック・ヴァラン、23歳、学園の保健室の先生。
容姿端麗、温厚篤実、そして日本とフランスのハーフで名前はアメリカっぽいが、日本名もフランス名ちゃんと有るらしい。
「先生、何やら人の持つ能力が判るって言ってたけど、優の持つ力、ちょいと調べてよ」
「────そう言えばそんな事を言っていたかな? まぁ良いよ、こちらに来て座ってくれ、外の騒ぎは君だろ優くん。僕がじっくりと診てあげよう」
「おい何か疑われる様な言葉口にしてんだけど、容姿が容姿だから余計そう思えるんだけど」
茜に背中を押されてジャック先生の目の前の椅子に座らされ、直ぐに先生の手が俺の体に服の上から当てられた。すると目を瞑って先生は集中を始めたが、3秒してから先生は開眼して椅子に座ったまま軽く後ろに吹き飛んだ。
「ちょっ、先生!?」
「……いたた、この力は人が持つには重過ぎる」
「どうなの?」
「優くん、君の力はその"異常な身体能力"と、体の内に流れる『気と波動』を扱う力だ」
「何でわかるんだ? 俺も知らなかったぜそんなの」
「先生は、相手の健康状態がわかるの」
「まぁ、これはその応用だがね。今回のは少し危なかった、君の波動に弾かれたからね。何か理由があるみたいだが、話せない事だったりするのかな?」
「────いや、丁度良いから、少しだけ長話をするよ。俺のこの力の原因を」
続く
次回はキャラ紹介です。
ちなみに松熾 紫苑はこれ以降出ません。
それでは、また次回。